【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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姪と僕とのグルメ事件簿

第2話「姪と僕と、インドカレーと昆虫の光」

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【プロローグ:スパイスの香りと奇妙な光】

 東京・荻窪。
 午後五時を過ぎた街は、夕暮れの風にスパイスの香りが混ざり始めていた。商店街の外れ、小さなインドカレー専門店「ナーランダ」の看板が、パッと蛍光灯に照らされて灯った。

 「おじちゃん、今日のカレーはバターチキン?」

 そう聞くのは、保育園帰りの姪・ひかり(5歳)。手には昆虫図鑑、背中にはてんとう虫型のリュック。僕──高城真(たかぎ・まこと)、33歳、弁護士。日々案件に追われながらも、姪の保育園のお迎えと夕食は僕の“仕事”になっている。

 「ひかり、今日はスペシャルメニューだって。『ミステリー・ビリヤニ』って書いてある」

 「ミステリー!? 虫入ってないよね?」

 そんな冗談を言いながら入った店の奥で、僕たちは奇妙な光景に出会うことになる。

【第一幕:不可解なビリヤニ事件】

 店内に入ると、香ばしいスパイスの香りと、どこか鉄のような匂いが混ざっていた。

 厨房の前では、店主のバルマさんが何やら青ざめた顔をしていた。

 「……すみません、今日は……営業できません」

 カレーを目当てに訪れていた客がざわざわと帰っていく中、僕たちだけがその場に残った。

 「厨房で、何かが……爆発したんです」

 案内された厨房の中では、蛍光灯が一部破損し、カウンターには焦げた匂いと共に、何か黒い破片のようなものが散らばっていた。

 「虫……じゃないよね? これ」

 ひかりが破片をのぞき込みながら言った。

 僕は破片の一部を拾い上げ、見覚えのある形に眉をひそめた。

 「これ、LEDじゃない。蛍光灯の……しかも、改造されてる」

【第二幕:謎の昆虫マニアとビルの裏】

 カレー店があるビルの裏手には、小さな昆虫ショップ「Bugs&Glow」がある。

 ここには“蛍光昆虫”という、紫外線に反応して光る外骨格を持つ昆虫が展示されていた。店主の大江翔太(おおえ・しょうた)は、奇抜な髪型に黒ぶち眼鏡の青年。

 「ビリヤニに蛍光灯? あ、それ、多分うちのLED誘虫ライトじゃないっすかね」

 「誘虫ライト?」

 「虫、特に甲虫系は紫外線に集まるんすよ。改造した蛍光灯、仕込まれてたら……虫が集まって、最悪死ぬっすよ」

 まさか、と思いながらバルマさんに尋ねると、昨日夜中に天井から奇妙な“羽音”が聞こえたという。

 調べていくうちに、事件の背景に浮かび上がってきたのは、近隣店舗間の“営業妨害”だった。

【第三幕:光る昆虫とカレーの陰謀】

 実は、数軒隣の洋食チェーン店「ベル・エトワール」がここ半年、売り上げを落としていた。

 店長の宮永は元々「ナーランダ」で雇われ店長をしていたが、独立して失敗し、因縁があったという。

 誘虫ライトを仕掛け、天井裏の通気孔から甲虫を大量に送り込んだ。狙いは、衛生問題の演出。

 しかし、誤って高圧蛍光灯を改造して使ったことで、過熱とショートが起き、厨房の一部が損傷。

 昆虫たちの死骸がスパイスの香りと混ざって、異臭騒ぎへとつながったのだった。

【最終幕:小さな証拠と姪の一言】

 決定的な証拠となったのは、ひかりが拾っていた“昆虫の羽根”。紫外線に当てると、鮮やかな緑色に光った。

 「これ……あの昆虫ショップのやつだ!」

 大江の証言と照らし合わせると、それは特定の業者しか取り扱っていない種類。

 宮永の裏ルートの仕入れが発覚し、営業妨害と器物損壊での立件が可能となった。

【エピローグ:スパイスと、光る未来】

 事件解決後、バルマさんは厨房を修復し、「蛍光灯ビリヤニ」のジョークメニューを作った。ひかりはそれを見て笑った。

 「虫入ってないよね?」

 「安心しろ、これは野菜だけだ」

 ひかりと僕の、奇妙な日常は、今日もカレーの香りと共に続いていく。

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