【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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姪と僕とのグルメ事件簿

第3話「姪と僕と、魚介ラーメンと九九のスーツ男」

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【プロローグ:魚介スープと不思議な男】

 雨上がりの昼下がり、商店街の人気ラーメン店「濃厚しんじょ屋」の前には、珍しく行列がなかった。

 「おじちゃん、今日は並ばなくていいんだね!」

 姪・ひかり(5歳)は、幼稚園の帰り道に僕の手を引きながら、嬉しそうに言った。

 「そうだな。でも、なんだか変だな……」

 僕──高城真(たかぎ・まこと)、33歳、弁護士。姪のお迎えとグルメ巡りが、日常の癒しとなっている。

 店内に入ると、魚介の濃厚な香りに混じって、どこか金属的な焦げ臭さがあった。

 そして──カウンターの一番奥の席に、妙なスーツ姿の男がひとり、動かず座っていた。

【第一幕:九九とスーツと沈黙】

 「いらっしゃいませ……あの、すみません、少しお時間を……」

 店主の深谷が声を潜めて言った。

 「実は……あのお客さん、30分前から動かないんです。ラーメンには一口も手を付けてなくて……」

 見ると、男の前には湯気の消えたラーメン。背広は濡れてしわくちゃ、顔色も悪い。

 「……具合が悪いのかもしれません。呼びかけていいですか?」

 僕が声をかけようとしたとき、ひかりが男に近づいて──ぽつりと呟いた。

 「九九、言ってた……さっき、ひとりで」

 「え?」

 「“くろくは……ろくじゅうし……?”って。ちがうよね?」

 男の口元がわずかに動いた。

【第二幕:九九が意味するもの】

 救急車を呼ぶかどうか迷っていた矢先、男がようやく口を開いた。

 「……ラーメン、食べちゃ、ダメだ……数字……数字が、合わないんだ……」

 その意味不明な発言の中に、僕の法的嗅覚が何かを感じ取っていた。

 男は税理士・伊集院と名乗り、某食品会社の不正会計に関わっていたという。

 「……魚粉の仕入れ……キロ単位でずれてる……数字が、九九で割り切れない……」

 意味不明に聞こえるが、実はそれは、会社ぐるみの“仕入れ水増し”の手口を指していた。

 「魚介系のだしを取る乾物……日数で分配すると、計算が合わない。九九の掛け算からずれるんだ。誰かが……ごまかしてる」

 彼はその証拠を持ち出し、逃げる途中でこの店に立ち寄っていたのだった。

【第三幕:スーツの中の真実】

 男が着ていた濡れたスーツの内ポケットには、ラーメン店とは無関係に見える“税務データ”の控えと、USBが入っていた。

 そのUSBを調べると、某有名ラーメンチェーンの経営母体「KYOグループ」が、実際には仕入れていない魚介素材を“架空請求”し、税金対策を行っていた記録が。

 そして、“濃厚しんじょ屋”も、そこから仕入れていた被害者だった。

 「うちは正規のルートで買ってたはずなのに……。でも、たしかに最近、味が安定しなくて……」

 味の乱れは、品質の変化ではなく“仕入れ量の水増し”による希釈のせいだったのだ。

【最終幕:姪の九九と真の告発】

 決め手となったのは、伊集院が最後に口にした九九の言葉。

 「くろく、は……」

 「くろく? 9×6=54だよ?」とひかりが元気よく言った。

 「そう、54キロのはずが、在庫は60キロ。6キロがどこから来たか、帳簿に記録がない。なのに請求には“60”とある」

 まさに、そこに架空の水増しが隠されていた。

 証拠をまとめ、僕は伊集院を保護した上で、検察に提出。

 事件は「架空仕入れ詐欺事件」として報道され、KYOグループ幹部数名が事情聴取を受けることになった。

【エピローグ:ラーメンの湯気と九九の意味】

 後日。

 店を再開した「濃厚しんじょ屋」では、深谷が笑顔でこう言った。

 「今度はちゃんとした魚介で出汁取りましたよ。味、確認してみてください」

 「うん、おいしい!」

 ひかりはにっこり笑いながら、ラーメンをすすって九九を唱える。

 「さんしちにじゅういち、はちごは……ごじゅう!」

 「あれ、それ九九じゃないな」

 「だって“九九”じゃなくて“九十九”まで覚えたいんだもん!」

 僕は、ラーメンの湯気の向こうに、未来を見た気がした。
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