【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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姪と僕とのグルメ事件簿

第4話「姪と僕と、バスクチーズケーキとビー玉の謎」

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【プロローグ:甘くて焦げた、あの匂い】

 午後四時、雨上がりの都心の裏路地に、ほんのり甘く焦げた匂いが漂っていた。

「おじちゃん、今日はケーキって言ってたよね!」

 ひかり(5歳)が小さな長靴を鳴らしながら、花屋の前で立ち止まった。僕──高城真(たかぎ・まこと)、弁護士。今日の目的地は、この路地裏にある花屋「花咲く窓辺」の二階。そこに週末限定でオープンするバスクチーズケーキ専門のカフェがあるのだ。

「焦げてるのが美味しいって、なんか変だよね」

 ひかりはそう言いながら、花屋の店先に並ぶ紫陽花の鉢植えに目をとめた。そのとき──

「すみません……どなたか、警察を……」

 カフェの階段から、花屋の店主・水川知世(みずかわ・ともよ)が蒼白な顔で降りてきた。

【第一幕:ケーキと、割れた窓と、ビー玉】

 現場は花屋の2階。元々は倉庫だった部屋がカフェに改装され、落ち着いた木製の内装とアンティークの食器棚が印象的だった。

 だが、その食器棚の前に──ビー玉が散らばっていた。

「……誰かが棚を開けようとして、割ったみたいです」

 食器棚のガラスが粉々に砕けていた。

「ケーキは無事だったんだけど、何か盗られたのかも……」

 警察に通報したものの、被害はなし。ただ、窓の外側には泥のついた靴跡。そして床にはバラバラになったビー玉。

「このビー玉、誰の?」

 ひかりが言った。

「……あたし、保育園にいるとき、こういうの使ってた。ガラスの瓶に入れて、観葉植物の飾りにするやつ」

【第二幕:元恋人と、隠された花言葉】

 調べていくと、水川さんには元恋人──近くの古本屋を営む男・吉沢祐介(よしざわ・ゆうすけ)の存在が浮かび上がってきた。

 彼はカフェのインテリアの設計にも関わっており、内装の鍵や構造を知っていた。

「彼……最近様子が変だった。『ビー玉の中に隠された秘密』って、よくわからないこと言ってて……」

 吉沢が通っていた小さな園芸教室の講師・白川美桜(しらかわ・みお)に聞くと、ビー玉はある種の“目印”として、鉢植えの土の中に埋めることがあるのだという。

「それが盗掘や密売に使われることも、実はあるんです。特に珍しい花の種や球根を隠す手段として」

【第三幕:ケーキに隠されたパスワード】

 その夜、僕たちはひかりと共に、割れた棚に残されたレシピノートを見つけた。

 そこには、バスクチーズケーキの焼き時間が手書きで書かれていた──「焼き25分、冷却180分、飾り:青・白・黄」

「これ、旗の色じゃない?」

「ビー玉も、その3色だったよ!」

 ひかりの言葉で、僕はピンと来た。

 吉沢がかつて水川に贈った鉢植えの中──今は店先の大きなアジサイの鉢──に、その色のビー玉が飾られている。

 掘り起こしてみると、中から耐水フィルムに包まれたメモと、小さな袋が出てきた。袋の中身は、盗品ではなかった。希少なブルーアマリリスの球根だった。

【最終幕:真実と、再会と、焼きたての甘さ】

 吉沢は、「あの球根をもう一度咲かせたかった」と語った。

 それは、花言葉に「再会」「秘めたる願い」が込められたもの。

 かつて一緒に育てたブルーアマリリスが再び咲いたら、やり直せるかもしれないと──。

 事件に悪意はなかった。ただ、不器用な愛情と、ほんの少しのすれ違いが招いた“割れたガラス”だった。

 ケーキを焼き直す水川さんの背中を見ながら、ひかりがぽつりと言った。

「ねえおじちゃん、今度うちでもお花育てようよ」

「いいね。……でも割らないように気をつけてくれよ」

 ふたりのやりとりを背景に、今日も都心の路地裏に、甘く焦げた香りが漂っていた。

 
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