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姪と僕とのグルメ事件簿
第12話「姪と僕と、はちまきマスターの密室ケーキ事件」
しおりを挟む【プロローグ:甘いケーキと、熱い挑戦状】
「おじちゃん、あたし、きょうは“スイーツけいさつ”だから!」
土曜日。僕、高城真(33歳・弁護士)は、姪っ子のひかり(5歳)を連れて、都内のとあるカフェイベントに来ていた。
『スイーツ甲子園・プレ大会 in 南青山』──プロも素人も参加できる、町おこし型スイーツコンテスト。
そのメイン会場で、ひときわ注目を集めていたのが、【カフェ“森の滴”】店主・武藤草太(むとう・そうた)のブースだった。
彼の出品作は、「自家焙煎オーガニックコーヒーで仕上げたシフォンケーキ」。しっとりとした口溶けと、香り立つビターな風味が人気の逸品だ。
だが──その試食会の直前、事件は起きた。
武藤のケーキに「異物」が混入していたのだ。
しかも、誰も出入りしていない控室の密室状態で。
【第一幕:はちまきを巻いた挑戦者たち】
「異物って、虫とかじゃなくて……“鉄片”なんですって」
スタッフの話によれば、ケーキの中から出てきたのは、鋭利な金属片。誰かが意図的に混入させた可能性が高い。
武藤はショックを受け、うなだれていた。
「僕が寝ずに焼いたのに……なんでこんなことに……!」
ひかりが、周囲をきょろきょろと見渡して言った。
「なんかね、さっき、ケーキのとこに“はちまきのおじさん”がいたよ」
参加者の一人、“和スイーツ道場”の職人・木場勝(きば・まさる)は、イベント中ずっと赤いはちまきを巻いて目立っていた。
彼は和菓子にこだわる頑固者で、以前から「洋菓子ばっかり目立ちすぎだ!」と吠えていたという噂も。
防犯カメラを確認しようとしたが──なぜか控室付近の映像だけが、ブツ切れになっていた。
【第二幕:シフォンケーキの“層”と時間の穴】
僕は控室を確認する。
シフォンケーキは透明なカバーで覆われ、冷蔵ケースの中に保存されていた。出入り口は一つ。鍵も壊されていない。
つまり、外部から誰かが侵入した形跡はない。
さらに奇妙なことに、ケーキは複数個焼かれていたが、異物が見つかったのは1個だけだった。
「……これは、あとから“すり替え”られた?」
防犯カメラの映像を何度も見返すうち、ひかりが言った。
「おじちゃん、これ、へんじゃない? さっきの“はちまきおじさん”、ここにいなかったはずなのに、ちょっとだけ映ってるよ?」
彼女の指摘でわかったこと──映像がブツ切れになる“直前”の1秒だけ、赤いはちまきの男の影がフレームにちらりと映っていた。
【第三幕:ケーキの香りと、復讐のレシピ】
ケーキの表面には、ごく微かに“ある香り”が残っていた。コーヒーとは異なる、強いバニラ香。
「……これは、武藤のレシピじゃない」
決め手は、使われた小麦粉だった。
通常、武藤は北海道産オーガニック小麦を使っているが、異物混入ケーキの中には“海外製の添加粉”が混じっていた。
つまり、ケーキはそっくりに見えて別物だったのだ。
そして──
真犯人は、武藤の元同僚で、イベント運営スタッフの一人・小池沙耶香(こいけ・さやか)だった。
彼女は、過去に武藤との意見の対立からカフェを去り、長年の怨みを抱えていた。武藤が名声を得るにつれ、自分だけが評価されないことに耐えられなくなっていた。
彼女は、試作品をすり替え、はちまき姿の木場を“目撃させる”ことで、そちらに疑いを向けようとした。
防犯カメラの映像を一時的に停止させたのも、彼女の担当エリアだったからこそ可能だった。
【最終幕:姫の鋭さと、シフォンの真実】
「わたしね、ケーキ、ほんものとにせもの、ぜったいわかるよ」
ひかりが指差したのは、スタッフルームのゴミ箱。
そこには、ラップに包まれた“本物のシフォンケーキの切れ端”が。
「さっきのおねえさん、ちょっとだけ味見して、“うぇっ”て言って、捨ててた」
──味見のときに、うっかり本物と比較してしまったのだ。
その切れ端から、DNA(唾液)が検出され、沙耶香の犯行が確定。
彼女は涙ながらに言った。
「私のレシピも、あの人に一部、盗まれてたんです……でも、あの人ばっかり、賞賛されて……」
「気持ちはわかる。でも、ケーキは嘘をつかない。だからこそ、堂々と勝負すべきだったんです」
【エピローグ:あたため直したら、もっとおいしい】
事件後。
武藤のカフェで、本物の“オーガニックコーヒーのシフォンケーキ”を姫と食べる。
「やっぱり、これはほんものの味だね」
「そだね。あと、おじちゃんは……あの赤いはちまき、似合わないよ」
「……地味に傷つくな」
甘くて、苦くて、温かい。
スイーツと事件の真実は、いつも近くにある。
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