【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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すしネタ探偵!シャリの上にも三年

【第1巻:マグロと泡だて器と消えたトレーナーの謎】

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「マグロが……泣いてる」

 朝イチでネタケースを覗き込んだ平っちは、真顔でつぶやいた。

「ほな目ぇ拭いたれや、ガリでな」
「それ、涙じゃなくてドリップやん!ってツッコんでくれるとこやん!」

 バイトリーダーのイサキちゃんは、今日もツッコミ全開である。ちなみに彼女の声量は、寿司ロボのブザー音と互角。

 ここは都内某所の回転寿司チェーン「グルグル寿司 本店」。
 今日もシャリとともに回るのは、酢飯と謎と、ボケとツッコミだ。

 その日、事件は昼営業の直前に起きた。

「店長ォ!冷蔵庫のマグロが……全部、赤くなってます!」

「赤いのは普通だろォォォ!」

 店長の海老沢、通称エビテンの見事な江戸っ子ボイスが店内に響きわたる。
 
 だが、問題はそこじゃない。冷蔵庫の棚に置かれていた泡だて器とトレーナーが、忽然と消えていたのだ。

「泡だて器はともかく、なんでトレーナーが冷蔵庫に!?」
「オレの私物なんよ!昨日の帰り寒くて、干してたのよ!厨房で!」

「衛生的にアウトやん!いやツッコむとこ多すぎて泡立ちそうやわ!」

 バイトたちの混乱のなか、一人、黙ってシャリを握っていた平っちがふとつぶやく。

「この事件、シャリっと解いてやるぜ」

「黙ってても寒いけど、その決めゼリフはさらに寒いわ」

 昼の営業が始まっても、厨房はざわついていた。

「泡だて器がないと、デザートの抹茶ムースが作れませんッ!」

 泣きそうな新人バイト・ユウキ。彼は今日が初勤務。なのにいきなりムース担当という謎人事。

 そんななか、事件はさらに転がる。

「イカが出てないぞ!イカの皿が一周もしてねえ!」

 なんと、人気のイカネタがまるごと消えていた。

「マグロの次はイカやて!?イカれてるわ!」
「寿司だけに、ネタが尽きないね~」

「もうええわ!」

 イサキちゃんのツッコミが厨房中に炸裂したとき、平っちはそっとスマホで防犯カメラを巻き戻していた。

「……いた」

 映っていたのは、深夜3時に忍び込む人影。それはなんと、昨日来店していた常連客──緑色のトレーナーに黒パンツ、そして泡だて器を腰にさしたパン職人風の男だった!

「つまり、こういうことだ」

 平っちが厨房のホワイトボードの前に立ち、板書開始。

1:昨夜、緑のトレーナーの男が来店
2:彼は泡だて器に異様な執着を見せていた(防犯映像より)
3:帰り際に、「この泡だて器、いいですね」と意味深発言
4:深夜に侵入、泡だて器とトレーナー(自分の)を持ち去る
5:ついでに冷蔵庫のマグロを全部「自分の手でなでて」から持ち帰った

「なでただけ!?」

「うん。ドリップの出方が不自然。なでたことで温度変化が起きて、色が変わっただけ」

「なんでそんな変態的な犯行!?」
「愛情だよ。彼は“ネタフェチ”なんだ」

 そこに警察が到着。トレーナーを証拠に男を特定。逮捕。

 犯人の供述によると、彼は「泡だて器とマグロの肌触りを同時に楽しみたかった」という、誰にも理解されないフェチ心を爆発させたらしい。

「まさかネタへの愛が犯罪に変わるとはな……」

 呆れるイサキちゃんに、平っちはウインクして言った。

「でも、犯人の心は泡立ってた。だけど、オレの頭の中はもっとフワフワしてた!」

「一回保健所呼ぶわ!」

 ツッコミの声とともに、厨房には笑い声と、今日も新鮮なシャリが流れていく。

「すしネタ探偵、シャリっと解決!今日もネタがウマい!」


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