【完】姪と僕とのグルメ事件簿【ミステリーオムニバスシリーズ1~4】

国府知里

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すしネタ探偵!シャリの上にも三年

【第15巻 イワシとキリンと歯磨き粉と恋ゴコロ(再び)】

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 昼下がりのグルグル寿司本店。回転レーンには寿司が流れ、厨房ではイサキちゃんが大声を上げていた。

「平っち!冷蔵庫に歯磨き粉入ってたで!?」
「えっ、それオレの『食後に口がさっぱりする試作メニュー』やねん」
「ほぼテロや!」

 そんな騒ぎの中、事件は回ってきた。

 レーンの上に、謎の紙袋が流れていたのだ。中を開けると、イワシの握りが一貫と……なぜかキリンの置物。

「イワシとキリン!? 生態系どうなっとんねん!」
「サバンナに魚群が来たらびっくりするわな」

 しかし、問題はそこじゃない。袋に添えられたメモには、こう書かれていた。

「このネタ、誰にも渡すな」

 しかも──差出人の名前は、

「拓真(たくま)」。

 イサキちゃんが、ぴくりと眉を動かした。

「……タクマって、あの“イサキの元コンビの相方”のタクマやないかい!」

「え!?マジで!?なんでネタじゃなくて寿司に乗ってきたん!?」

「平っち、これはただの寿司じゃない。“恋の火種”や」

 どうやらタクマ、最近YouTubeでバズり中の芸人にして、「ネタも寿司も冷めないうちに」が持ちネタのカリスマ系。しかも今日はこのグルグル寿司に、「コラボ寿司開発」の打ち合わせで来るらしい。

 そして、現れた男は──

「よぉイサキ。久しぶり。俺のキリン寿司、どうだった?」

 ロン毛。タートルネック。歯が白い。なんか光ってる。

 「まさかの、元芸人がキリンマニアになって帰ってきた!?」
 「いや、そこよりキリンの置物で告白してくるセンスにビビるわ」

 タクマはイサキにさりげなく言った。

「昔、お前が言ってたよな。“一緒にイワシのネタで天下とろう”って。あの夢、まだ叶えてないよな?」

 イサキ、まさかの無言。
 平っち、ちょっとだけ焦る。

「えっ?ちょっと待って、オレのシャリは?オレのツッコミ受信機はどこ行った!?」

 しかし、イサキは顔を背けてこう言った。

「……あの頃は夢見てた。でも、今は」

 そのとき、事件が起きた。
 厨房からバイトのヤマトくんが叫ぶ。

「キリンの置物に……Bluetoothスピーカーが仕込まれてました!! 中から爆音で“サバンナチャンス”が!!」

「爆音!?」
「ってことはこれ、寿司型スピーカー!?」

 タクマが真顔で言う。

「それが俺の新プロジェクト、“耳で食う寿司”や」

 「なにそれ!?完全に“食い気味のボケ”やん!」

 そしてタクマ、最後にイサキへ視線を向ける。

「俺と、もう一回ネタ組まないか?」

 場が静まる。

 イサキ、そっと呟く。

「……タクマ、あんたはたしかにネタはうまい。でもな」

「うん」

「うちの平っちは、歯磨き粉を冷蔵庫に入れてドヤ顔するんや。そんでスベるんや。……でもな、なんかそのスベリが、ちょっとだけ、愛おしいんや」

 平っち、放心。

「えっ、オレ今、愛おしまれた!?」

 タクマ、笑って肩をすくめた。

「……そっか。イワシはイワシでも、お前が選んだのは“人肌のシャリ”ってわけか」

「よっしゃ!寿司界のラブコメ幕開けや!」

「バカ!言うな!!」

 こうして事件は解決(?)し、置物スピーカーは「しゃりスピーカー」としてキッズ向け景品に。

 その夜、イサキがぽつりと言った。

「なあ平っち、もしウチが今も芸人目指してたら、またコンビ組んでくれてた?」

「組んでたよ。オレ、ずっと“ツッコミ待ち”で生きてるからさ」

「……アホやな。けど、ありがとう」

 キリンは知らない。シャリの上の青春の味を──。
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