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すしネタ探偵!シャリの上にも三年
【第15巻 イワシとキリンと歯磨き粉と恋ゴコロ(再び)】
しおりを挟む昼下がりのグルグル寿司本店。回転レーンには寿司が流れ、厨房ではイサキちゃんが大声を上げていた。
「平っち!冷蔵庫に歯磨き粉入ってたで!?」
「えっ、それオレの『食後に口がさっぱりする試作メニュー』やねん」
「ほぼテロや!」
そんな騒ぎの中、事件は回ってきた。
レーンの上に、謎の紙袋が流れていたのだ。中を開けると、イワシの握りが一貫と……なぜかキリンの置物。
「イワシとキリン!? 生態系どうなっとんねん!」
「サバンナに魚群が来たらびっくりするわな」
しかし、問題はそこじゃない。袋に添えられたメモには、こう書かれていた。
「このネタ、誰にも渡すな」
しかも──差出人の名前は、
「拓真(たくま)」。
イサキちゃんが、ぴくりと眉を動かした。
「……タクマって、あの“イサキの元コンビの相方”のタクマやないかい!」
「え!?マジで!?なんでネタじゃなくて寿司に乗ってきたん!?」
「平っち、これはただの寿司じゃない。“恋の火種”や」
どうやらタクマ、最近YouTubeでバズり中の芸人にして、「ネタも寿司も冷めないうちに」が持ちネタのカリスマ系。しかも今日はこのグルグル寿司に、「コラボ寿司開発」の打ち合わせで来るらしい。
そして、現れた男は──
「よぉイサキ。久しぶり。俺のキリン寿司、どうだった?」
ロン毛。タートルネック。歯が白い。なんか光ってる。
「まさかの、元芸人がキリンマニアになって帰ってきた!?」
「いや、そこよりキリンの置物で告白してくるセンスにビビるわ」
タクマはイサキにさりげなく言った。
「昔、お前が言ってたよな。“一緒にイワシのネタで天下とろう”って。あの夢、まだ叶えてないよな?」
イサキ、まさかの無言。
平っち、ちょっとだけ焦る。
「えっ?ちょっと待って、オレのシャリは?オレのツッコミ受信機はどこ行った!?」
しかし、イサキは顔を背けてこう言った。
「……あの頃は夢見てた。でも、今は」
そのとき、事件が起きた。
厨房からバイトのヤマトくんが叫ぶ。
「キリンの置物に……Bluetoothスピーカーが仕込まれてました!! 中から爆音で“サバンナチャンス”が!!」
「爆音!?」
「ってことはこれ、寿司型スピーカー!?」
タクマが真顔で言う。
「それが俺の新プロジェクト、“耳で食う寿司”や」
「なにそれ!?完全に“食い気味のボケ”やん!」
そしてタクマ、最後にイサキへ視線を向ける。
「俺と、もう一回ネタ組まないか?」
場が静まる。
イサキ、そっと呟く。
「……タクマ、あんたはたしかにネタはうまい。でもな」
「うん」
「うちの平っちは、歯磨き粉を冷蔵庫に入れてドヤ顔するんや。そんでスベるんや。……でもな、なんかそのスベリが、ちょっとだけ、愛おしいんや」
平っち、放心。
「えっ、オレ今、愛おしまれた!?」
タクマ、笑って肩をすくめた。
「……そっか。イワシはイワシでも、お前が選んだのは“人肌のシャリ”ってわけか」
「よっしゃ!寿司界のラブコメ幕開けや!」
「バカ!言うな!!」
こうして事件は解決(?)し、置物スピーカーは「しゃりスピーカー」としてキッズ向け景品に。
その夜、イサキがぽつりと言った。
「なあ平っち、もしウチが今も芸人目指してたら、またコンビ組んでくれてた?」
「組んでたよ。オレ、ずっと“ツッコミ待ち”で生きてるからさ」
「……アホやな。けど、ありがとう」
キリンは知らない。シャリの上の青春の味を──。
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