【完】Nurture ずっと二人で ~ サッカー硬派男子 × おっとり地味子のゆっくり育むピュア恋~【ブルーモーメントオムニバス1~2&5】

国府知里

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【シリーズ2】あの日君とみた空はこんなにも届かない

【第5章 胸の奥が、どうしようもなくざわつく】

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 楽しかったはずの帰り道。
 なのに俺の胸の奥には、冷たい何かが居座っていた。

 ***

「最近、ちょっとだるくてさ。朝、起きるのもしんどいの」

 ファミレスでプリンをつつきながら、優菜は軽く言った。
 何気ない口調。でもその手は、スプーンを持つのにも少し苦労していた。

「大丈夫? 風邪とかじゃなくて?」

「うーん、わかんない。母さんにも病院行けって言われてるんだけど、ほら、テスト前だし」

「テストなんて、どうでもいいよ。無理するなよ」

「でも……智くんと約束してたでしょ。次の模試、一緒に受けるって」

 笑ってみせたその顔は、やっぱり少しだけ痩せていた。

 俺はその時、胸の奥がざわっと波打つのを感じた。
 嫌な感じ。冷たくて、不安なものが、じわじわと広がっていく感じ。

「……なあ、本当に病院行こうよ。付き添うからさ」

「……そうだね」

 優菜は、ちょっとだけ目をそらして、うなずいた。

 ***

 検査結果が出るまで、一週間かかった。

 俺は毎日、心ここにあらずだった。
 授業も、バイトも、ノートに書いた文字すら頭に入らない。

「智、どうした? 顔色悪いぞ?」

 そう声をかけてくれたのは、親友の佐野だった。

「いや……ちょっと、彼女の体調が悪くて」

「……ああ、吉田さんか。そういや最近、あんまり元気なさそうだよな」

 佐野のその言葉が、胸に刺さった。

 自分だけじゃなかった。他人の目にも、彼女の異変は映っていたんだ。

 俺は、そのことに、どうしようもなく怖くなった。

 ***

 土曜の朝。優菜の家の最寄り駅で待ち合わせた。

「ごめんね、こんな時間に」

「いや、こっちこそ。ありがとう、付き添ってくれて」

 病院までの道すがら、彼女は何度も謝った。

 俺は、そのたびに「謝らなくていい」って言った。
 でも本当は、こっちの方こそ、怖くてたまらなかった。

 待合室の時計の針が、やけにうるさく感じた。

 ***

 診察が終わって、ふたり並んでベンチに座っていた。

「……ちょっと、大きな病院に紹介されちゃった」

「え?」

「先生がね、“念のために”って」

 “念のため”という言葉ほど、怖いものはない。
 それがただの風邪や疲れじゃないことを、俺はこの時、悟った。

「何か……あるの?」

「うん。でも、まだわからないって。精密検査してみないと」

 優菜の声は穏やかだった。むしろ、俺より落ち着いていた。

 だけどその手は、ずっと俺の袖をぎゅっと握ったままだった。
 まるで、何かから逃げようとしているみたいに。

 ***

 その夜、布団の中でスマホの画面を見つめながら、俺は初めて“病気”について検索した。
 “だるさ” “手の震え” “体重減少”──候補に出てくるワードの数々に、呼吸が浅くなる。

 がん
 膠原病
 神経系疾患
 難病

 どれも、現実味がないようで、でも、怖くて仕方なかった。

 俺は、スマホを伏せて目を閉じた。

「……何もありませんように。何もありませんように」

 祈るしか、できなかった。

 でもこの時、心の奥ではもう、何かが崩れ始めていた。

 君の笑顔の奥にある、見えない何かが。
 俺の目をそっと避けているような、君の沈黙が。

 そしてそれが、
 “ただの風邪”なんかじゃないことを、
 俺は、本能的に感じてしまっていた。
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