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【シリーズ2】あの日君とみた空はこんなにも届かない
【第10章 すべての風景が、きみと見た最後の景色】
しおりを挟む夏が終わりに近づくと、朝晩の空気が少し冷たくなってきた。
病院の窓から見える木々の葉が、すこしずつ色を変えていく。
あの日、花火大会の夜を境に、優菜の体調は少しずつ崩れていった。
毎日会っていても、わかる。ほんのわずかに、歩くスピードが遅くなり、話す言葉が減っていく。
でも──優菜は笑っていた。
「ねぇ、今日も窓際に座りたいな」
「うん、椅子持ってくるね」
ベッドから起き上がるのも、だいぶ時間がかかるようになった。
それでも、彼女は窓辺で外の風景を見るのを、決してやめなかった。
夕陽が差し込む病室で、俺たちは並んで外を見ていた。
グラデーションの中で雲はゆっくりと形を変えていく。
「智くんって、泣いたりする?」
「……たまには」
「私のことで、泣いた?」
「……いままで、何回も」
正直に言ったら、優菜は少しだけ笑って、俺の手を握った。
「うれしいよ。泣いてくれて。……だってさ、生きてるって、そういうことじゃん」
「……そうなのかな」
「そうだよ。人のことで悲しくなったり、うれしくなったり。そうやって気持ちが揺れるって、生きてる証拠じゃない?」
彼女の言葉は、どこまでも優しくて、強かった。
それでも、ふいに訪れる沈黙の時間が、少しずつ長くなっていった。
***
ある日、優菜が病院の中庭まで行きたいと言った。
体調の波を見て、医師も許可を出してくれた。
俺は彼女を車椅子に乗せて、ゆっくりと病院の廊下を押した。
中庭に出ると、風が少しだけ冷たくて、でも陽の光はやわらかかった。
「……あのさ、智くん」
「ん?」
「この空、覚えててくれる?」
彼女は見上げて空を見た。
「今日の雲の形も、風のにおいも、木の葉の揺れも……全部、覚えててほしいの」
俺は彼女の横にしゃがんで、その目線で空を見上げた。
「覚えてるよ。ぜんぶ、忘れない」
「うそつき」
「……ほんとだよ」
優菜は笑った。
その笑顔が、少しだけ悲しげで、でもどこまでも綺麗だった。
「じゃあ、私も。智くんの顔、ちゃんと覚えてる」
「ばか、それは忘れないでよ」
「うん、忘れないよ」
中庭の空は、静かで、やさしかった。
その景色すべてが、ふたりだけのもののように思えた。
もしかしたら、これが一緒に見る最後の空かもしれない。
でも、だからこそ──
一秒ごとに、心が震えるほど、すべてが愛おしかった。
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