【完】Nurture ずっと二人で ~ サッカー硬派男子 × おっとり地味子のゆっくり育むピュア恋~【ブルーモーメントオムニバス1~2&5】

国府知里

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【シリーズ2】あの日君とみた空はこんなにも届かない

【第9章 夏の花火がふたりの願いを打ち上げた夜】

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 その日は、昼から晴れていた。
 夏の空はどこまでも高く、入道雲がゆっくりと流れていた。

「行ける? 無理そうだったらやめてもいいから」

「行きたい。どうしても」

 優菜はベッドからゆっくりと体を起こし、看護師さんと相談して許可をもらった。
 点滴の針を外し、冷房の効いた病室から一歩出た彼女は、まるで別人のように凛としていた。

 俺は、病院の玄関で彼女を待っていた。

 浴衣姿の優菜が、ゆっくりと歩いてきた瞬間──息を飲んだ。

「……似合ってる」

「ふふ、智くんも。甚平、かわいい」

 照れくさい言葉を交わしながら、タクシーで会場へ向かった。
 車内のラジオでは、夏祭りの情報が流れていた。

 ***

 河川敷には、浴衣姿の人がたくさんいて、屋台の匂いが混ざっていた。
 俺たちは、少し離れた静かな場所を選んで、レジャーシートを敷いた。

 空が、すこしずつ藍色に染まり、やがて──夜になった。

「始まるよ」

 パン、と小さな音がして、第一発目の花火が空を割った。

 夜空が一瞬、昼のように明るくなり、優菜の顔が淡く照らされた。
 彼女は目を細めて、空を見上げていた。

 次々に、赤、青、金、緑の花火が打ち上がっていく。
 俺たちの目の前で、空が虹色に燃え上がった。

「ねぇ、智くん」

「ん?」

「生きてるって……すごいことだね」

「……ああ、ほんとに」

「今日みたいな日があると……明日も、生きていたいって思う」

 その横顔は、どこまでも静かで美しかった。
 俺は、言葉を失ったまま、彼女の手を強く握った。

「智くん。好きだよ」

「……俺も、好きだ」

 花火が、空いっぱいに咲いた。
 まるで、ふたりの気持ちを代弁するように。

 その一発一発が、願いのように夜空へと舞い上がり──

 やがて、夜の静寂の中に、吸い込まれていった。

 ***

「ありがとう。今日、来れてよかった」

「俺も」

 帰りの車の中、彼女は眠るように目を閉じていた。
 窓の外に映る夜の街が、ふたりをやさしく包んでいた。

 この夜のことを、きっと俺は一生忘れない。

 そして、あの夜空に咲いた花火も──

 優菜と見た、最初で最後の、夏の奇跡だった。
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