38 / 60
【シリーズ2】あの日君とみた空はこんなにも届かない
【第9章 夏の花火がふたりの願いを打ち上げた夜】
しおりを挟むその日は、昼から晴れていた。
夏の空はどこまでも高く、入道雲がゆっくりと流れていた。
「行ける? 無理そうだったらやめてもいいから」
「行きたい。どうしても」
優菜はベッドからゆっくりと体を起こし、看護師さんと相談して許可をもらった。
点滴の針を外し、冷房の効いた病室から一歩出た彼女は、まるで別人のように凛としていた。
俺は、病院の玄関で彼女を待っていた。
浴衣姿の優菜が、ゆっくりと歩いてきた瞬間──息を飲んだ。
「……似合ってる」
「ふふ、智くんも。甚平、かわいい」
照れくさい言葉を交わしながら、タクシーで会場へ向かった。
車内のラジオでは、夏祭りの情報が流れていた。
***
河川敷には、浴衣姿の人がたくさんいて、屋台の匂いが混ざっていた。
俺たちは、少し離れた静かな場所を選んで、レジャーシートを敷いた。
空が、すこしずつ藍色に染まり、やがて──夜になった。
「始まるよ」
パン、と小さな音がして、第一発目の花火が空を割った。
夜空が一瞬、昼のように明るくなり、優菜の顔が淡く照らされた。
彼女は目を細めて、空を見上げていた。
次々に、赤、青、金、緑の花火が打ち上がっていく。
俺たちの目の前で、空が虹色に燃え上がった。
「ねぇ、智くん」
「ん?」
「生きてるって……すごいことだね」
「……ああ、ほんとに」
「今日みたいな日があると……明日も、生きていたいって思う」
その横顔は、どこまでも静かで美しかった。
俺は、言葉を失ったまま、彼女の手を強く握った。
「智くん。好きだよ」
「……俺も、好きだ」
花火が、空いっぱいに咲いた。
まるで、ふたりの気持ちを代弁するように。
その一発一発が、願いのように夜空へと舞い上がり──
やがて、夜の静寂の中に、吸い込まれていった。
***
「ありがとう。今日、来れてよかった」
「俺も」
帰りの車の中、彼女は眠るように目を閉じていた。
窓の外に映る夜の街が、ふたりをやさしく包んでいた。
この夜のことを、きっと俺は一生忘れない。
そして、あの夜空に咲いた花火も──
優菜と見た、最初で最後の、夏の奇跡だった。
0
あなたにおすすめの小説
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話
そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん!
好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。
ほのぼのラブコメというか日常系小説
オチなどはなく、ただひたすらにまったりします
挿絵や文章にもAIを使用しております。
苦手な方はご注意ください。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

