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記録 Ⅳ:トレィス
★記録Ⅳ-7:pabellón
しおりを挟む「お顔は見せた方が、カッコいいですよ」
シィカはそういって、目の前のプレマルジナの前髪を小さな手で分ける。
「でも、プレマルジナ。ちゃんとご飯食べてますか?ほっぺたがガリガリですよ?」
「食べてますよ。ありがとう。今もご飯を取りに来たんだ。君たちの食事中にすまないね」
そう言ってプレマルジナは立ち上がると、シィカの頭をなでて、台所へ向かう。
デシィのプレマルジナは、1ヶ月程度の筐体乗り換えで、恐らくここにいる二人のプレマルジナに比べ、若い。
三号は、マリューナがトレサについていってからの十年ちょっと、本部を運営するために砲撃処理には出ていない筈。
なら、このドウシィのプレマルジナとやらは?
デシィのプレマルジナより年齢を重ねていて、三号よりは若い。
『トレィス、シィカが“不安”です』
耳元でポステアの声がする。
見れば、シィカはテーブルに戻って、おれの顔をじっと見ていた。
おれにはシィカの“不安”は読み取れない。
ポステアは、バイタルデータで読み取ったのだろう。
「ごめんね、どうした?」
読み取れないんだから、聞くしかないと思ったんだが、
「トレィスが一番カッコいいですよ」
と言ってきた。
彼女の“カッコいい”の定義はなんなんだろう?し、なぜ、わざわざそれを言い出したのか。
「だから、焼きもちは不要です」
耳元から、笑い声が聞こえる。
三号は淡々と食事をしているし、ポステアの声ではない。
…………マリューナか!
『あったり~!シィカは君が、No.12にヤキモチ妬いたと、思ってるんだね~おもしろいね~あ!あんまり黙りしてると、シィカはトレサ譲りの妄想を発揮するからね!ま、面白いけど』
一方的にそう捲し立て、静かになる。
なるほど、ポステアたちはこうして、人工生命体たちとやり取りしていたのか。
──────────────
次の日、三号とおれは中央中枢――お父さんの本体に”会い”に行く。
居住区とは別にある、塔のような建物。
ここは、おれが出来た場所でもあるし、デシィが出来たのもここだろう。
三号に導かれて扉を開け中に入る。
と、また扉。
最初の扉が閉まり、風が出る。
「エアシャワー、ですね」
風が止まり、目の前の扉が開き……これを5回繰り返す。
「着替えなくても入れるようにとの配慮らしいですよ」
目の前にいるのは三号なのか、マリューナなのか。
ふてぶてしさはないから、きっと三号なんだろう。
扉を抜けた先には何もない。
ただ中心に、地にはついていないように見える柱。
冷やかな暗い部屋。
「憶えてる?」
三号がいつの間にかマリューナに変わっている。
「ポステアに抱かれて、外に出たんだよね?なんとなく……憶えているような気がする」
それを聞いたマリューナがクスッと笑う。
「誰の記憶だろうね……」
聞き返したけど、マリューナは答える気は無いみたいだ。
「さ、次行こ!次!」
──────────────
二階。
ここは知ってる。
おれとトレサが出来た場所。
じっと見つめるポステアは、あの位置にいたのだろう。
「懐かしい?」
「懐かしいって何?ここに、何の気持ちもないけど」
「ポステアが悲しむよ?」
「ポステアが?悲しむの?」
「君の誕生を心待にしてたんだから」
あの、鋭い視線は、心待だったと云うのか。
「ま、ちょっと固かったけどねー」
ちょっと…?
三階、四階は通り抜けただけだった。
「ここは?」
「トレィスにはまだ衝撃的かも知れないから、中まで見なくてもいいよ。そのうちがっつり入らなきゃだけど」
「?」
「ここには、ポステアやプレマルジナが何体もある。心の準備、必要じゃない?」
「何体…ああ、スペアがあるってことか。砲撃処理のためなんでしょう?」
「同じ顔がずらーって並んでるんだよ?怖くない?」
「ポステアはともかく…プレマルジナは怖いかもな」
「でしょ?だから、今日はスルーしよ!」
見せたくないものは、きっと別にあると思って、マリューナの後を追った。
──────────────
五階は、それまでの階とは明らかに違って、明かり取りの窓から外の明かりが差し込んでいた。
もっとも、外の明かりもドームのエメフィラを通したものだけど。
白い扉の前に、プレマルジナが立っている。
昨日の…ⅻか。
「ここは?」
三号――マリューナか?今はどっちなんだろう――に聞く。
「No.12…ドウシィが安置されています」
『ドウシィ。つまり、デシモテルセロの母親だよ』
耳に届く声が、マリューナ何だろう。
でもどうして直接話しかけてきたんだ?
『そこには、ⅻが、いるだろう?聞かせない方がいい』
扉の前に、立ち尽くすように立っているプレマルジナ…彼は一体何をしているのだろう?
「待っているんです。一月に3日だけ、扉が開いてNo.12の世話をするのを」
その声で、プレマルジナがこちらに目線だけ向けたけれど、またすぐに扉へと目線を戻す。
そんなプレマルジナを気にもせず、三号――マリューナか?――はすたすたと扉を開け中へと入る。
「トレィス、おいで」
と、招かれるけど…プレマルジナ!なんか怖い!
『ソイツは気にしないで。中へ』
聞かせるように、聞かせないように…マリューナは声を使い分ける。
睨むようなプレマルジナを外に置いたまま、扉は閉まる。
「彼は“ドウシィのプレマルジナ”なんでしよう?なんで、“毎日”会えないの?」
――――ⅻは感情制限下で稼働を継続。No.12の安定維持のため接触は不可。全行動は監視下に置かれ、計画完遂で終了。不安定化が確認され次第、即時停止措置を実行。
声とも音とも付かない言葉が、脳に浮かぶ。
なんだこれは?
「つまり、罰ってことだよ。それと、それはT-I。トレサが言うところのお父さんの声だ」
目の前にいる…マリューナが言った。
「罰って言うかね。この子は…この装置の外では生きていけないんだ」
生命維持装置の中に眠っている女性。
デシィの母なる卵子提供者。
会ったこともない、この女性との間に出来たのが、デシィなんだ。
「ドウシィはさ、最初の攻撃の時に母親の亡骸に守られて助かったんだ。けど、色々と体に蓄積してね。ドームの中で暮らしてたら致命的なことにはならなかった筈なんだけど。外に出ちゃった事で引き金になっちゃった…さっきのT-Iの声で更に刺激しちゃって…、今じゃ月に3日起こしてあげれるのが限界なんだ」
装置の中の女性。
眠っている彼女にデシィの面影は探せない。
彼女はこの中で夢を見るのだろうか?
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