6 / 126
第一部
5
しおりを挟む
この日、仕事が終わったのは、午後十時を少し過ぎた頃だった。フロアに残っていたのは、隣の島の、第二営業課の男性社員が三人と、唯香と宇野沢だけだった。業務が終わったことを宇野沢に報告し、PCの勤怠管理に退勤時刻を入力し、承認依頼ボタンを押した。挨拶もそこそこに足早にフロアを出て、丁度降りてきたエレベーターに飛び乗った。社員通用口を出ると、亜熱帯地方のような、むわっとした湿気を帯びた空気が唯香にベタベタと纏わりついた。雨水を吸収した街路樹から夏の匂いがした。
水天宮前駅に辿り着くと、丁度、銀色の車体に紫色のラインが入った南栗橋行きの電車がプラットフォームへと吸い込まれるようにして到着した。この時間になると乗客も疎らだ。唯香は、七人掛けの座席のいちばん端の席に腰掛けた。空気圧でドアが閉まると缶酎ハイの蓋を開ける時みたいな音が車内に充満した。金曜日の夜ということもあって、アルコールの匂いを漂わせている人も少なくない。皆、一様に疲れた顔をしているが、その表情には、一週間仕事をやり遂げた達成感や解放感のようなものが薄っすらと見受けられた。唯香は、喫煙所での岡崎さんとのやり取りを思い出し、思わず、頬がゆるんだ。
最寄り駅に到着する頃には、二十三時を過ぎていた。コンビニに立ち寄り、ナポリタンとサラダと檸檬の缶酎ハイを買った。すっかり眠りに就いた錆びれた商店街のアーケードを潜り抜けると、大通りに出る。大通り沿いを東に向かって三百メートルほどの所に唯香が暮らす鉄筋コンクリート造りの五階建てのマンションがあった。唯香は何かを思い出したかのように、ふっと立ち止まりマンションを見上げた。三階の一番奥の部屋のパステルブルーのカーテンからオレンジ色の灯りが漏れていた。
(アイツ……来てるのか……)
水天宮前駅に辿り着くと、丁度、銀色の車体に紫色のラインが入った南栗橋行きの電車がプラットフォームへと吸い込まれるようにして到着した。この時間になると乗客も疎らだ。唯香は、七人掛けの座席のいちばん端の席に腰掛けた。空気圧でドアが閉まると缶酎ハイの蓋を開ける時みたいな音が車内に充満した。金曜日の夜ということもあって、アルコールの匂いを漂わせている人も少なくない。皆、一様に疲れた顔をしているが、その表情には、一週間仕事をやり遂げた達成感や解放感のようなものが薄っすらと見受けられた。唯香は、喫煙所での岡崎さんとのやり取りを思い出し、思わず、頬がゆるんだ。
最寄り駅に到着する頃には、二十三時を過ぎていた。コンビニに立ち寄り、ナポリタンとサラダと檸檬の缶酎ハイを買った。すっかり眠りに就いた錆びれた商店街のアーケードを潜り抜けると、大通りに出る。大通り沿いを東に向かって三百メートルほどの所に唯香が暮らす鉄筋コンクリート造りの五階建てのマンションがあった。唯香は何かを思い出したかのように、ふっと立ち止まりマンションを見上げた。三階の一番奥の部屋のパステルブルーのカーテンからオレンジ色の灯りが漏れていた。
(アイツ……来てるのか……)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる