成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

文字の大きさ
8 / 126
第一部

しおりを挟む
 タケルの嫁の、紀伊きいせいらは、大手音楽教室『紀伊ミュージックサロン』のご令嬢であり、名の知れたピアニストだ。誰もが羨む人生の当たりくじの一等の当選者と言っても過言ではない。そんな彼女にも、多少の苦労はあったようだ。一時期、過度のストレスによりピアノが一切弾けなくなってしまった彼女が、気分転換のために足を踏み入れたライブハウスで出逢ったのがタケルだった。楽しそうに歌うタケルの姿を見た彼女は、元気を貰い、そして、タケルに強く惹かれ、結婚にまで漕ぎつけたのだ。見事、逆玉の輿に乗ったタケルは定職に就かなくとも生活に困ることはないし、タケルにベタ惚れの嫁は、タケルの女性関係についてとやかく言うこともなく、タケルをとことんまで甘やかす。

「ていうか、嫁は、今日、コンサートツアー?」
「いや……今日は、コンサートじゃないんだけど……みんな居ないんだ」

 タケルの表情が曇ったのを見て、唯香は、これ以上問い詰めるのをやめた。タケルは紀伊家の婿養子だ。と言っても、同居はしていない。タケルが、義両親に嫌われているからだ。そもそも結婚自体大反対されていたのだが、せいらが、「タケルさんとの結婚を許してくれないのならば、わたくしは、紀伊家との縁を切ります!」と、脅しをかけたことで、びっくり仰天した、じじ、ばばは、ふたりの結婚を渋々承諾せざるを得なかったのだ。そんなわけで、タケルは、自由な時間と一生お金に困らないという理想の生活を手に入れた代わりに、紀伊家においては厄介者扱いされているのだ。

「まあ、アンタの家族がどこへ出掛けようと知ったこっちゃないけどさ。アンタ、次の仕事のこととか考えなくていいの? いちおう、二児の父親でしょう? 自分の子どもたちに、かっこいいところ見せようとかって気にはならないわけ?」
「だいじょぶ、だいじょぶ。俺は、彼女らの、反面教師としての父親の役割を立派に果たしているからね。下の娘なんてさ、『ぜったい、パパみたいな男とは結婚しなーい』なんて言っちゃって、しっかりしてるよねえ。たぶん、唯香ちゃんより男見る目が磨かれる筈だよ。安心、安心!」

 無邪気に笑うタケルを、唯香は心底羨ましく思った。小川美希にしても、タケルにしても、周りの人間の目なんて一切気にせずに、我が道を堂々と突き進むヤツらって、なんだかんだ言って幸せそうに生きているんだよなあと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

レオナルド先生創世記

山本一義
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

処理中です...