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第一部
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「あ、成瀬さーん、おはようございますう。先週は、ご迷惑おかけしちゃってごめんなさーい」
小川は、レーズンサンドを唯香の席に置いた。
「あっ! ごめんね。私、レーズンダメなの。お気持ちだけ頂くわね」
と言って、唯香は、レーズンサンドを、そのまま小川の席に真横にスライドさせた。
「えー、そうなんですかあ。美味しいのにい。じゃあ、高部さんにあげるう」
不穏な空気に晒された高部の顔が蒼ざめている。他の社員たちは、耐性がついているのか、やれやれ、また始まったよ、という表情をしている。
「あのさあ、休まざるを得ないのはわかるんだけどさ、ちゃんと引継ぎしていってくれないと困るんだよね! 小川さん、欠勤の日、どんなに電話しても出てくれないしさ! あなたの代わりに対応しなきゃならない私の身にもなってよね!」
唯香は、小川が先週一週間まるまる休んでいた間に発生した、クライアントからのクレーム内容と唯香が代行した処理内容についてまとめた分厚い資料を小川のデスクに叩きつけながら言った。
「小川さんさあ、入社して何年になるの? 新人じゃあるまいし、このミスの内容と量は異常だよね? もしかして、仕事舐めてる? N工業の社長さん、カンカンに怒ってらして、真山部長と営業担当の山田くんが、菓子折り持参で直々に謝罪に行って、『今度、こんなことやらかしたら契約を打ち切る』とまで言われてるんだからさ、あなたからも、部長と山田くんにお詫びに行ってよね?」
小川の下膨れの顔がますます膨らんできていた。何か言いたそうに口を尖らせている。毎日コテの熱に晒され続けて痛んだ茶色の髪の先端が何本も枝分かれしている。
「これについて、何か、まっとうな言い訳はある?」
蛸のように口を尖らせていた小川が、墨を吐き出すかのように口を開いた。
「成瀬さんには、わからないでしょうね」
「は? 何が?」
唯香には、次に小川の口を衝いて出てくる言葉が何なのか容易に想像できたが、敢えてわからない振りをしてみせた。
小川は、レーズンサンドを唯香の席に置いた。
「あっ! ごめんね。私、レーズンダメなの。お気持ちだけ頂くわね」
と言って、唯香は、レーズンサンドを、そのまま小川の席に真横にスライドさせた。
「えー、そうなんですかあ。美味しいのにい。じゃあ、高部さんにあげるう」
不穏な空気に晒された高部の顔が蒼ざめている。他の社員たちは、耐性がついているのか、やれやれ、また始まったよ、という表情をしている。
「あのさあ、休まざるを得ないのはわかるんだけどさ、ちゃんと引継ぎしていってくれないと困るんだよね! 小川さん、欠勤の日、どんなに電話しても出てくれないしさ! あなたの代わりに対応しなきゃならない私の身にもなってよね!」
唯香は、小川が先週一週間まるまる休んでいた間に発生した、クライアントからのクレーム内容と唯香が代行した処理内容についてまとめた分厚い資料を小川のデスクに叩きつけながら言った。
「小川さんさあ、入社して何年になるの? 新人じゃあるまいし、このミスの内容と量は異常だよね? もしかして、仕事舐めてる? N工業の社長さん、カンカンに怒ってらして、真山部長と営業担当の山田くんが、菓子折り持参で直々に謝罪に行って、『今度、こんなことやらかしたら契約を打ち切る』とまで言われてるんだからさ、あなたからも、部長と山田くんにお詫びに行ってよね?」
小川の下膨れの顔がますます膨らんできていた。何か言いたそうに口を尖らせている。毎日コテの熱に晒され続けて痛んだ茶色の髪の先端が何本も枝分かれしている。
「これについて、何か、まっとうな言い訳はある?」
蛸のように口を尖らせていた小川が、墨を吐き出すかのように口を開いた。
「成瀬さんには、わからないでしょうね」
「は? 何が?」
唯香には、次に小川の口を衝いて出てくる言葉が何なのか容易に想像できたが、敢えてわからない振りをしてみせた。
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