成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第一部

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「成瀬さんも、結婚して、親になったらわかりますよ、たぶん」

 先ほどまで、余裕を見せていた周りの人々も流石にどよめきだした。高部は過呼吸を起こしている。宇野沢にいたっては、書類の上に湯呑茶碗をひっくり返し、完全に挙動不審になっている。

「は? 何? その、上から目線な言い方? アンタ、私のことバカにしてるわけ?」
「えー。成瀬さん、すぐ怒るー。めっちゃこわーい。更年期ですかあ? 美希、そんなつもりで言ったんじゃないのにい」
 デブスは、痛んだ髪の毛先をくるくると弄びながら、バカ丸出しの喋り方を続ける。唯香の中のストレスバロメーターの数値が急激に上昇し、ボンッという音を立てて発火した。
「あんたの他にも、子育てしながら働いてる人たくさいるけどさ、みんな、あんたみたいに無責任じゃないよ? 職場復帰したからにはさあ、ちゃんと責任感持って働けよ? あんた、何様? 結婚して子供がいたら偉いの? 未婚の女は、どうせ暇だろうから、自分のサポートをするのが当然とか思ってるわけ? 舐めるのもいい加減にしろよ! このデブスがっ! なんで、子育てが大変なのに、そんなに体に贅肉ついてんだよっ? なんで、その小汚ねえ髪、くるくる巻いてくる余裕があるんだよっ? 鏡見てから出直してこいや
 っ! ボケっ!」
「えっ? なに、それ? ひどおい? 僻みじゃん? 成瀬さんさ、自分は美人とか思ってるのかもしんないけどお、それは過去の栄光であってえ、自分こそ鏡見て出直してきた方がいいんじゃないですかあ? ほうれい線とかあ、目尻の皺とかあ、けっこうすごいしい。年取ったら、美人もブスも関係ないんですよお」

 ――バンッ!

 唯香が両手の拳でデスクを強打する音がフロア中に響き渡った。
 水を打ったような静けさが、フロア内を駆け巡った。
 陽気で爽やかなラジオ体操の音楽がポカンと宙に浮いて、蒸し暑いオフィスを一気に冷却した。

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