成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

文字の大きさ
15 / 126
第一部

14

しおりを挟む
 昨晩降った雨がもたらした湿気と急激に上がった室温が絡み合って、もわっとした空気の塊が唯香の眠りを妨げた。
「うっ、うーーーーーん」
 と呻き声を上げる唯香。
「なん……ベッド、狭いんだけど」
 寝ぼけながら、唯香は隣に眠っている生温かい“モノ”を思い切り蹴り飛ばした。「ウゲッ!」という奇声を上げながら、ベッドから転がり落ちたのは、全裸のタケルだった。

「えっ? 何? 今の生々しい感触?」

 唯香は、ガバッと掛け布団を蹴り上げ、ショーツだけの淫らな姿でいる自分に気付き、思わず悲鳴をあげた。床の上に転がり落ちたタケルが、むくりと起き上がり、寝ぼけ眼で
「あっ、おはよう、唯香ちゃん!」
 と、前も隠さず、呑気に挨拶をしてきた。
「アンタ……その、あれだ! まず、そのお稲荷さんを収納しろ!」
「ええっ? 唯香ちゃん、照れてるのお? 俺たち、今更、こんなことで照れるような関係じゃないじゃあん」
 タケルは、生欠伸をしながら言った。
「アンタと私が恋人同士だった頃と今とじゃ、話が違ってくるんだよ! で、その……私、あまり記憶がないんだけど……アンタと私、やっちゃったの?」
 唯香は恐る恐るタケルに尋ねた。タケルは、おどおどする唯香を見て、笑いを堪えている。
「昨日の唯香ちゃん、色っぽかったなあ。積極的だったしー」
「まじか。やっちまったのか……」
 シュンと項垂れる唯香の姿を見たタケルが、吹き出した。
「嘘だってば! 唯香ちゃん、かなり疲れてたみたいで、途中で寝落ちしちゃったから、してないよ」
「アンタ、寝込みを襲ったりしてないでしょうね?」
「俺、無理矢理とかそういう趣味ないし」
「まあ、確かに。じゃあ、本当に私たちはやってないのね?」
「やってない、やってない! 未遂だってば!」
「そうか。良かった。他人様の旦那様に手を出したら、大変なことになるからね」
 唯香は胸を撫でおろした。
「俺……やっぱり、唯香ちゃんと結婚した方が良かったのかなあ?」
 タケルの呟きは、唯香の耳には届いていないようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

処理中です...