成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第一部

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 ふたりは、テレビを観ながら、遅めの朝食をとっていた。

「関東、まだ梅雨明けしないんだねえ」
 タケルが、トーストにバターを塗りながら言った。
「うん。まあ、明けたら明けたで、暑くて鬱陶しいんだろうけどね」
「ねえ、唯香ちゃん、スマホチェックした方がいいよー。昨日帰ってきてから、一度もスマホ見てないでしょ? 会社関係の人から、なんか連絡入ってるかもしれないし」
「うーん。敢えて見てないんだよね。絶対、噂に尾鰭が付いて、私、とんでもない悪者になってそうでさ……怖くて見れないんだよね。ていうか、タケルもスマホチェックした方がいいんじゃない? 嫁さんや子供たちから写真とか送られてきてるんじゃないの?」
「うーん……俺も、唯香ちゃんと同じく、怖くて見れないんだよね。何もきてなかったらさ、俺の紀伊家における、存在意義みたいなものを失う気がして」
「じゃあさ、ふたりで一緒に見ようよ!」
「うん、そだね。ずっと現実から目を逸らすわけにもいかないしね」
 唯香とタケルは、それぞれのスマートフォンをリビングテーブルの上に用意し、「いっせいの、せ!」の合図で各々の端末を確認した。

「あっ! 子供たちからLINE来てる!」
「どれどれ、見せて?」
 タケルは照れ臭そうに、LINEを唯香に見せた。

『パパ、ちゃんと、ゴハンたべてますか? こんどは、パパとママ、かなでと、りりかのかぞく四人できたいねって、ママとはなしてます。あっ! このはなし、おばあちゃんたちにはないしょね!』 
 というトークと、エッフェル塔の前で撮った母子の画像が送られてきていた。
「なあんだ。アンタ、何だかんだ言って幸せそうじゃん」
 ほんの少しだけ、タケルにときめいて期待してしまった自分がひどく卑しい女に思えて、唯香は惨めな気分になった。そんな唯香の様子を察したタケルが、気を遣うように訊いてきた。
「嫁に言われて、しぶしぶLINEしただけだって。俺、子供たちから呆れられてるし。それより、唯香ちゃんの方はどうだった?」
「私は……宇野沢から『納涼祭』の連絡と……あっ!」
 唯香の顔がほころんだ。
「どうしたの? 男?」
 タケルが、嬉しそうにせっついてきた。
「岡崎さんからLINEきてるー!」
「えっ? まじで男? 見せて、見せてー!」
「しょうがないなあ」
 そう言った唯香の顔がにやけていた。
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