成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

文字の大きさ
34 / 126
第二部

しおりを挟む
「へえ……元・扇重工かあ。優秀な人なんだね。でも、いくら、優秀な人だってさ、たかが二か月やそこらで、唯香ちゃんがうん十年間頑張って身に着けたスキルや人脈を追い越せるわけないと思うけどなあ」

 ルウにこだわったタケル特性カレーをスプーンで口に運びながらタケルが言った。

「そうだといいんだけどね……」
「唯香ちゃん、珍しく弱気じゃん」
「私は、いつだって弱いわよ。何にも誇るべきものを持っていないから虚勢を張って生きているだけ」
「唯香ちゃんには“美貌”っていう、最大の武器があるじゃん! 美人が多いと評判の柊花大学の中でもいちばん綺麗な“ミス・柊花”の称号をもってるんだから、もっと自分に自信持ちなよっ!」
「じゃあ、なんで、アンタは、その元・ミスキャンを振って、他の女と結婚したのよ?」

 唯香が、ぎろりとタケルを睨みつけると、タケルはカレーを喉に詰まらせて激しくむせた。

「そ……それは……」

 喉に引っかかった異物を水で流し込んでから、タケルは、もごもごと口ごもった。

「まあ、いいわ。そんな過ぎ去った話は。ところで、タケルは“山崎洋子”っていう柊花の法学部の子知ってる? その元・扇重工のエリートさんのフルネームなんだけどね。独身らしいから、苗字は変わってないと思うの。タケル、バンドで人気あったし、女友達多かったじゃん? もしかしたら、他の学部の子でも憶えているかなあって思って」

「“やまざき ようこさん”? いや、知らないなあ。俺、女友達の名前なら全員憶えてるもんっ」
「アンタ、見知らぬ女に恨み買ってそうよね」

 唯香は重い溜息を吐きながら言った。タケルには浮気癖がある。そのことで、何度大喧嘩をしたことか、と唯香は苦虫を嚙み潰したような顔をして言った。

「そういう、唯香ちゃんこそ、恨み買ってたんじゃないの?」
「はあ? 私が? ああ……無きにしも非ずかもねえ」
「心当たりあるの?」
「うーん……英文の一条 蘭いちじょう らんとか」
「ああ、唯香ちゃんのせいで、ミスキャンの準ミスだった子ね」
「ちょっと、人聞きの悪い言い方しないでよ! 私、好きでミスキャン出たわけじゃないのに、一条に逆恨みされて大変だったんだからね!」
「あははっ! ごめん、ごめん! 確か、唯香ちゃんが仲良しだったしおりちゃんが推薦しちゃったんだよね」
「そうそう……今じゃもう、私の黒歴史以外のなにものでもないわ」
 唯香は、重い溜息を吐いた。
「話戻すけどさ、山崎さんとは上手くやっているんだよね?」
「うん……彼女、欠陥がないんだよね。私に対しても礼儀正しいし。まさに私が待ち望んでいた人って感じなんだけど……あれだけ、苛々して怒鳴りあいのケンカばかりしてた小川のことを、たまに懐かしく思っちゃうのはどうしてなんだろうね?」
「それは、ほら、『手がかかる子ほど可愛い』って言うじゃん? 唯香ちゃん、無意識のうちに、小川さんに対して愛着が湧いていたんじゃない? とりあえずさ、こうして残業時間も減って唯香ちゃんが自由に使える時間が増えたわけだからさ、有意義に使ったほうがハッピーだと思うよ」
「うん、そうだね」
 唯香は、浮かない笑顔を浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

処理中です...