成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

文字の大きさ
46 / 126
第二部

19

しおりを挟む
 ランチ女子会会場となっている、第三会議室から出てくる女性社員の中に、一条蘭が混ざっていたのだ。しかも、山崎洋子と仲睦まじそうに話をしている。思わず、唯香は柱の陰に身を隠した。話の内容がはっきりと聞こえるほどの近い場所から耳を傾けていたわけではなかったが、「岡崎さん」「成瀬」というキーワードは辛うじて聞き取ることができた。そもそも、第一営業課と第二営業課とは別階にある国際営業課の女性社員がわざわざ七階まで来てランチ女子会に加わること自体が不自然なのだ。やはり、山崎と一条は以前の勤務先である「扇重工」か「柊花大学」で、何らかの繋がりがあったのだろうと唯香は思った。

 ほぼ同時に席に着いた山崎に、唯香は、思い切って訊いてみた。

「ねえ、山崎さん」

「はい?」
 
 午後にやるべき仕事をチェックしていた山崎は、少し迷惑そうに唯香に顔を向けた。

「山崎さん、国際営業課の一条さんとお友達なの?」

「えっ? どうしてですか?」

「さっき、たまたま、第三会議室から出てくる山崎さんと一条さんをたまたま目にしたから」

「ええ……まあ……お友達というほどの仲ではないですよ。前の会社で、私、人事部に配属されていた時期もあったので……挨拶交わす程度の仲ですね。大学時代は接点なんてありませんでしたよ。一条さんは英文学科でしたし、成瀬さんもそうですけど、私みたいな地味な一学生が準ミスの一条さんと接点があるわけないじゃないですか」

 山崎は自嘲気味に嗤いながら言葉を付け足した。

「一条さん、国際営業課の女性社員たちと中々打ち解けることができないって悩んでいたから、私が、こちらのランチ会にお誘いしたんですよ。フロアは別階ですけど、同じ統括営業部の“社員”なんですから問題ないですよね?」

 そう言いながら、山崎は勝ち誇ったような笑みを口元に浮かべた。彼女が八角重工に派遣社員として入社してきた当初の唯香に対する慎ましやかな態度からは想像もできないほど尊大な態度に唯香は茫然とした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...