成瀬さんは世渡りが下手すぎる

第二部

２６

「うーん……ますますわけがわからん。それにさ、さっき、栞と“柊花大学”の卒業生の中に“洋子”が何人いるか調べたじゃん？」

「うん。経済学部にいたね。“高田洋子”」

　栞は、柊花大学の卒業アルバムの“経済学部　経済学科　A組”の中の“高田洋子”を指さしながら言った。そこに写っている“高田洋子”は、かなりの肥満体質で、仮に彼女が標準体型になったと仮定しても、顔のパーツのひとつたりとも“明日葉大学　大学院”時代の“高田洋子”とも、現在の“山崎洋子”とも一致しない。

「“高田洋子”にしても“山崎洋子”にしても、ありふれた名前じゃん？　本当に、この二人の“洋子”は同一人物なのかしらね？」
　と栞。

「ああ、でも、減量と整形で別人みたいになることは不可能じゃないよね？　ネットとかで芸能人の昔の写真とか晒されてるじゃん？　失礼だけど、本当、同一人物とは思えないじゃん」
　と和樹くん。

「あっ！」
　何か他に手掛かりが掴めないかと、柊花大学のアルバムを捲っていた唯香が素っ頓狂な声を上げた。

「どうしたの？」

　栞と和樹くんの視線が唯香に注がれた。

「私とタケル、“高田洋子”と同じゼミだったみたい」

「えっ？　アンタ、その時、彼女に恨まれるようなことしたんじゃないの？」

「いや……決してそんなことはないと、は、言い切れないけど……思い出せないよ」
「これは、”山崎洋子“本人に単刀直入に訊くしかないのかねえ」
　と栞。

「まあ、彼女が今以上に攻撃性を高めてきたら訊くしかないかな。正直、転職とかめんどいわ。私、事務処理能力以外これといったスキル持ってないし……」

「唯香ちゃんには結婚を前提にお付き合いしている素敵な彼氏がいるんでしょ？　早めに籍入れて寿退社しちゃえばいいじゃん？」
　と和樹くん。

　和樹くんの言葉を聞いた栞が和樹くんを睨みつけていた。唯香がお暇した後、ふたりの間に暗雲が垂れ込めたらどうしよう、と唯香は少し不安になった。