成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第二部

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「私、さっき、父親似って言ったじゃないですかぁ? デブでブスで頭も悪くてさぁ。愛人の子で母親が水商売って……これだけ条件揃えばさ、いじめのターゲットにもなるわけぇ。で、いじめる側のリーダーって、決まって美人の子なんだよねぇ。裕福な家庭に生まれてきてさぁ、頭も良くてぇ。まあ、あいつらにはあいつらなりの悩みとかストレスとかがあったんだろうねぇ。『親の期待が重い』とかぁ。私みたいな底辺から見たら、そんなん悩みでもなんでもないし、寧ろ、自慢? って感じでぇ。その、贅沢なストレスの鬱憤晴らしの餌食になる私の痛みやら苦しみなんて、あいつらにとってはどうでもいいことなわけぇ。そんなトラウマがあるから、私、成瀬さんみたいな美人が大嫌いだったの! でも、成瀬さんって、馬鹿正直で不器用で、私が今まで関わってきた美人たちと全然違うんだもの。私が、成瀬さんの容姿だったら、“優待チケット”使いまくって、世の中の女たちが爪噛んで悔しがるような人生送る自信あるけどね」

 そう言って、美希は、源さんから貰った焼酎を一気に飲み干した。

「でもさ、美希って、鋼のメンタル持ってるじゃん? 堂々としてるし、反省しないし、けっこうモテるみたいだし……私は、ぶっちゃけ、美希が羨ましいけどな」

「ああ、ね。人間なんてさ、考え方ひとつ変えるだけで、自分を取り巻く世界もそこそこ変わっていくものなのよねぇ。ハズレくじ引いて、アタリくじ引いたやつらから虐げられて生きてきた私は、ある時、唐突に悟ったの。私の心の底には“人から好かれたい”っていう強い思いがあって、私をいじめてきたゴミクズからも嫌われたくなかった。だけど、それは違うって思ったの。人から好かれようとすればするほど辛くなる。ならば、好き放題振舞って嫌われた方が楽に生きることができるんじゃないかってね……まあ、成瀬さんは、もっと“あざとく”ならなきゃだめだよねぇ」

 唯香の脳裏に、タケルや岡崎さんに言われた言葉が過った。

 ―― 唯香ちゃんは、真面目だし正しいと思うよ。それでもさ、もうちょっと、あざとく立ち回らないと、ずるい女に振り回される一方だよ。

 ―― もう少し、あざとく強かにならないと、これから先、ずっと、損することになると思うよ。

「お願いっ! 美希! 私を、あなたの弟子にしてくださいっ!」
 
 急に、弟子入りを志願された美希は、焼酎を噴き出した。

「はあっ? 弟子ぃ? 何の弟子よ?」

「あざとい生き方を、どうか、私に伝授してくださいっ! 何でもしますからっ!」

「……本当に、何でもするの?」

「はいっ!」

「わかった。じゃあ、しばらくの間、週2日、昼間の仕事が終わった後、うちの店でバイトしてくれる?」

「はい?」

「昨日、バイトの子が辞めちゃって、うちの店、人手が足りてないのよねぇ。私、子育てしながら仕事しているから大変なんだぁ」

「今、お子さんは誰が面倒みてるの?」

「二階住居で、祖母が見てくれてる」

 美希は天井を指さしながら言った。

「成瀬さんは、水商売なんて嫌かもしれないけどぉ、コミュニケーション能力を高めるのには悪くない仕事だと思うよぉ。それに、ちゃんと手伝ってくれたら、私が在職中に集めた八角の社員の極秘データをあげてもいいよぉ」

 こうして、唯香は、かつての天敵、小川美希の弟子として、『スナック美沙』でホステスデビューすることとなった。
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