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第二部
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職場での唯香を取り巻く環境は相変わらずストレスフルだったし、山崎洋子は以前にも増して権力を強め、彼女の取り巻きたちは“山崎軍団”の構成員と陰で呼ばれていた。一方で、スクールカーストの延長線上みたいな幼稚な序列分けに関わりたくないと思っている者も少なからずいた。唯香は『スナック美沙』で身につけたコミュニケーション能力と笑顔を武器に、アンチ“山崎軍団”の社員たちと信頼関係を築き上げるため日々奮闘していた。そんな折、栞から山崎に関する情報が入ったとの連絡があり、退社後、下北沢の栞の家(正確には、栞と和樹くんの家だが)に立ち寄ることとなった。
「いらっしゃい! おつかれー! どうぞ入ってー」
栞もまだ仕事から帰ってきたばかりらしく、まだ暖房の熱が行き渡っていない部屋はひんやりとしていた。
「あっ! これ、ここに来る途中にあったお弁当屋さんで買ってきた。なんか美味しそうだったから」
と言って、栞に三人分のお弁当を手渡した。
「おっ! 『ほっとでりか』のロコモコ弁当じゃん! ありがとう! 何かあるものでゴハン作ろうと思ってたんだけど……助かったあ」
栞と和樹くんは、結婚はしていないといえ、五年も同棲しているのだから結婚しているのと大差ない生活をしていることになる。ふたりの間には家事分担とかいろいろなルールがあるのだろうけど、フルタイムの仕事を終えてから夕ご飯の支度をするのは大変なことなんだろうなあ、と唯香は思った。唯香がタケルと同棲していた頃は、タケルが家事全般を完璧に熟していたので、その点は楽だった。
「かずくん、山崎太一と直接会ったんだよ。この前、唯香がうちに来た後に明日葉大学の院の同窓会の案内状が届いたんだよね。山崎太一とは直接連絡取れなくて、太一が出席するかどうかは分かんなかったんだけど、もし、彼がいなくても、他の人に探りいれれば何かしら有力な情報が入るだろうってことで、かずくん、同窓会に行って来たんだ」
食後のコーヒーを啜りながら、栞が言った。
「そうだったんだ。なんか、ごめんねえ。私のために動いてもらっちゃって」
「ああ、それは気にしないで! かずくん、もともと、同窓会とか大人数の集まりが好きだから。私と出逢ったのも高校の同窓会だからさ。まあ、私と付き合い始めてから、かずくん、私に遠慮して、そういう集まりに参加しなくなっちゃったからね。たまには羽伸ばしたいだろうし……いちおう、『浮気したらぶっ殺す!』とは言っておいたけどね」
そう言って、栞は爆笑した。つられて、唯香も笑った。
「それで、同窓会に、山崎太一は来たの?」
「うん。来てたって」
「もしかして……山崎洋子も一緒に?」
「ううん。洋子は来てなかったって。そもそも、洋子は、出産育児で休学したから、かずくんや太一と一緒に卒業できなかったらしいじゃん? だから、洋子宛には同窓会の案内状は来なかったんじゃないかな?」
「いらっしゃい! おつかれー! どうぞ入ってー」
栞もまだ仕事から帰ってきたばかりらしく、まだ暖房の熱が行き渡っていない部屋はひんやりとしていた。
「あっ! これ、ここに来る途中にあったお弁当屋さんで買ってきた。なんか美味しそうだったから」
と言って、栞に三人分のお弁当を手渡した。
「おっ! 『ほっとでりか』のロコモコ弁当じゃん! ありがとう! 何かあるものでゴハン作ろうと思ってたんだけど……助かったあ」
栞と和樹くんは、結婚はしていないといえ、五年も同棲しているのだから結婚しているのと大差ない生活をしていることになる。ふたりの間には家事分担とかいろいろなルールがあるのだろうけど、フルタイムの仕事を終えてから夕ご飯の支度をするのは大変なことなんだろうなあ、と唯香は思った。唯香がタケルと同棲していた頃は、タケルが家事全般を完璧に熟していたので、その点は楽だった。
「かずくん、山崎太一と直接会ったんだよ。この前、唯香がうちに来た後に明日葉大学の院の同窓会の案内状が届いたんだよね。山崎太一とは直接連絡取れなくて、太一が出席するかどうかは分かんなかったんだけど、もし、彼がいなくても、他の人に探りいれれば何かしら有力な情報が入るだろうってことで、かずくん、同窓会に行って来たんだ」
食後のコーヒーを啜りながら、栞が言った。
「そうだったんだ。なんか、ごめんねえ。私のために動いてもらっちゃって」
「ああ、それは気にしないで! かずくん、もともと、同窓会とか大人数の集まりが好きだから。私と出逢ったのも高校の同窓会だからさ。まあ、私と付き合い始めてから、かずくん、私に遠慮して、そういう集まりに参加しなくなっちゃったからね。たまには羽伸ばしたいだろうし……いちおう、『浮気したらぶっ殺す!』とは言っておいたけどね」
そう言って、栞は爆笑した。つられて、唯香も笑った。
「それで、同窓会に、山崎太一は来たの?」
「うん。来てたって」
「もしかして……山崎洋子も一緒に?」
「ううん。洋子は来てなかったって。そもそも、洋子は、出産育児で休学したから、かずくんや太一と一緒に卒業できなかったらしいじゃん? だから、洋子宛には同窓会の案内状は来なかったんじゃないかな?」
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