成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第三部

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「ママ、ちょっと、唯香と話してもいい?」
 と美希が美奈ママに許可を請うと、

「いいわよ。唯香ちゃんの話、聞いてあげなさいな」
 と、美奈ママは当然のように答えた。

 どうやら、美奈ママも美希も、唯香が何かで悩んでいることはお見通しのようだった。

「源さんが、唯香ちゃんとふたりで飲みなさいって言って、キープボトルをくださったのよ」

 おつまみと“源”というタグがぶら下げられたウヰスキーを、美希がテーブルに置いた。ウヰスキーの銘柄が“山崎”であるのを見た唯香は山崎洋子との一連の騒動を思い出し、たかだか数か月前のことなのに何年も昔の出来事のように思えた。唯香にとって山崎洋子は、すでに過去の人であって、偶然再会して心腹の友と呼べるほどになった美希のようには決してならないだろうと思った。唯香と山崎との仁義なき戦いのことのことなど一ミリたりとも知らない源さんは、唯香に笑顔でお礼を言われて、顔をくしゃくしゃにして笑った。

「“山崎”に呑まれないようにしないとねっ!」
 と唯香が言うと、美希はツボに入ったらしく、しばらく笑い転げていた。ようやく、ツボから抜け出した美希は、“山崎”で喉を潤して、

「唯香、今度は、何に巻き込まれたのぉ?」
 と尋いてきた。どうやら、美希は、唯香が何かに取り憑かれていると思っているらしい。

「もうっ! 笑いごとじゃないんだってば!」
 と言いながらも、唯香は、ぷはっと吹き出してしまった。笑いを堪えながら震える手で、テーブルの上に差出人不明の、

 ―― 国際営業の岡崎遼とは関わらない方がいい

 と、腕相撲大会の優勝者が書いたのではないかと疑うほどの筆圧で書かれた薄黄色の便箋を一枚一枚並べると、美希の表情が一変した。

「うわっ! なんなの、これぇ? めっちゃ怖いんだけどぉ」
 と言って、気付け薬を呑むようにして、ウヰスキーを喉に流し込んだ。そして、腕組みをしながら真剣な表情で何かを考えているようだった。しばらくの間思案した後で、

「一条蘭の仕業かぁ、元“山崎軍団”のメンバーの仕業じゃない? 山崎って女、相当、執念深そうだしぃ」
 と言った。

「そうだよねえ。その可能性がいちばん高いよねえ」
 と、唯香。

「岡崎さんってぇ、モテる男じゃない? 確かに、私も、一時期あの男狙ってたけどぉ、なんていうか、婚約者の唯香には言いにくいんだけどぉ……」

「いいよ、いいよ。私のことは気にしないでいいから。美希が思ってることをきかせて!」
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