成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

文字の大きさ
83 / 126
第三部

しおりを挟む
「あの子、めっちゃ気が弱い子だからさぁ、単独であんな大それたこと成し遂げたとは信じ難いんだよねぇ」
「でもさ、そういう、一見、気が弱そうな子ほど怒らせたら、何やらかすかわからないって考えることもできるよね?」
 
 確かに、美希が懲戒解雇処分になった後、総務部人事課の中井課長の後ろに身を隠すようにして宇野沢課長と唯香の前に姿を現した若村沙織は、瘦せ細って気の弱そうな女だった。だからといって、気の弱そうな人間が大それた事件を起こすことができないと決めつけるのはおかしいと唯香は思った。山崎洋子も若村沙織と同様、真面目で地味な女だったけれども、寧ろ、そういう弱弱しそうな仮面を身に纏った人間の方が、想像を絶することをやってのけるのではないか? というのが唯香の考えだった。まあ、一概には言えないけれども。

「うん、唯香が言うこともわかるんだけどぉ……」

「そうでしょ?」

「すごく言いにくいんだけどぉ……あの子も昔、『岡崎さん、岡崎さんっ』って騒いでたしぃ。沙織が、私が誘った合コンで彼氏できてぇ、何かにつけてマウントとってきたから、けっこうムカついてぇ、ちょっと懲らしめちゃおうかなぁって思ったら、なんか、ちょろい男だったから盗っちゃったのぉ。そしたら、あの子、また、『岡崎さん、岡崎さんっ』て騒ぎ出しちゃってぇ……その頃は、岡崎さんには奥さんがいたんだけど夫婦仲あんまりうまくいってなかったみたいでぇ、若い女の子を弄んでたんだよねぇ。私はデブスだから、遊びの女でも勘弁って感じだったんだけど、沙織は、彼の守備範囲ギリギリセーフだったみたいでぇ……つまり、そういうことなのぉ……」

 美希が嘘を吐いているようには見えない。それに、唯香にも、岡崎さんに対して腑に落ちないことがある。若村沙織が起こした事件と、唯香と美希が大喧嘩して唯香が辞表を提出するまで精神的に追い込まれた件とは直接繋がっているわけではないが、そもそも、唯香と美希が大喧嘩しなければ、極論を言えば、美希が子どもを使って夫以外の男と不適切な関係を持つような不真面目な社員でなかったなら、若村が『小川美希 懲戒解雇処分事件』を起こすこともなかっただろうし、唯香が、岡崎さんにデートに誘われることもなかっただろう。唯香は、岡崎さんと初めてふたりきりで食事をした、あの夏の雨の夜、赤色のオーニングテントの下でスマホの向こう側にいる“女”であろう人物を懸命に宥めるように話す彼の姿を忘れることができないし、『小川美希 懲戒解雇処分事件』と呼ばれ未だに八角重工の社員の間で未だに語り草となっている件とは無関係、と言い切った婚約者のことを心の底から信じることができないでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】メルティは諦めない~立派なレディになったなら

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 レドゼンツ伯爵家の次女メルティは、水面に映る未来を見る(予言)事ができた。ある日、父親が事故に遭う事を知りそれを止めた事によって、聖女となり第二王子と婚約する事になるが、なぜか姉であるクラリサがそれらを手にする事に――。51話で完結です。

レオナルド先生創世記

山本一義
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

後宮恋歌――人質妃ですが、守られるだけでは終わりません

佳乃こはる
キャラ文芸
大陸の宗主国・夏。 北の辺境国・胡から人質同然に送られ、百人目の妃として後宮に入った少女・小蘭。 ある夜、彼女は奔放で軽薄に見える皇子・蒼龍と出会う。 だがその仮面の奥には、皇帝となる宿命と、誰にも明かせぬ孤独が隠されていた。 理不尽な運命に翻弄されながらも、自ら選び取る強さを失わない小蘭。 守るために距離を取ろうとする蒼龍。 嫉妬と陰謀が渦巻く後宮で、二人は惹かれ合い、やがて運命そのものに抗い始める――。

雪嶺後宮と、狼王の花嫁

由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。 巫女として献上された少女セツナは、 封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。 人と妖、政と信仰の狭間で、 彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。 雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。

処理中です...