成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第三部

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 地下1階には社員食堂もあるが、以前見た時よりも、さらに痩せて顔色の悪い若村を気遣って唯香は彼女を8階のカフェテリアへと連れ出した。法的に問題がないにしても、薄暗い地下1階で一年近くも、お局様風に罵倒され続ける環境で働いていれば誰でもこうなるよなあ、と唯香は若村に内心同情した。

「あの……成瀬さん、ご無沙汰しております。先ほどは加藤さんから助けて頂いてありがとうございます」

 窓際の席から外の様子を目を細めて眩しそうに眺めながら、若村が言った。

「あの、お局様風の加藤さんは、若村さんに対して、いつもあんな感じなの?」

「ええ……まあ、お局様というか“生けるモンスター”って感じですね。以前いた部署では、仕事もできるし面倒見もいいしで、かなり将来を期待されていた方らしいんですよ。でも、加藤さんの息子さんが非行に走ってしまってから、加藤さん、余裕がなくなっちゃったみたいで、些細なことで、同僚や部下、時には、上司に対してもヒステリックな態度をとるようになっちゃって……そんな経緯で“魔の巣窟”に異動させられたそうです。もちろん、本人に聞いたわけではありませんけど……私が、あの事件を起こして、異動させられた当初は、何人か若い社員もいたんですけど、皆、加藤さんのヒステリーに耐えられなくて辞めてしまいました。それからは、ずっと、私が彼女のターゲットになっています。もう、慣れっこですよ」

 そう言って、若村沙織は、ふふふと力なく笑った。薄暗い地下1階では見えなかった薄い隈が彼女の目の下にタトゥーみたいに張り付いていた。

「余計なお世話かもしれないけど……若村さん、まだ若いし、転職とかは考えていないの? すごく顔色悪いし、健康そうには見えないわ」

 そう言うと、若村は視線をますます下へ向けた。本当に余計なお世話だったかもしれない、と唯香は、自分の発言を後悔した。若村は、少し逡巡した後で顔を上げ、

「成瀬さんって、いい人なんですね。思っていたよりずっと」
 と言った。

「いや……私、性格悪いわよ。その所為で、知らぬ間に恨み買われて、今頃になって、しっぺ返し食らったりしてるもの」

「ああ……それ、なんか、わかる気がします」

(ちょっとそれどういう意味よ? この子って、こんなに毒吐く子だったっけ?)
 
 という心の声をグッと呑み込み、言葉を変えて、唯香は若村に訊いた。

「あっ、やっぱり、私って性格悪そう?」

「いえ、そういう意味じゃないんです。成瀬さんはいい人なんだと思うんです。私があの大それた事件を起こしたときも、成瀬さんは、私に同情して、私に優しい言葉を掛けてくれたし……」

「いや、あの時は、私も小川にムカついてたから……」
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