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第三部
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「まあ、そうなんですけど……成瀬さんは、その美貌故に妬まれやすいんですよ。成瀬さんがもっとあざとくて、いやな女だったら、逆に、恨み買われることもなかったかもしれないですね」
「えっ? 私が、あざとくて、もっと性格悪かったら、もっと恨まれるんじゃないの?」
唯香は、若村が言っている意味が良く分からずに、やんわりと訊いてみた。
「うーん……もう少しわかりやすく言いますと、成瀬さんが美人で性悪だったら、そりゃあ恨み買われるでしょうね。でも、そうすると、仕返ししたら逆にやられるかもしれないというリスクも伴うわけですよ。でも、成瀬さんは美人の上に性格もいい。そうすると、仕返ししても許してくれそうだなっていう安堵感が伴うわけですよ。結果、成瀬さんは、面倒臭い人たちに絡まれやすいんですよ」
「そういうもんなのかしらね? だとしたら、若村さんは、美人……とは言えないかもだけど、性悪な小川さんに対して、どうしてあんなことができたの? 小川さんに仕返しされることが怖くはなかったの?」
「それは……」
そう言うや否や、若村の瞳から涙が零れ落ちた。
「結婚してくれる……って約束してくれたから……」
「えっ? 誰が? ちょっと話が見えないんだけど!」
唯香の脳裏に再び、岡崎さんと初めてふたりきりで食事をした、あの夏の雨の夜、赤色のオーニングテントの下でスマホの向こう側にいる“女”であろう人物を懸命に宥めるように話す彼の姿が過った。
仮に、美希の言うとおり、若村が岡崎さんに遊ばれていたとして、惚れた弱みに付け込まれて、「小川美希を懲戒解雇処分に追い込むことができたら君と結婚してあげるよ」と、“結婚”という甘い餌を目の前にちらつかせられたら、もしかしたら、彼女は彼の言いなりになってしまうかもしれないな、と唯香は思った。
今、ふたりの関係がどうなっているのかは分からないが、若村沙織と岡崎さんが男女の関係にある(あった)ということは、若村に訊かなくとも証明されたし、これ以上、若村を追い込むことは、今は得策ではないと唯香は思った。ただ、警告状を唯香のデスクに仕込んでいる犯人が若村であるかどうかだけは、はっきりさせたいと思った。
「えっ? 私が、あざとくて、もっと性格悪かったら、もっと恨まれるんじゃないの?」
唯香は、若村が言っている意味が良く分からずに、やんわりと訊いてみた。
「うーん……もう少しわかりやすく言いますと、成瀬さんが美人で性悪だったら、そりゃあ恨み買われるでしょうね。でも、そうすると、仕返ししたら逆にやられるかもしれないというリスクも伴うわけですよ。でも、成瀬さんは美人の上に性格もいい。そうすると、仕返ししても許してくれそうだなっていう安堵感が伴うわけですよ。結果、成瀬さんは、面倒臭い人たちに絡まれやすいんですよ」
「そういうもんなのかしらね? だとしたら、若村さんは、美人……とは言えないかもだけど、性悪な小川さんに対して、どうしてあんなことができたの? 小川さんに仕返しされることが怖くはなかったの?」
「それは……」
そう言うや否や、若村の瞳から涙が零れ落ちた。
「結婚してくれる……って約束してくれたから……」
「えっ? 誰が? ちょっと話が見えないんだけど!」
唯香の脳裏に再び、岡崎さんと初めてふたりきりで食事をした、あの夏の雨の夜、赤色のオーニングテントの下でスマホの向こう側にいる“女”であろう人物を懸命に宥めるように話す彼の姿が過った。
仮に、美希の言うとおり、若村が岡崎さんに遊ばれていたとして、惚れた弱みに付け込まれて、「小川美希を懲戒解雇処分に追い込むことができたら君と結婚してあげるよ」と、“結婚”という甘い餌を目の前にちらつかせられたら、もしかしたら、彼女は彼の言いなりになってしまうかもしれないな、と唯香は思った。
今、ふたりの関係がどうなっているのかは分からないが、若村沙織と岡崎さんが男女の関係にある(あった)ということは、若村に訊かなくとも証明されたし、これ以上、若村を追い込むことは、今は得策ではないと唯香は思った。ただ、警告状を唯香のデスクに仕込んでいる犯人が若村であるかどうかだけは、はっきりさせたいと思った。
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