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第三部
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「えっ? どうして、アンタの嫁が私の結婚を祝福したいの? 私、彼女に会ったこと一度もないんだけど。彼女、私が、アンタの元カノで同棲してたこと知らないわけ?」
持って生まれた才能と運に加えて、普通の女でも手に入れることが難しい”普通の幸せ”までも手に入れた女の余裕なのだろうか。それとも、天然なのだろうか。唯香は、紀伊せいらにマウントを取られたような気がして、イラッとした。
「ご……ごめんね。唯香ちゃん。俺、せいらちゃんと付き合う前に、唯香ちゃんのこと話したんだけど……せいらちゃん、ちょっと天然なところがあって……『タケルさんが好きになった人なら、きっと素敵な方に違いない』って言って、唯香ちゃんに会いたいって、ずっと前から言ってて……ほら、芸術家って、一般人と感覚がズレてたりするじゃん? だから、マウント取るとかそういう気持ちは本当になくて。でも、唯香ちゃんが気を悪くしたんだったら、俺、ちゃんと断るから」
そう言って、スマホ越しのタケルは、気まずそうに言葉を紡いだ。
「はあ……私も随分と舐められたもんね。彼女、タケルに愛されてる自信があるのねえ。元カノの私に微塵も警戒してないなんて。アンタもアンタで、何気に惚気てるわよねえ」
「ち、違うってば! 本当に唯香ちゃんは魅力的な女だよ! 唯香ちゃんが岡崎さんからプロポーズされたって聞いた時、俺、本当は嫉妬してたんだからねっ!」
「ふうん……まあ、もう、どうでもいいわ。アンタと私の赤い糸は、この先、何があっても、結び直されることも、ごちゃごちゃに絡み合うこともないんだものね……いいわ。一流のピアニスト様の演奏、生で聴いてみたかったの。私、クラシック音楽も好きなのよ。高二までピアノ習ってたし。でも、その日、遼さん、海外出張で不在なの。代わりに栞を連れていっても良ければ、喜んで行くわ」
持って生まれた才能と運に加えて、普通の女でも手に入れることが難しい”普通の幸せ”までも手に入れた女の余裕なのだろうか。それとも、天然なのだろうか。唯香は、紀伊せいらにマウントを取られたような気がして、イラッとした。
「ご……ごめんね。唯香ちゃん。俺、せいらちゃんと付き合う前に、唯香ちゃんのこと話したんだけど……せいらちゃん、ちょっと天然なところがあって……『タケルさんが好きになった人なら、きっと素敵な方に違いない』って言って、唯香ちゃんに会いたいって、ずっと前から言ってて……ほら、芸術家って、一般人と感覚がズレてたりするじゃん? だから、マウント取るとかそういう気持ちは本当になくて。でも、唯香ちゃんが気を悪くしたんだったら、俺、ちゃんと断るから」
そう言って、スマホ越しのタケルは、気まずそうに言葉を紡いだ。
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