成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第三部

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「本当? 良かったぁ! 唯香ちゃん、結婚式の準備で忙しいだろうし、ダメもとで尋いてみたんだあ」

 うん。オマエ、その無垢な言葉、思いっきり私の心抉ってるからな、と唯香は心の中でタケルに毒づいてみた。

「その日、『スピカホール』で、せいらちゃんのリサイタルがあるんだぁ。唯香ちゃんが9月に結婚するって話したら、せいらちゃんが、ぜひ、お祝いに、成瀬さんとフィアンセの方をご招待したいっていうから予定尋いてって言われたんだ」

『スピカホール』というのは、世界にも誇れる日本屈指のコンサートホールで、国内外問わず、名だたるクラシックアーティストやオーケストラがこのホールで歴史に残る名演をしている。クラシックアーティストが『スピカホール』でコンサートができるということは、インディーズのバンドや歌手が武道館でコンサートを行う、つまり、“一流”の仲間入りをしたのと同意義なのだ。唯香は、元カレで妻帯者となったタケルが、まるで、自分の家のようにちょくちょく唯香のマンションに出入りしていた時にタケルと一緒にテレビで観た『熱情人』で注目株の若手実力派ピアニストとして取り上げられていた“紀伊せいら”つまり、唯香からタケルを攫っていったタケルの嫁のことを唯香は思い出していた。色白で小柄な彼女が艶やかな長い黒髪をなびかせて、海外のコンサートホールでラフマニノフの『ピアノ協奏曲 第2番』をその華奢な体のどこに溜め込んでいるのか? もしも、唯香が解剖医だったなら、切り開いてみたくなるほどの途轍もないエネルギーで弾いている様に、正直、唯香は圧倒され、嫉妬した。
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