成瀬さんは世渡りが下手すぎる

喜島 塔

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第三部

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「先ほどもお話ししたとおり、私は、岡崎さんの都合のいい女の中のひとりに過ぎなかったんです。前の奥さんとの離婚問題で長い間苦労した彼は、正式に離婚が決まった途端、以前にも増して女遊びが派手になったんです。そのことで怒って別れる人もいたし、そのことを承知の上で彼との情事を愉しむ人もいましたが、そういう人たちは大体が既婚者でした。お互いにスリルを愉しんでいたみたいです。でも、私は、彼に遊ばれていると分かっていても別れることができませんでした。彼は、そんな私の弱みに付け込んで“結婚”をちらつかせるようになっていったんです」

「“結婚”を餌に、彼に何かを頼まれた……ってことかしら?」

「はい」

「それは、約1年前の7月あたまくらいの話?」

「はい……たぶん、成瀬さんのお察しのとおりだと思います」

 そう言って、若村は、バッグの中からスマホを取り出しイヤホンを差し込み、唯香に献上するように手渡した。

「これが、紛れもない証拠です。岡崎さんとの通話はすべて録音してあります」

 唯香は、若村のスマホから聴こえてくる音すべてに神経を集中させた。

 ――雨の礫が路面を叩きつける音、談笑しながら通り過ぎる複数の女性の声……

 はじめて、岡崎さんと食事に行った日の夜のことが夏の雨の匂いを交えて鮮明に蘇った。ふたりのデートを邪魔するかのようなタイミングで彼のスマホに入ってきた着信音。席を外し赤色のオーニングテントの下で通話をする彼の横顔を照らす街路灯の光。あの日、彼のスマホの向こう側に居たのは、今、唯香の目の前にいる、この女だったのだ。

 ――「沙織、例の件、うまくいってる?」

 ――「ええ……まあ……でも、ここまでやる必要があるんでしょうか?」

  煮え切らない声で、若村が答えた。

 ――「沙織は、ちょっと人が良過ぎるよ。小川美希にされたこと、許したわけじゃないんだろう?」

 岡崎は、若村に焚きつけるように言った。

 ――「そりゃ、今も、あのことは恨んでますし、あの女を許せるはずありませんっ!」

 若村の声には怒気が滲み出ていた。

 ――「ならば、あの女にも沙織と同じ思いをさせなくちゃだめだろ? 当然の報いだと、俺は思うけどね」

 ――「あの……岡崎さん……この件がうまくいったら……」

 ――「君と結婚するって話のこと? もちろん約束するよ! 必ず、沙織を幸せにする! 俺を信じてくれよ!」

 ――「わかりました……私、やります!」

 ――「ありがとう、沙織! 愛している! よろしく頼むよ!」

 そこで通話は終わった。
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