憂悶日和

喜島 塔

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 昨夜。掛かり付けの病院で処方されている睡眠薬を十錠ほど、アルコールで流し込んだ。べつに珍しいことじゃあない。何十年も前から精神安定剤だの睡眠薬だの向精神薬だのを飲み続けているから耐性ができてしまって薬の効果が弱まっているだけのこと。昨夜飲んだ睡眠薬の名称は『サイレース』。一般名は『フルニトラゼパム』。どれくらい強い効果がある薬なのか気になって調べてみたら、なあんだ、大したことないじゃん。バルビツール酸系の睡眠薬と比べたら、安全、安心。多分、百錠飲んでも致死量には程遠いんじゃないかしらね。それでも、一錠飲んだだけで効果覿面な人もいるわけだから一概には言えないけどね。昨日はとっても憂鬱で……といっても、一年三百六十五日、二年で七百三十日、十年で三千六百五十日……私がこの糞みたいな世の中に産み堕とされてから、一万八千二百五十と数日、ご機嫌だった日なんて、無知で世間知らずで夢見がちで馬鹿だった幼少期を除けば、両手の十本の指で数えるくらいしか多分ないのだから、私にとっては『憂鬱』が正常でご機嫌が異常。ていうか、憂鬱の反対語って何だっけ? 『爽快』! なんて清々しくて気持ちの良い語感なんだろう。まさに、私とはかけ離れた言葉。憂鬱から逃れようとして、ぜえぜえと息を切らして全力疾走したところで、『爽快』は光速で私を置き去りにしていってしまうから、私は、あっという間に『憂鬱』に捕まって、黒いスライムみたいなどろどろとした底なし沼に引き摺り込まれて、両手をばたばたとさせながら浮上しようと一所懸命に足掻くけれども、口の中には泥が、口、鼻、目に入ってきて、やがて息ができなくなって、足掻く力もなくなって、なされるがままに真っ黒に染まる。私の朝はいつも、こうして始まる。渋々と重い瞼を開くと、元々は純白であったのであろう薄茶けた天井が視界に映し出される。
「嗚呼、今日もまだ生きているのか」
 独りごちる。重いため息を吐く。ああ、生きている、生きている。
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