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第二章
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正門は、音楽記号やら、ピアノを弾く猫やら、ヴァイオリンを弾くウサギやら、ティンパニーを叩く犬やらの可愛らしい絵が、サーカス小屋をイメージした背景にバランス良く散りばめられ「Onkyo Festival 77th」というタイポグラフィの文字が一際良く目立ち、ひとつの芸術作品として昇華されていた。音響祭実行委員会が、数ヶ月前から作成してきた力作というだけあって、その素晴らしい出来栄えに、音響祭に訪れた人々は、誰しもが魅入られ、あちこちでシャッター音が響いていた。きっと皆”映え”を意識しているのだろう。このゲートのアート創作に並々ならぬ熱情を注ぎ込んできたのは、意外なことに”落ちこぼれ3人衆”の一角を担う、俺の仲間、芹沢涼真なのだ。彼が、音響祭実行委員会を名乗り出たのは、成績の悪さを補うためという後ろ向きな理由からであったが、実際に始めてみたら、彼は自分でも驚くくらいハマったのだと言う。もともと、お祭りや、皆でワイワイと騒ぐイベントが好きな彼のことだ。音響祭実行委員会は、彼にとって適任だったのかもしれない。それに、彼は、実際のところ、音楽よりも描画の才能の方に秀でていた。たまたま、国内屈指の指揮者である芹沢拓真と、将来が期待されている若手ピアニストの芹沢真由希を家族に持つ音楽一家に生まれてきたので音中へと進学したが、芹沢一族は、絵画やデザインといったアートな領域で名を馳せている者の方が多い。涼真が、慧都音楽大学附属高等学校に進学せずに、絵画・デザインの道へと進み、世界的に有名なグラフィックデザイナーとして大活躍するキッカケとなったのは、中二の時、慧都音中の音響祭で、実行委員会を経験したことだ、と、後の彼は語ることとなる。“人生の転機”とは、誰にでも起こりうることなのだ。要は、それを“好機”と捉えるアンテナが有るか、無いか……。その違いで、人生は、最高にも、最低にもなり得る。
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