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第七章
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「ああ、これはこれは……『マダム・シェリー』の坂東店長さんと……?」
『マダム・シェリー』というのは、その名の通り、ミセスの洋服を扱っているショップで、俺に声を掛けてきた小太りの五十代前後の熟女が店長で、横に大きい坂東店長の後ろに半分くらい隠れている三十代後半から四十代前半くらいに見える女性は、おそらく、坂東店長に付き従って『ma couleur』によく買い物に来るスタッフだと記憶しているが、坂東店長のインパクトが強過ぎるため、彼女の記憶が希薄になってしまっているのだ。俺が彼女の紹介をやんわりと促すと、彼女は、半歩前へ歩を進め、
「私……『マダム・シェリー』で、坂東店長の元で働かせて頂いております、杉崎南加子、と申します……」
と名乗った。俺は、この時、はじめて彼女の姿をまじまじと見て、思わずスマホを落としそうになった。彼女の容姿と彼女が醸し出す雰囲気が、若かりし頃の母に、あまりにも酷似していたからだ。俺は、思わず、彼女に見惚れた。見惚れずにはいられなかった。
呆けた俺の様子を見て、彼女は、
「どうかされましたか?」
と、訊いてきた。
「いや……貴方と俺の知人が、あまりにも良く似ていたもんで……つい……ジロジロとお顔を拝見してしまい、大変失礼いたしました……」
「そうだったんですね。他人の空似っていうやつですかね?」
「ええ、そうだと思います……」
俺は、接客時の「泉モード」に切り替えることで、冷静を装った。そこへ、化粧直しを終え、ドリンクバーからホットコーヒーとアイスティーを持って帰ってきたマユリが、二人の熟女を見ながら、
「お知り合い?」
と、笑顔で俺に尋ねてきた。その表情は“笑顔”とは程遠いものだった。目はまったく笑っておらず、まがい物の笑顔を繕うために無理に上げた口角は微かに怒りで震えていた。二人の熟女に、わざと聴こえるような声で、
「ブラックで良かったよね?」
と俺に確認をとって、テーブルの上に置くと、その細く長い足を二人の熟女に魅せつけるような体勢で、すっと、自分の席に戻った。
「あらあ! お綺麗な方! 谷村副店長の彼女さんなんじゃない? 邪魔しちゃ悪いわよ! 杉崎さん!」
空気を読んだのか、身の危険を感じたのか、坂東店長が言った。
『マダム・シェリー』というのは、その名の通り、ミセスの洋服を扱っているショップで、俺に声を掛けてきた小太りの五十代前後の熟女が店長で、横に大きい坂東店長の後ろに半分くらい隠れている三十代後半から四十代前半くらいに見える女性は、おそらく、坂東店長に付き従って『ma couleur』によく買い物に来るスタッフだと記憶しているが、坂東店長のインパクトが強過ぎるため、彼女の記憶が希薄になってしまっているのだ。俺が彼女の紹介をやんわりと促すと、彼女は、半歩前へ歩を進め、
「私……『マダム・シェリー』で、坂東店長の元で働かせて頂いております、杉崎南加子、と申します……」
と名乗った。俺は、この時、はじめて彼女の姿をまじまじと見て、思わずスマホを落としそうになった。彼女の容姿と彼女が醸し出す雰囲気が、若かりし頃の母に、あまりにも酷似していたからだ。俺は、思わず、彼女に見惚れた。見惚れずにはいられなかった。
呆けた俺の様子を見て、彼女は、
「どうかされましたか?」
と、訊いてきた。
「いや……貴方と俺の知人が、あまりにも良く似ていたもんで……つい……ジロジロとお顔を拝見してしまい、大変失礼いたしました……」
「そうだったんですね。他人の空似っていうやつですかね?」
「ええ、そうだと思います……」
俺は、接客時の「泉モード」に切り替えることで、冷静を装った。そこへ、化粧直しを終え、ドリンクバーからホットコーヒーとアイスティーを持って帰ってきたマユリが、二人の熟女を見ながら、
「お知り合い?」
と、笑顔で俺に尋ねてきた。その表情は“笑顔”とは程遠いものだった。目はまったく笑っておらず、まがい物の笑顔を繕うために無理に上げた口角は微かに怒りで震えていた。二人の熟女に、わざと聴こえるような声で、
「ブラックで良かったよね?」
と俺に確認をとって、テーブルの上に置くと、その細く長い足を二人の熟女に魅せつけるような体勢で、すっと、自分の席に戻った。
「あらあ! お綺麗な方! 谷村副店長の彼女さんなんじゃない? 邪魔しちゃ悪いわよ! 杉崎さん!」
空気を読んだのか、身の危険を感じたのか、坂東店長が言った。
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