片翼を失ったピアニスト

喜島 塔

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第七章

23

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「ちょっと出掛けなくちゃならなくなっちゃった」
 愛美の表情は、楽しい時間を邪魔されたことによって憮然としている。
「どこに行くの?」
恵理香えりかん家。何か、彼氏とトラブったみたいで泣いてるから、愛美、行かなきゃ」
 恵理香という子は「失恋プチ失踪事件」以来、愛美が親しくしているクラスメイトで、プリクラを見せてもらったことがあるが、地味目の愛美とは一見釣り合わないような派手な印象の子だ。それ以前の愛美の友達は、クラスでも目立たないタイプの子だったと南加子さんから聞いている。「失恋プチ失踪事件」以来、愛美の中では何かが弾けたらしく、愛美は俺の前でも「ウジウジした過去の自分を捨てて変わりたい!」と何度もアピールしている。愛美の交友関係がガラリと変わったのも、そのへんの心境の変化と関係しているのかもしれない。
「大丈夫? 彼氏とトラブルって? その男の人はまだ居るの? 巻き込まれたりしたら大変よ。どうしても愛美が行かなくちゃならないの?」
 南加子さんは、心配そうに尋ねた。
「うん、大丈夫。もう話はついたみたいで、彼氏も帰ったらしいから……恵理香の家セキュリティーしっかりしてるし、心配ないよ」
「そうなの? お母さん、一緒に行こうか?」
「娘の友達の恋愛沙汰にお母さんが首突っ込んだら変じゃん! 大丈夫だって!」
「なんなら、俺、一緒に行こうか?」
 この場所に、南加子さんと二人きりになることに不安を感じた俺は、そう名乗り出た。
「そうね。舜くんが一緒に行ってくれるなら安心ね」
 南加子さんの言葉に、なぜか心が傷んだ。
「だーいじょうぶだって! 二人共心配し過ぎ!」
 そう言って、愛美は行ってしまった。俺の心拍数が高まった。南加子さんに気持ちを伝えるなら今が好機なのではないか? と思う反面、後先考えない軽はずみな行動で、今の良い関係が終焉を迎えてしまうことを極端に恐れた。

 愛美が居なくなった途端、俺と南加子さんの間に重苦しい空気が漂った。なんとなく気まずくなった俺は、このへんでお暇しようと帰り支度を始めていた。そんな俺を引き止めるかのように、南加子さんが話し掛けてきた。
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