片翼を失ったピアニスト

第八章

１１

「その……俺の元カノ……三条マユリが、杉崎さんをショップから追い出すための嫌がらせをした一連の首謀者っていうことなんですか？　だとしたら、坂東店長は何も悪くないんじゃないですか？」
「半分は正解ね……」
「半分？」
「私ね、三条さんから、あなたと杉崎さんがお付き合いをしているって聞かされて、ちょっと感情的になっちゃってね……三条さんの企ての片棒を担いじゃったのよ」
「えっ？」
　流石に、これは想定外だった。坂東店長と南加子さんは、一緒に食事に行ったり仲が良かった筈だ。それに、南加子さんも、坂東店長のことを尊敬していると言っていた。それが何故？
「たぶん、三条さんの復讐の協力者は他にも複数人いると思うわ。そこのところの詳細は私には解らない。本当よ。私が、三条さんに頼まれたことは『マダム・シェリー』のシフトのコピーを渡すことと、クレーム電話がかかってきた時に、必ず私が対応し、必ずそのことを本社の上司に報告すること。クレーム電話に対応して上の報告するのは社内で決められているルールだから、私は私のするべきことをしただけと言えばそれまでね。ただ、私は、今回の一連のクレームが意図的になされた根も葉もないことであって、その犯人を知りつつも上の者に敢えて報告しなかった……立派な共犯者よ……杉崎さんが三条さんの思惑通りお店を辞めさせられてからは、三条さんとは一切連絡を取っていないし、これ以上は私も彼女に加担するつもりはないわ……後悔……しているのよ」
「真実を話してくださってありがとうございます。でも……杉崎さんと仲の良かったあなたが、どうして、マユリの誘いに応じたのかが俺には解らないです。あなたなら、毅然とした態度で断ることができそうなのに……マユリに弱みでも握られていたんですか？」
「そうねえ……弱み握られていたわね……あんな小娘にもバレバレなくらい解りやすい態度とっていたのに……当人がこれじゃあねえ……困っちゃうわねえ」
「どういうことです？」