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第十章
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俺は、愛美が、失恋プチ失踪事件をした時に、中学の時に片思いしていた先輩と同じ高校に合格するために、担任教師からも絶対無理と言われていた犬飼第一高校へ、猛勉強して奇跡的に合格した、という話を思い出した。
「“努力する天才”ねえ……俺に言わせてもらえばさ、そんな言葉は所詮、才能のない者に対する便利な慰めの言葉だと思うけどね……」
そう言うと、祖母は、何かを懐かしむような柔和な表情で言った。
「昔、泉くんも、私に同じことを言っていたよ……」
「どういうこと?」
「あの子、ピアノ始めたばかりの頃は、お世辞にも上手じゃなかっただろ? せいぜい、平均的な子どもたちよりちょっと上くらいといったレベルだったね。樹もさ、何かにつけて、天才の舜くんと泉くんを比べるものだから、あの子、しょげちゃってさ……私がね『泉くんは、努力する天才だよ』って言ったらさ、『そんなの、才能のない下手くそなヤツに対するなぐさめの言葉だよ』って言って、わんわん泣いてさ……それでも、あの子は、努力することを決して諦めなかっただろ?」
俺は、幼い頃、母に匙を投げられて、泣きながら、バカみたいに何度も何度も、繰り返し、繰り返し、下手くそな、ショパンの『ワルツop.64-2』をレッスン室で弾き続ける兄の姿を思い出していた。
「努力する才能、か……俺には無かった才能だな」
練習室から微かに漏れてくる、愛美の下手くそな『きらきら星』に耳を澄ましながら、
「まだ、やり直せるかな?」
と俺は、ボソリと呟いた。
「“努力する天才”ねえ……俺に言わせてもらえばさ、そんな言葉は所詮、才能のない者に対する便利な慰めの言葉だと思うけどね……」
そう言うと、祖母は、何かを懐かしむような柔和な表情で言った。
「昔、泉くんも、私に同じことを言っていたよ……」
「どういうこと?」
「あの子、ピアノ始めたばかりの頃は、お世辞にも上手じゃなかっただろ? せいぜい、平均的な子どもたちよりちょっと上くらいといったレベルだったね。樹もさ、何かにつけて、天才の舜くんと泉くんを比べるものだから、あの子、しょげちゃってさ……私がね『泉くんは、努力する天才だよ』って言ったらさ、『そんなの、才能のない下手くそなヤツに対するなぐさめの言葉だよ』って言って、わんわん泣いてさ……それでも、あの子は、努力することを決して諦めなかっただろ?」
俺は、幼い頃、母に匙を投げられて、泣きながら、バカみたいに何度も何度も、繰り返し、繰り返し、下手くそな、ショパンの『ワルツop.64-2』をレッスン室で弾き続ける兄の姿を思い出していた。
「努力する才能、か……俺には無かった才能だな」
練習室から微かに漏れてくる、愛美の下手くそな『きらきら星』に耳を澄ましながら、
「まだ、やり直せるかな?」
と俺は、ボソリと呟いた。
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