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最終章
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遡ること四日前、十一月十四日。セミファイナルの全日程が終了し、十八時にファイナルへと駒を進めるコンテスタントの審査発表があった。筆頭優勝候補者の、アレクセイ=ドミトリエフ、は言わずもがな……すべてのコンテスタントの演奏を聴いたわけではないが、皆、本当に素晴らしい演奏をしていた。勿論、万が一、ファイナルに進出した時のことも考えて、ファイナルで弾く曲の練習は怠たりはしなかったが、まさか、本当に残るとは思っていなかったのだ。祖母の電話で呼び出され、楽友協会のエントランスホールに到着した時には、審査発表は終わり、審査員陣が引き上げるところだった。優勝候補四人のうち、アメリカと中国のコンテスタントが落選し、アメリカの女性のコンテスタントが審査委員長に抗議するシーンを俺は目の当たりにした。取り乱した彼女は、俺の姿を目にすると、物凄い勢いで近付いてきて、
「Why are you chosen, I have to be defeated?」
(どうして、あなたが選ばれて、私が落選しなければならないのよ?)
「Are you twins brother of Sen Tanimura? Surely, it was chosen by topicality. Do not get carried away!」
(あなた、谷村泉の双子の弟なんでしょう? きっと、話題性で選ばれたのよ。調子に乗らないで!)
そう言うと、彼女は、キッと、俺を睨みつけて、泣きながら会場を去って行った。俺は、慧都音中時代の、渋谷ニナのことを、フッと思い出した。俺って、つくづく、女運悪いよなあ……と、腑抜けた顔をしている俺に対し、事の一部始終を見ていた祖母と母の顔は怒り心頭といった感じで、彼女の後を追い掛けて行きそうな勢いだったので、俺は、必死に二人を止めた。
「何だい、あの子! 感じ悪いったらないね!」
と祖母。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。俺はこういうの慣れっ子だから大丈夫! 全然気にしてないよ!」
「セミファイナルの舜くんの演奏は、本当に素晴らしかったわ! それに難癖つけて気分悪いわっ!」
普段、おとなしい母は、キレるととても怖いのだ。
「要するに……俺が、ファイナルの舞台で、彼女が納得する演奏すればいいんだろう?」
「そうね、ピアニストは“拳”じゃなくて“ピアノ”で勝負をつけるものよねっ!」
「えっ? 母さん、さっきの女の子と、拳を交えるつもりだったの? それはアウトでしょう」
そう俺が言うと、三人は、思わず、顔を見合わせて大笑いしてしまった。多少のハプニングはあったものの、もう少しで、泉と肩を並べることができるところまで近づいている実感が湧いてきて、俺は、思わず、武者震いした。
「Why are you chosen, I have to be defeated?」
(どうして、あなたが選ばれて、私が落選しなければならないのよ?)
「Are you twins brother of Sen Tanimura? Surely, it was chosen by topicality. Do not get carried away!」
(あなた、谷村泉の双子の弟なんでしょう? きっと、話題性で選ばれたのよ。調子に乗らないで!)
そう言うと、彼女は、キッと、俺を睨みつけて、泣きながら会場を去って行った。俺は、慧都音中時代の、渋谷ニナのことを、フッと思い出した。俺って、つくづく、女運悪いよなあ……と、腑抜けた顔をしている俺に対し、事の一部始終を見ていた祖母と母の顔は怒り心頭といった感じで、彼女の後を追い掛けて行きそうな勢いだったので、俺は、必死に二人を止めた。
「何だい、あの子! 感じ悪いったらないね!」
と祖母。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。俺はこういうの慣れっ子だから大丈夫! 全然気にしてないよ!」
「セミファイナルの舜くんの演奏は、本当に素晴らしかったわ! それに難癖つけて気分悪いわっ!」
普段、おとなしい母は、キレるととても怖いのだ。
「要するに……俺が、ファイナルの舞台で、彼女が納得する演奏すればいいんだろう?」
「そうね、ピアニストは“拳”じゃなくて“ピアノ”で勝負をつけるものよねっ!」
「えっ? 母さん、さっきの女の子と、拳を交えるつもりだったの? それはアウトでしょう」
そう俺が言うと、三人は、思わず、顔を見合わせて大笑いしてしまった。多少のハプニングはあったものの、もう少しで、泉と肩を並べることができるところまで近づいている実感が湧いてきて、俺は、思わず、武者震いした。
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