微熱 tags along 年下いとこと開いたドアの向こう側。

黒川未々

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後編

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 急かされるまま、シャワーを浴びた。

「正暉、お風呂にボタンいっぱいあった! 光るよ」
「わかった、わかった。後で一緒に入ってやるから」
「早く戻って来てね」
「わーった」

 待っている間に、迷いが生まれそうだった。けれど、正暉は別の意味として受け取ったかもしれない。
 バスローブを着たまま、ベッドに入る。裸にはなれなかった。罠にでも掛かったみたいに、身動きがとりづらい。「ウォーターベッドのお部屋です」の意味が分かった気がした。好き嫌いが分かれそうな寝心地をしている。だぱだぱと、もたつくマットレスに苦戦しながらも、ベッドサイドのパネルで照明を落とす。
 正暉は本当にすぐ戻って来た。何の躊躇ちゅうちょもなく、目の前でバスローブを脱いで見せる。直視できない私を、正暉にガン見されている。

「うお何だ、これ。気持ちわり。部屋選び、ミスった」
「あっはは、この部屋しか空いてないわけだよね」

 言っている途中で、バスローブを引っ張られた。

「俺のこと見てよ」

 反則的な甘えた声。心の奥のドアをノックされたみたいではっとした。時間差で寂しさまで伝わってくる。それでも――

「恥ずかしいよ……何年ぶりだと思ってんの?」
「去年の正月、プール行ったじゃん」

 去年も旅行をした。ホテルのプールに姉と行くことにしたら、正暉もついてきた。その時は姉の水着姿が見たいんだろうなと思っていた。正暉に水を掛けられたり突き飛ばされたりした後、私もヤケになって流れるプールで「おんぶして運んで!」って言った。ウォータースライダーが思ったよりもハードで、気持ち悪くなったから。正暉は一体どんな気持ちで私と密着していたのだろう。

「逃げないから、見慣れる時間だけ、ちょうだい」

 正暉はため息をついて、私の腕を離した。手を後ろに組んで、まだ慣れないウォーターベッドの上で寝転び直す。
 目の焦点をゆっくり合わせ、視線で正暉の体をなぞる。正暉の視線で、私の体も撫でられているのがわかる。
 可愛くて時に弟のように思っていた正暉の体。私と違って筋肉のある、正真正銘、男性の身体だった。触ったら少しだけぷにっとしてそう。きれいな肌。一歳しか違わないのに、私なんかのよりずっと瑞々みずみずしく見えた。これは据え膳だ。惜しげもなく健康的な体を私に捧げている。

「触るよ」
「おう……?」

 正暉が上体を起こすが早いか、私は正暉の膝から下にまたがる。

「ちょっ……」

 私が竿に触れると、正暉は言いかけてまた姿勢を戻した。
 触る前から、私の視線を受けて、ぴくっぴくっと揺れていたそこに顔を埋める。先っぽを舐めた。既に濡れている。溢れて来る。指でぬるぬるしたそれを塗りたくった。
 私は包皮に指を滑らせ、もう片方の手で根元をしごき始める。手に伝わる熱から、脈動から、漏れた息から、正暉が感じているのがわかった。私まで気持ちよくなって来る。

「剥けた」
「うるせぇ」

 喉のもっと深くで味わおうとすると突き飛ばされて、押し倒された。

「もういいよな? いいってことだよな?」
「まだイッてないけど」

 無意味な時間稼ぎ。正暉も私も、初めてじゃない。わかっていても、初めてみたいにドキドキしていた。まだこんな気持ちになれる私を、私も知らなかった。

「だからだよ。限界。触らせろや」

 正暉は私の太ももを持って、ぐいと脚を開かせる。視姦と言うに相応しいほどの目力で秘部を見つめられているのに、私も正暉から目を逸らせない。今の正暉を、逃さず見ていたい。きっと私も真顔だった。

「濡れてんじゃん」

 ナカでくいくいと指を動かされ、私はのけぞった。

「あ、洗ったから」

 正暉は不敵に笑う。

「俺の体見て、興奮したくせに」
「見ないで変態」
「どの口が言ってんだよ。俺のを剥いたその口か?」
「もう入るから、挿れて」

 口から出まかせだ。見られて、耐えられないくらい、気持ちがいい。それもバレていそうでたまらない。

「うるせぇ。これ見るのに何年かかったと思ってんだよ」

 正暉は無我夢中で顔を埋める。そんなに見たかったの? こんなにグロテスクなものを?

「いや……だめっ……あっ」

 舌でひだをかきわけられ、私も正暉に剥かれ、突起を可愛がられる。

「ああ、くそっ……暗くて見えねぇ」

 息も絶え絶えに私は言う。

「ごめん……部屋、暗くしちゃっ……た、から……」
「あぁ? ふざけんなよ。どれだよ」
「枕元の……ふふっ」

 申し訳ないけれど、笑ってしまう。可愛い。

「頭来た。マジで泣かす。俺、ちゃんと、次あったら覚悟しろって言ったからな?」
「正暉、好きだよ」
「騙されねぇぞ?」

 そう言って、指をグッと奥に入れると、胸にかぶりついた。これは夢だ。こんな絵面、いやらしすぎる。どうしてこうなった?
 指で何度か擦られただけで、すぐに硬くなる。強く吸われると、つま先に力がこもる。それさえも見破った正暉は、ピンと伸びた私の足を掴んで、膝を立たせるように促す。

「声、我慢したら殺す」

 上目づかいでにらまれ、私は情けなく答える。

「我慢してない、けど、エッチするの久しぶりだから、どうやって感じたらいいか、忘れちゃった」
「ったく、しょうがねぇな……」
「ん!」

 唇が触れ合う。私の中心が激しく悶えた。そういえば今日はキスをしていなかった。鼻を合わせると、泣きそうになった。

「正暉」

 怖いのに、止められない。すがるように呼んだ。正暉とキスをするのが、最早好きになっていた。

「みやちゃん」
「へぁ……?」

 舌を差し入れられ、変な声が出た。感じたのがバレたのか、指の動きがもっと激しくなる。

「みやちゃん、ずっと、俺……ずっと好きだった」

 何て答えたらいい? そう呼ばれるのは小学生ぶりだ。
 悩む私をよそに、正暉は恍惚としていた。私に乗っかって、腰を振っている。浅い挿入を繰り返すと隘路あいろは徐々に拡がった。

「はぁ……はぁ……」
「……はぁ……はぁ」

 心臓がうるさい。私も腰を動かすと、パンッと鳴った。その音が彼を一層急き立てる。恥骨がぶつかりそうなほど激しく、深く、私の中をおかしていく。

「やべ、出る。出していい?」
「え? あっ、ゴム、着けたっけ?」
「ごめん……っ……」
「あぅ……!」

 びゅるっ……
 体内を通って行く、聞こえないはずの音をお腹で感じた。気のせいなんかじゃない。ほら、また。
 収縮するナカと、可愛く震える正暉とは別に、じんわりとお腹を温めていく。

 感覚が尾を引く射精のあと、私に寄りかかる。

「出しちゃった……」

 照れくさそうに笑っていた。

じゃないよ、馬鹿……どうすんの? お姉ちゃんからアフターピルもらわなきゃ」
「俺も東京行く」
「出た、正暉の真似っ子」

 まさか、わざと……? 私の思う繊細で傷つきやすい正暉は、もっとしたたかだった?

「俺の卒業旅行、東京でいいよ」
「勝手にすれば。その時はもう他人だし」
「あ? そん時ゃ、泊めてくれんだよな?」
「どいてー、重いー」

 どいてくれたけど、うつぶせにされて、後ろからまた挿れられた。
 東京と北海道。距離ができてしまえば、正暉も私を忘れるはずだ。可愛いわがままくらい言わせてあげよう。寂しいと思うのは正しい心の作用だから、何も不健全なことじゃない。

「明日、どこ行く?」
「あっ……だめ……」

 かき混ぜられている気がする。

「明日、バイト」
「何時に終わる? ……なぁ、どうせ雀奈に聞くんだから答えろや」

 正暉は背中にキスをする。

「……っん!」

 うなじにも、音が鳴るまでゆっくり、長く。

「んー……」

 ここまでの日々を回想しているような、祈りや瞑想にも似た、不思議な沈黙のあと、背中に重みが戻ってきた。
 ぷかぷか浮いてるみたいな不思議なベッドで、腰の動きが波のように打ち寄せる。ギシギシ鳴らずに、私の体に沿って、私と正暉まで一つになったみたい。ナカと、ナカにある正暉の温度もほぼほぼ同じになって馴染んでいる。

「ヤッて逃げられると思うなよ?」

 耳元が、熱い息で湿りそう。
 胸がぎゅう……っと締め付けられた後、背筋がゾクゾクする。
 そうだ、さっき、背中にもキスされた。感じやすくなる魔法をかけられたみたい。
 快感につま先が浮く。ナカも熱くなってきた。パタンと足を落とすと、今度はマットレスに素っ気なく反発された。

「明日、終わるの遅いの。正暉、だめ、危ないから」
「俺だって、巳倭香が心配だよ……っ……」
「ん……緩くなっちゃう……」
「俺の大きいっしょ? 気に入った?」
「わかんないけど……被ってたの、可愛かった」
「お前、本当は余裕あるな?」

 腰を密着させて、ナカでぐりぐりと擦り付ける。

「あっ! あぁ! だめ、やだ。中出しやだ」
「だぁー! ったく……さっきゴム着けたから、逃げんな」
「本当?」
「おう。違い、わかんねぇ?」
「ん……ぼーっとしてて、わかんなかった」

 私の体の下に手を入れ、両手で胸を包んだ。私が横を向くと、顔が近づく。唇が届かない。もどかしげに舌を求め合った。

「いく……みやちゃん、いくよ」
「その呼び方、やだ」

 いけないことをしているみたい。

「っ……締まる……」

 その後、ふたりで光るお風呂に入った。ジャグジーのボタンもあった。ほかほかしたところで、また15分歩いてバスに乗った。
 外は真っ暗かと思ったけれど、積もった雪がわずかな光をぼんやりオレンジ色に反射させていた。
 途中に可愛い喫茶店があった。予定通りのバスに乗ることが出来たから、入らなかった。あのお店に行くことも、きっと一生ないだろう。

 翌日、お腹に違和感があった。季節柄、乾燥していたのかもしれないけれど、下着が肌にこすれるとピリッとする。だるさを隠し、時間いっぱい働いた後、バイト先まで母に車で迎えに来てもらった。若いって素晴らしい。でも、出来ればこんな無茶はもう、したくない。
 姉に叱られた。厳しさの奥に見えた優しさに、胸が痛んだ。
 帰ってすぐに寝支度を済ませ、ベッドに滑り込んでそのまま朝まで起きなかった。その間、スマホには正暉からの着信とメッセージが蓄積されていた。
 朝ご飯のあとで折り返したら、正暉に何度も謝られた。正暉も姉から叱られたそうだ。私からはきっと言えなかっただろうから助かった。

『ごめん……次は加減するから。絶対着けるし……』
「私も。煽っちゃったから」
『顔、見てぇんだけど。今日は?』
「あー……家にいるつもりだったけど……」
なんもしねぇよ』
「うち来る? お金掛からないし、お姉ちゃんもいるから怪しまれないよ」
『今日はそうだな……けど、俺もバイトする。俺といるせいで上京資金が減るの悪いし』
「バイトの相談しに来たって言えばいいかも。けど、頑張りすぎないでね」
『巳倭香にできるんだから俺にもできる』
「ふふ……それじゃ、楽しみにしてるね」

 お昼ご飯の後、正暉が来て、私の部屋で姉も交えてバイトの話をした。両親が買い物に行くと言うので、その隙にしばらくイチャついた。隣の部屋には姉もいるし、ホテルでの反省も踏まえ、服を着たまま、お互いの体を触り合う程度に留めた。

「やばっ、帰って来た」

 正暉は慌ててズボンを上げ、ベルトを締め直した。
 私もいろいろと留め直す。

「ごめん、赤くなっちゃった」

 正暉の肌が美味しそうで、夢中で首に吸い付いてしまった。

「キスマーク? いいよ」

 青ざめる私とは正反対に、正暉は姿見で髪型を直しながら、ご機嫌な笑みを浮かべている。

「痛くないの?」
「全然。しばらくタートルネックとかパーカー着るわ」

 そう言って、マフラーを巻いて隠した。

「不便だよね。本当、ごめんね」

 ドラマや漫画で見た甘美なキスマーク。現実は生々しいあざでしかなかった。大切な正暉の、大切な体になんてことをしてしまったのだろう。
 ぽん……と、私の頭に大きな手が乗せられる。

「そんなに謝るなや。喜んでる俺がアホみたいだろ」
「そっか、うん……来てくれてありがとう」

 また、謝ってしまいそうなところを飲み込んだ。
 私はあのラブホテルを出た瞬間から、嬉しそうな正暉を見ると胸が苦しい。そっくりだけど別の世界に繋がっていたのかもしれない。入る前には戻れない一方通行のドアだった。
 ドアはまだいくつもあるはずだ。正暉から離れて、もっともっと遠くへ行けるドアも。今はまだ開けられないだけで。

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