3 / 5
全クリ後
しおりを挟む部屋でやっていたゲーム【楽園】の世界に似た世界に転移されて十年の歳月が流れた。
地球の陰陽術や魔術は無かったが、この楽園の世界には魔導と呼ばれる力が存在し、ゲーム同様モンスターが存在する。
ただ、あまりにも強すぎる気もするが。
十年もこの世界にいれば価値観も変わる。飯の味になれたり、夜中にモンスターが街に入ってきたり、酒を飲んだり。楽とは言えないような毎日だったが、それなりに充実していた筈だ。
初めに比べれば言語を理解して自然と話せるようになった。
◇◇◇
「サクマ本当にすまない」
褐色肌の筋肉質な男が頭を下げる。屈しているわけではなく、心の底からの謝罪だった。
「問題ありませんよ。これが最善です」
大人になった佐久間が褐色肌の男を宥めた。
これは必要なことであり、謝罪するようなことではないと言いきる。
「むしろ、このためにゲームの世界|に来たんだと思います」
「それでもだ。我々の事情を押し付けてしまうことには変わらない」
「いいんですよ。私も魔王さんへの恩を返せて満足してます」
魔王と呼ばれた男の後ろから見た目は小学生くらいの女の子が出てくる。
「さくまーー、これからよろしくなのだ!!」
「はい、よろくしお願いします魔王の娘さん」
魔王の娘。目の前にいる少女はそう呼ばれている。
こちらの世界のいざこざにより、この世界にいると新たなる火種としてまたしても災いをもたらす事となる。それを防ぐための処置だ。
「娘を頼む。魔王の家系は名前が無い。そちらの世界では不便であろう。サクマが付けてやってくれ」
「わかりました」
魔王は最後に自分の娘の頭を撫でながら抱きしめ、惜しむように娘を佐久間に渡した。
「頼んだ」
「任されました」
瞬間、佐久間の右手にある指輪が光り出す。
一瞬、一つの瞬きの間に佐久間と魔王の娘の姿は消えていた。
しかし、それに魔王は驚かない。
もちろん今の芸当が凄くない訳ではない。ただ、魔王は知っている。佐久間がどれだけ大きな力を持っているかということを。
12の神器を集めた最強のアイテムコレクターであることを。
「やっぱサクマはバケモンだな」
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
次に佐久間と魔王の娘が現れたのは、人の国。
いつもならコロシアムでの死闘などの祭り事で活気があるが、何方かと言えば淡々とした静けさがある。
この空気はよく知っている。
戦争の前によく起こる空気だ。
静かだが、燃えている。聞こえないが激しい音が響き渡る。
とても恐ろしく、どこか安心できない。
そんな雰囲気の空だった。
──コンコン
「失礼します」
「やぁ、やっと来てくれたんだね」
「はい、次期勇者である彼女を引き取りに来ました」
「うん、話が早くて助かるよ」
魔王とは血統によって、先代が死ねば自動的に魔王の力が譲渡される。だからこそ、最後の血統である彼女を引き取った。魔王とは絶対的故に和解などできるものでは無い。争う運命しかないのだ。だからこそ、世界を渡る。先代魔王が死んだとしても力は世界を渡らないかもしれない。もし仮に世界を渡ったとしても、あちらの世界で彼女を魔王と知る者はいない。それが今回の狙いでもある。
勇者は聖剣によって選ばれた存在である。ある程度血統は関係ないとはいえないが、一族が滅んだとしても、聖剣は、勇者は途絶えることは無い。聖剣を持つには聖痕と呼ばれる、体に刺青のようなものが必要だ。それが無ければ持つことさえ許されない。
だから、現勇者は次期勇者の聖痕が現れたと同時にこの計画を進めた。
聖痕が現れたのは自分の娘。自分と同じ宿命を娘に味合わせることなどしてはいけない。だからこそ、彼も娘に世界を渡らせる。
これで聖剣から逃げられるかは分からない。だが、どちらか一つ、魔王か勇者な役割を担う1人が【楽園】を離れたなら、そのシステムは壊れる可能性が高い。
次期魔王、次期勇者。
一度でも現れてしまえば民衆は、彼女達に戦えと命じる。
それは歴史で語られてきた。
逃げることも出来なかった……今までは。
「…サクマさん、お願いします」
「畏まらなくても良いですよ」
先に話しかけようと思っていたが、彼女に先を越された。
魔王の娘よりは大人だが、所詮子供は子供。中学生くらいの女の子だ。25歳のおっさんから見れば、娘くらいにしか見えない。
「それじゃあヤシャさん、行きましょうか」
「…うん」
「やしゃいくのーー!!」
魔王の娘も元気そうに手を挙げて声を出す。
一緒に行くのは一人よりも2人の方が気持ち的に楽なのだろう。何せ初めての土地だ、それに加えここ【楽園】よりも発展している国だ。心細いのは無理がない。
そして現勇者の前からも三人は消える。
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる