犠牲を捧げる

ミルクティ

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お母さん

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そこには10、11歳くらいだろうか?
一人の少女が立っていた。

藍色のロングヘアに赤い瞳をした美しい少女だった、が、瞳に宿される爛々とした得体の知れない輝きや、全身から醸し出されるまがまがしいオーラが、人間では無いということを物語っていた。

「こんな所で何をしているの?」
ジリジリと距離を詰めてくる。

「いや、あの、えっとぉ、なんていうか」
この屋敷や森の主か、それに等しい者なのだろうか。それにしても、得体の知れないものとは、目を合わせるのに抵抗して、視線が下がってゆく。
しかし、その少女はお構いなしに近づいてくるのだ。
そして、彼女は思いもよらなかった言葉。口にしたのだ。
「いいから、早く家に入りましょう、お母さん」

えっ?
一気に視線が上に上がった。

今この少女から聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がする。

「お母さん?」

問いにきょとんとする少女。

「そうよ、お母さん久しぶりビックリしたでしょう?私よ、アドリアナよ」

アドリアナ…聞き覚えすらない単語だったが、
まぁ、おそらくきっとこの少女の名前なのだろう。
そのアドリアナであろう少女は、嬉々として私の手を握ってくる。
「行きましょう!」

そして、この年頃の少女とは思えない力で屋敷の中へ引き摺り込もうとしてきたのだ。
「え、あ、ちょっと待って、分かった、分かったから自分で行くから」
強すぎる力を振り払って、渋々少女に従ってみる。
ここで反発したところでメリットが見えてこないからだ。
恐る恐る屋敷へ足を踏み入れた。

全体像は暗く、赤や黒を基調としたヴァンパイア屋敷といった風貌だ。

吹き抜けになっている天井の上には大きなシャンデリアがあったが、埃を被っている。

この屋敷が暗いのはこのせいだろう。

この時はまだ知らなかった。

屋敷に足を踏み入れたが最後、今後私が、もう元の生活には戻れなくなるということを。


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