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第3章『天性の力を持つ少女』
3話
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まだ柔らかい陽の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
薄暗い部屋の中に1本の白い線ができている。
しんと静かな部屋の中、明るい小鳥の囀りで目が覚めた。
こんなにすっきりと目覚めたのはどれくらいぶりだろうか。
イズミは自分が熟睡していたことに驚いた。
上体をゆっくりと起こす。
そのままの姿勢でしばらくぼーっとしてみる。
長い髪を手で掻き上げると、自分の周りを見回した。
ふと、タクヤの姿が目に入った。
(……こいつか)
隣のベッドで、何の警戒心もなく無防備に眠るタクヤを見ると溜め息が出てしまう。
体が半分、布団からはみ出してしまっている。
大の字になり、気持ち良さそうに眠っている姿を見ると、何か悪さをしてしまいたくなる。
(顔に落書きでもしてやろうかな)
本当にやってしまおうかとも思ったが、あまりに無邪気な寝顔を見て、やる気が失せてしまった。
(……腹減ったな)
とりあえず、まずは朝ご飯である。
昨晩、イズミはタクヤに会う前に夕飯を済ませていた。
タクヤと一緒に食事に行かず、自分だけ先に寝てしまったのはその為であった。
ベッドから降りると、自分の荷物から着替えを出し、服を着替える。
そして、髪を束ねると洗面台に向かい、顔を洗う。
用意ができたところで食堂へ向かおうとしたのだが、後ろでドサッと何かが落ちる音がした。
振り返ると、タクヤの布団が落ちていた。
「…………」
大きく溜め息をつくと、仕方なくベッドへと戻る。
(……ったく、ガキか)
落ちてしまった布団を拾い上げると、無造作にタクヤに掛ける。
一瞬タクヤが何か反応をしたが、起きることはなく、そのまま眠り続けている。
イズミはもう1度大きく溜め息をつくと、今度は本当に食堂へと向かった。
☆☆☆
昨晩のタクヤと同じように受付で食堂の場所を聞こうと、まずは受付へと向かう。
廊下を歩いている時も、他に泊まり客はいないのかと思うほど静まり返っていた。
イズミは歩きながら、ふと廊下の窓の外をちらりと見た。
窓の外はすっかり明るくなっていて、澄んだ青空が広がっている。
バサバサと小鳥達が羽ばたく姿も確認できた。
「…………」
イズミはなんだか不思議な気分になっていた。
そんな気持ちのまま、階段を下り、受付へと向かう。
今回はちゃんと受付に人がいたので、すんなり探すことができた。
食堂へ入ると、まだ7時を回ったところだというのに結構人が来ていた。
やはり泊まり客のほとんどがこの食堂に集まっているらしい。
もしかしたら昨晩からそのままいる客もいるのかもしれない。
(……ここの連中は遊び好きなのか?)
酒場のような雰囲気の食堂を見て、イズミはそんな事を思っていた。
イズミはとりあえずカウンターの端に腰掛ける。
声を掛けてもいないうちにウエートレスが来た。
入ってきたのが分かったのか、これだけ他の客が大騒ぎしている店内でよく分かったなと、イズミは心の中でウエートレスに対して少し感心に似た気持ちを抱いていた。
「おはようございます! ……あら? 昨日のハンサム君の連れじゃないっ! 今日も一緒じゃないの?」
昨晩、タクヤに対応したウエートレスであった。
イズミは案の定、露骨に嫌な顔をしている。
「モーニングはあるか?」
ウエートレスの言葉を全く無視する。
しかし、そんなイズミの態度をウエートレスは全く気にしていないようであった。
「ありますよー。お飲み物はどうします? コーヒーでいいかしら?」
「あぁ。ブラックでな」
「はーい! 少々お待ちくださいねー」
ウエートレスは相変わらず元気に返事をすると、調理場へと行ってしまった。
(……あいつは何してんだ)
ウエートレスの後ろ姿を見ながらタクヤのことを考えた。
朝からこんなハイテンションな女の子に当たってしまったことを、自分の不運ではなく、タクヤのせいだと考えていた。
「お待たせしましたー。モーニングです。コーヒーはブラックでしたね」
イズミがぼーっと考え事をしている間にウエートレスが戻ってきた。
用意されていたのかずいぶん早かった。
モーニングには玉子とハム、トマトの入ったホットサンド。レタスと胡瓜が入ったツナサラダ。
そして、デザートに苺と林檎が盛り付けられた物とボリュームのあるものだった。
「コーヒー、お替わりできますから言ってくださいね」
ウエートレスがにっこりと付け加えた。
(根っからの商売人なんだろうか……)
ウエートレスの愛想の良さに鬱陶しさを通り越して、感心する気持ちが再びイズミの中にぼんやりと現れた。
「やっぱり綺麗ねー。ほんっとお似合いね。お2人さん!」
思わず感心してしまった自分が腹立たしく思えてしまった。
ホットサンドに手をのばそうとした瞬間、ウエートレスにそんな事を言われ、再び鬱陶しさが込み上げてきた。
「俺に話し掛けるな」
一言だけ感情を押し殺した口調で言った。
「あら、あなた綺麗な顔してるから女の子かと思ったけど、もしかして男だったの?」
ウエートレスは気にせず話し続ける。
もしかしたらタクヤより上手かもしれない。
「うるさいな。何でもいいだろ。用がないならどっか行ってくれないか?」
だんだん口調が不機嫌なものになる。
「ごめんなさい。あたし、女の子だとばっかり思ってたから。男の人に『綺麗』なんておかしいわよねぇ」
言われた意味を全く理解していないのか、わざとなのか。
ウエートレスの言葉によって、イズミは怒りの頂点に達してしまった。
「うるさいって言ってるのが分からないのか? 鬱陶しいんだよっ! もういいからさっさとどっか行けって言ってるんだっ」
急に怒鳴られ、ウエートレスは目を丸くしていたが、すぐにまたにっこりと笑うとめげずに話し始めた。
「そんなカリカリしてたらダメよー。人生楽しくいかなきゃつまんないわよ。綺麗な顔してるんだからもったいない。怒った顔も綺麗だと思うけど、笑ったら絶対もっと綺麗よ! って男の人に言っても仕方ないか」
エヘッと舌を出しながら無邪気に話す。
そんなウエートレスを見て、今までの憤りも冷めてしまった。
ふぅっと深く溜め息をつくと、呆れ顔でウエートレスを見る。
「あんたのそのよく分からん根性は一体どっからくるんだ?」
「えー? 根性なんて無いわよぉ。ただ、怒ったり泣いたり悲しんだりするのって、人間の感情だからあって当たり前なんだけど、どうせならいつも笑って楽しんでる方がずっといいじゃない?」
ウエートレスはにっこりと微笑む。
イズミは何て答えればいいのか分からなかった。
それどころか、今度はイズミがウエートレスの言葉に目を丸くしていた。
「あなたも、なんかつまんなさそうな顔してないで、笑ったら? 絶対もっと美人になるわよー。なーんてね。ふふっ。あの子、あなたのことすっごい好きみたいね。あのハンサム君」
ウエートレスは軽くウインクする。
イズミはしばらく何か考えているようだった。
ウエートレスは何の反応もないイズミを不思議に思い、覗き込むようにして見ている。
「おい。テイクアウトはできるのか?」
「えっ? ええ、できるわよ」
急にイズミが声を発したので驚いた様子であった。
「そうか。……頼みがあるんだが」
☆☆☆
「おい、起きろっ。いつまで寝てる気だ? さっさと起きねぇと置いてくぞ」
部屋に戻ると、タクヤは相変わらず大の字になって寝ていた。
イズミは声を発するのと同時に、タクヤの腹の辺りを蹴った。
「いってぇー……何すんだよっ! 腹を蹴るなよっ! もうちょっと優しい起こし方とかできねぇの? このサドっ!」
起きたばかりだというのに元気である。
イズミは見下すようにタクヤを見る。
「あぁ? うるせぇ。お前なんかに優しくしても何の得にもならん。起こしてもらえるだけで十分だろ」
そう言うと、荷物を持ってドアへと向かう。
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺まだ準備してねーのにっ!」
焦ってベッドから降りる。
イズミは立ち止まると振り返ってタクヤを見る。
「さっさと用意しろ。5分だけ待ってやる。それ以上は待たないからな」
そう言って腕を組み、ドアに凭れる。
「5分かよっ。ちくしょーっ!」
そう言いながらもタクヤは必死で準備をする。
「できたーっ! まだ5分経ってないだろ?」
満足そうにイズミを見る。
イズミはちらっと時計を見る。
「4分55秒……3、2、1……終了。もう待たないからな」
「ええっ! ちょっと待った。なんか忘れてる……。あっ! 飯っ! 朝飯はっ?」
「時間切れ。行くぞ。じゃなきゃ置いてく」
あっさり言い返されてしまった。
そんなーっとタクヤは腹に手を当てて口を尖らせる。
「おい」
イズミの声が聞こえたかと思うと、急に何か投げられた。
紙袋だ。何か入っている。やわらかくて温かいもの。
「ふんっ、うるさいウエートレスがお前にって」
イズミは無表情のまま話した。
中を見てみる。いい匂いがする。
「えっ? ホットサンドだ! うまそーっ。えっ、俺に?」
イズミは何も答えず部屋を出る。
なんだよーっと言いながらも、自分も荷物を持つと部屋を出る。
廊下を歩きながら、ホットサンドを食べようと取り出す。
その時、底に何か紙が入っていることに気が付いた。
荷物を肩に掛けると、その紙を取り出す。
どうやら手紙のようだった。
タクヤはホットサンドを口に入れながらそれを読む。
『おはようございます! これもうちの自慢のホットサンドだから冷めないうちに食べてね! あと、内緒なんだけど、これはあの綺麗なあなたのお連れさんに頼まれたのよ。大丈夫! あなたの気持ちはちゃんと彼に伝わってるわ! 彼、きっと照れ屋さんなのよ。今度またこの町に来たら、今度こそ2人で来てね! ウエートレス☆レナより』
思わず前を歩くイズミを見てしまった。
顔がにやけてしまう。
手紙を袋の中に戻すと、急いでイズミに追い付く。
「へへー。あの子いい子だねー」
タクヤは嬉しそうにイズミを覗き込む。
「お前と同じくらい欝陶しいけどな」
タクヤを見ることなく無表情に答える。
「なんでだよ! かわいくねー」
「お前にかわいいなんて思われたくねぇよ」
イズミは少しだけ顔を赤くしながら不機嫌に答えた。
薄暗い部屋の中に1本の白い線ができている。
しんと静かな部屋の中、明るい小鳥の囀りで目が覚めた。
こんなにすっきりと目覚めたのはどれくらいぶりだろうか。
イズミは自分が熟睡していたことに驚いた。
上体をゆっくりと起こす。
そのままの姿勢でしばらくぼーっとしてみる。
長い髪を手で掻き上げると、自分の周りを見回した。
ふと、タクヤの姿が目に入った。
(……こいつか)
隣のベッドで、何の警戒心もなく無防備に眠るタクヤを見ると溜め息が出てしまう。
体が半分、布団からはみ出してしまっている。
大の字になり、気持ち良さそうに眠っている姿を見ると、何か悪さをしてしまいたくなる。
(顔に落書きでもしてやろうかな)
本当にやってしまおうかとも思ったが、あまりに無邪気な寝顔を見て、やる気が失せてしまった。
(……腹減ったな)
とりあえず、まずは朝ご飯である。
昨晩、イズミはタクヤに会う前に夕飯を済ませていた。
タクヤと一緒に食事に行かず、自分だけ先に寝てしまったのはその為であった。
ベッドから降りると、自分の荷物から着替えを出し、服を着替える。
そして、髪を束ねると洗面台に向かい、顔を洗う。
用意ができたところで食堂へ向かおうとしたのだが、後ろでドサッと何かが落ちる音がした。
振り返ると、タクヤの布団が落ちていた。
「…………」
大きく溜め息をつくと、仕方なくベッドへと戻る。
(……ったく、ガキか)
落ちてしまった布団を拾い上げると、無造作にタクヤに掛ける。
一瞬タクヤが何か反応をしたが、起きることはなく、そのまま眠り続けている。
イズミはもう1度大きく溜め息をつくと、今度は本当に食堂へと向かった。
☆☆☆
昨晩のタクヤと同じように受付で食堂の場所を聞こうと、まずは受付へと向かう。
廊下を歩いている時も、他に泊まり客はいないのかと思うほど静まり返っていた。
イズミは歩きながら、ふと廊下の窓の外をちらりと見た。
窓の外はすっかり明るくなっていて、澄んだ青空が広がっている。
バサバサと小鳥達が羽ばたく姿も確認できた。
「…………」
イズミはなんだか不思議な気分になっていた。
そんな気持ちのまま、階段を下り、受付へと向かう。
今回はちゃんと受付に人がいたので、すんなり探すことができた。
食堂へ入ると、まだ7時を回ったところだというのに結構人が来ていた。
やはり泊まり客のほとんどがこの食堂に集まっているらしい。
もしかしたら昨晩からそのままいる客もいるのかもしれない。
(……ここの連中は遊び好きなのか?)
酒場のような雰囲気の食堂を見て、イズミはそんな事を思っていた。
イズミはとりあえずカウンターの端に腰掛ける。
声を掛けてもいないうちにウエートレスが来た。
入ってきたのが分かったのか、これだけ他の客が大騒ぎしている店内でよく分かったなと、イズミは心の中でウエートレスに対して少し感心に似た気持ちを抱いていた。
「おはようございます! ……あら? 昨日のハンサム君の連れじゃないっ! 今日も一緒じゃないの?」
昨晩、タクヤに対応したウエートレスであった。
イズミは案の定、露骨に嫌な顔をしている。
「モーニングはあるか?」
ウエートレスの言葉を全く無視する。
しかし、そんなイズミの態度をウエートレスは全く気にしていないようであった。
「ありますよー。お飲み物はどうします? コーヒーでいいかしら?」
「あぁ。ブラックでな」
「はーい! 少々お待ちくださいねー」
ウエートレスは相変わらず元気に返事をすると、調理場へと行ってしまった。
(……あいつは何してんだ)
ウエートレスの後ろ姿を見ながらタクヤのことを考えた。
朝からこんなハイテンションな女の子に当たってしまったことを、自分の不運ではなく、タクヤのせいだと考えていた。
「お待たせしましたー。モーニングです。コーヒーはブラックでしたね」
イズミがぼーっと考え事をしている間にウエートレスが戻ってきた。
用意されていたのかずいぶん早かった。
モーニングには玉子とハム、トマトの入ったホットサンド。レタスと胡瓜が入ったツナサラダ。
そして、デザートに苺と林檎が盛り付けられた物とボリュームのあるものだった。
「コーヒー、お替わりできますから言ってくださいね」
ウエートレスがにっこりと付け加えた。
(根っからの商売人なんだろうか……)
ウエートレスの愛想の良さに鬱陶しさを通り越して、感心する気持ちが再びイズミの中にぼんやりと現れた。
「やっぱり綺麗ねー。ほんっとお似合いね。お2人さん!」
思わず感心してしまった自分が腹立たしく思えてしまった。
ホットサンドに手をのばそうとした瞬間、ウエートレスにそんな事を言われ、再び鬱陶しさが込み上げてきた。
「俺に話し掛けるな」
一言だけ感情を押し殺した口調で言った。
「あら、あなた綺麗な顔してるから女の子かと思ったけど、もしかして男だったの?」
ウエートレスは気にせず話し続ける。
もしかしたらタクヤより上手かもしれない。
「うるさいな。何でもいいだろ。用がないならどっか行ってくれないか?」
だんだん口調が不機嫌なものになる。
「ごめんなさい。あたし、女の子だとばっかり思ってたから。男の人に『綺麗』なんておかしいわよねぇ」
言われた意味を全く理解していないのか、わざとなのか。
ウエートレスの言葉によって、イズミは怒りの頂点に達してしまった。
「うるさいって言ってるのが分からないのか? 鬱陶しいんだよっ! もういいからさっさとどっか行けって言ってるんだっ」
急に怒鳴られ、ウエートレスは目を丸くしていたが、すぐにまたにっこりと笑うとめげずに話し始めた。
「そんなカリカリしてたらダメよー。人生楽しくいかなきゃつまんないわよ。綺麗な顔してるんだからもったいない。怒った顔も綺麗だと思うけど、笑ったら絶対もっと綺麗よ! って男の人に言っても仕方ないか」
エヘッと舌を出しながら無邪気に話す。
そんなウエートレスを見て、今までの憤りも冷めてしまった。
ふぅっと深く溜め息をつくと、呆れ顔でウエートレスを見る。
「あんたのそのよく分からん根性は一体どっからくるんだ?」
「えー? 根性なんて無いわよぉ。ただ、怒ったり泣いたり悲しんだりするのって、人間の感情だからあって当たり前なんだけど、どうせならいつも笑って楽しんでる方がずっといいじゃない?」
ウエートレスはにっこりと微笑む。
イズミは何て答えればいいのか分からなかった。
それどころか、今度はイズミがウエートレスの言葉に目を丸くしていた。
「あなたも、なんかつまんなさそうな顔してないで、笑ったら? 絶対もっと美人になるわよー。なーんてね。ふふっ。あの子、あなたのことすっごい好きみたいね。あのハンサム君」
ウエートレスは軽くウインクする。
イズミはしばらく何か考えているようだった。
ウエートレスは何の反応もないイズミを不思議に思い、覗き込むようにして見ている。
「おい。テイクアウトはできるのか?」
「えっ? ええ、できるわよ」
急にイズミが声を発したので驚いた様子であった。
「そうか。……頼みがあるんだが」
☆☆☆
「おい、起きろっ。いつまで寝てる気だ? さっさと起きねぇと置いてくぞ」
部屋に戻ると、タクヤは相変わらず大の字になって寝ていた。
イズミは声を発するのと同時に、タクヤの腹の辺りを蹴った。
「いってぇー……何すんだよっ! 腹を蹴るなよっ! もうちょっと優しい起こし方とかできねぇの? このサドっ!」
起きたばかりだというのに元気である。
イズミは見下すようにタクヤを見る。
「あぁ? うるせぇ。お前なんかに優しくしても何の得にもならん。起こしてもらえるだけで十分だろ」
そう言うと、荷物を持ってドアへと向かう。
「ちょ、ちょっと待てよ! 俺まだ準備してねーのにっ!」
焦ってベッドから降りる。
イズミは立ち止まると振り返ってタクヤを見る。
「さっさと用意しろ。5分だけ待ってやる。それ以上は待たないからな」
そう言って腕を組み、ドアに凭れる。
「5分かよっ。ちくしょーっ!」
そう言いながらもタクヤは必死で準備をする。
「できたーっ! まだ5分経ってないだろ?」
満足そうにイズミを見る。
イズミはちらっと時計を見る。
「4分55秒……3、2、1……終了。もう待たないからな」
「ええっ! ちょっと待った。なんか忘れてる……。あっ! 飯っ! 朝飯はっ?」
「時間切れ。行くぞ。じゃなきゃ置いてく」
あっさり言い返されてしまった。
そんなーっとタクヤは腹に手を当てて口を尖らせる。
「おい」
イズミの声が聞こえたかと思うと、急に何か投げられた。
紙袋だ。何か入っている。やわらかくて温かいもの。
「ふんっ、うるさいウエートレスがお前にって」
イズミは無表情のまま話した。
中を見てみる。いい匂いがする。
「えっ? ホットサンドだ! うまそーっ。えっ、俺に?」
イズミは何も答えず部屋を出る。
なんだよーっと言いながらも、自分も荷物を持つと部屋を出る。
廊下を歩きながら、ホットサンドを食べようと取り出す。
その時、底に何か紙が入っていることに気が付いた。
荷物を肩に掛けると、その紙を取り出す。
どうやら手紙のようだった。
タクヤはホットサンドを口に入れながらそれを読む。
『おはようございます! これもうちの自慢のホットサンドだから冷めないうちに食べてね! あと、内緒なんだけど、これはあの綺麗なあなたのお連れさんに頼まれたのよ。大丈夫! あなたの気持ちはちゃんと彼に伝わってるわ! 彼、きっと照れ屋さんなのよ。今度またこの町に来たら、今度こそ2人で来てね! ウエートレス☆レナより』
思わず前を歩くイズミを見てしまった。
顔がにやけてしまう。
手紙を袋の中に戻すと、急いでイズミに追い付く。
「へへー。あの子いい子だねー」
タクヤは嬉しそうにイズミを覗き込む。
「お前と同じくらい欝陶しいけどな」
タクヤを見ることなく無表情に答える。
「なんでだよ! かわいくねー」
「お前にかわいいなんて思われたくねぇよ」
イズミは少しだけ顔を赤くしながら不機嫌に答えた。
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