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第7章『人形』
15話
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ふたりが部屋から出てくると、台所ではユキノとレナがお茶を飲んでいた。
そしてレナはふたりを見た途端、楽しそうに笑っている。
「レナ……まだいたの?」
最初に口を開いたのはタクヤであった。溜め息まじりに少しだけ嫌そうな顔でぼそりと話し掛ける。
「今、ユキノさんが作ってくれた朝御飯を食べてたの。もうふたり共ねぼすけさん」
レナはそう言ってふたりに向かってウインクするが、タクヤとイズミは同時にゾクッと寒気を感じていたのだった。しかしタクヤはハッと思い出すと、
「昨日は大変だったんだからなっ。レナ、ユキノさんにちゃんとお礼言った?」
苦笑いしながらレナに話す。そして、ちらっとユキノを見る。
「もちろん。泊まらせていただいた上にお茶も朝御飯もご馳走になったんだもの。それに、大変だったのはそこの美人さんだけでしょ」
レナはにっこりと微笑み、イズミを指差した。
「何言ってんの? レナだってすっごい酔っ払ってたじゃんか」
イズミのことを言われたのだが、なぜかタクヤが言い返していた。
「私は酔っ払ってなんかいないわよ。そこまで飲んでなかったもの。面白いからイズミ君に付き合ってただけよ?」
きょとんとした顔をしながらレナが答える。
「えっ?」
「えっ…………」
ふたり同時に声を上げたのだが、タクヤはぽかんとした顔をし、イズミは驚愕な表情をしたまま青ざめていた。
「えっ?」
ふとタクヤはイズミの様子に気が付き、心配そうにイズミを見下ろす。
「どうしたんだ? イズミ、顔真っ青だよ? 大丈夫か?」
そしてじっとイズミを覗き込む。体調でも悪いのかとタクヤは心配になっていた。
「……最悪……」
しかしイズミはタクヤに答えることはなく、ぼそりと呟く。
他の誰よりもレナに自分の醜態を見られたことにショックを受けていたのだった。思わず眩暈と吐き気が起きそうであった。
「酔っ払ってるイズミ君、可愛かったなぁ。滅多に拝めないものね、あんなイズミ君。うふっ」
「…………」
嬉しそうに話すレナからイズミは嫌そうに目を逸らす。相当ショックを受けているらしく、タクヤでも聞き取れないくらいの声で、何やら文句なのか愚痴なのか呪いの言葉なのかを呟いている。
「可愛い? めちゃめちゃ絡んでたじゃん」
レナの話を聞いて、イズミを横目に見ながらタクヤは意外そうな顔をする。
「まぁね。でもたぶん、眉間に皺寄せて、難しい顔しながら意地張ってるイズミ君よりずっと良かったわ。いろいろ本音も聞けたしね」
ふふっと笑いながらレナは相変わらず嬉しそうに話している。
「ちょっと待てっ! 本音って何だっ! そんな酔っ払ってる時に言ってることなんて、全くあてにならんだろうがっ!」
ハッとすると、イズミは青ざめながらもレナに向かって怒鳴りつける。
「酔ってる時だからこそ、普段言えないようなことも素直に言えちゃうのよ。あれは間違いなくイズミ君の本当の気持ちよ」
人差し指を立てながら、レナはイズミに怒鳴られても自信を持って言い切っていた。
「何? イズミの本当の気持ちって?」
ふたりの会話を聞いて、タクヤは不思議そうな顔をしながらイズミとレナを交互に見ながら尋ねる。
「知らねぇよ」
「なぁに? タクヤ君も聞いたじゃない。分からないの?」
しかしイズミは鬱陶しそうに答え、レナはじれったそうにタクヤを見るだけであった。
「えっ? 何のこと?」
「ねぇ、分かっててふざけてるのか、本当に分からないのかどっち?」
きょとんとした顔で見ているタクヤを、レナは呆れ返って問い返す。
「えっ? 分かんねぇよ。何のこと?」
本当に分からないといった顔で更に問い返すタクヤを見て、レナは大きく溜め息をついた。
「あなた、相当の馬鹿か超鈍感ね」
「こいつの場合どっちもだぞ」
「なんだよそれっ!」
レナの言葉にしれっと横からイズミが口を挟んだ。
そしてタクヤは更に腹を立て、ふたりに向かって怒鳴りつける。
「もう、本当にじれったいわね」
「だから何なんだよっ!」
「訳分かんねぇこと言ってんなよ」
溜め息をつきながら話すレナに、タクヤは顔を真っ赤にしながら怒鳴り、イズミはタクヤの横で鬱陶しそうな顔でレナを睨み付けていた。
「まったく白々しい。タクヤ君の場合、本当に分かっていないみたいだけど?」
レナはイズミをちらっと見た後、タクヤを呆れた顔で眺める。
「もうっ。なんなんだよさっきからっ。俺のこと馬鹿にしてっ。ちゃんと分かるように言わないからだろっ!」
ムッとした顔をしてタクヤが怒鳴り返す。
「あら、美人さんの方は分かったみたいだけど? まぁ、しらばっくれてるけどね」
そして再びレナはちらりとイズミを見る。
「そうなの? イズミ分かったのか?」
きょとんとした顔になるとタクヤは不思議そうに首を傾げながらイズミを見る。
「知るか」
しかしイズミは鬱陶しそうに答えると、レナの斜向かいにある椅子に腰掛けた。
「タクヤさんもどうぞ。今お茶入れますね。あ、あのっ、朝御飯はパンでよろしいですか?」
ユキノは呆然と3人の会話を聞いていたが、慌てて立ち上がり、タクヤとイズミに向かって声を掛けた。
「うん。ありがと」
タクヤはユキノが座っていたイズミの横の椅子に手をかけながらにこりと笑って答える。
「悪いな……」
イズミは元々世話になるつもりはなかったが、成り行き上こうなってしまった為、ぼそりと答える。
ユキノは頭を下げると、ふたりの朝食の準備をし始めた。
「なぁ、イズミも本当に分かってないのか?」
タクヤはそのまま椅子に腰掛け、耳打ちするようにイズミにこそっと話し掛ける。
「は? 何が?」
ちらりとタクヤを横目で見ると、イズミはタクヤに合わせることなく普通の声量で問い返す。
「だからぁ、さっきレナが言ってたこと」
タクヤは声を抑えながらも強く話す。
「知るか」
しかしイズミはタクヤを見ることなく鬱陶しそうに答えるだけであった。タクヤはそんなイズミをむぅっとした顔で見つめている。
「なーにこそこそと話してんのよ。そこのふたりっ」
目の前で何か言い合っているふたりを見て、レナは面白くなさそうに口を挟んだ。
「別に」
ふたり揃ってしれっとして答える。
「別にじゃないわよ。私も入れてよ。寂しいじゃないっ」
「知るか」
頬を膨らませて怒るレナに、イズミが鬱陶しそうに答える。
「…………」
そんなふたりをタクヤは不満そうな顔でじっと見ていた。
「なぁに? タクヤ君。そんな顔して」
タクヤの様子に気が付いたレナが不思議そうに覗き込む。
「……だってさ。何かふたり共、仲良さげじゃん?」
今度はタクヤが頬を膨らませる。
「何だそりゃ。お前、目腐ってんじゃねぇのか?」
タクヤの言葉に、イズミは本気で嫌そうな顔をした。
「いやだぁ。分かる? そうなの。私達仲良しなのよねー。一緒に飲んで騒いで、楽しかったなぁ」
イズミを全く無視して、レナは頬杖をつきながら楽しそうに話す。
「なんかムカつく」
タクヤはイズミの言葉よりもレナの話を聞いて口を尖らせていた。
普段、イズミは自分以外の人とはあまり話さない。そのことに少しだけ優越感を感じていたタクヤは、今イズミがレナと話し、ふたりが一緒に飲んでいたことも気に入らないのだ。
そして机に頬杖をつきながらぷくっと頬を膨らませる。
「お前、何膨れてんだよ。馬鹿じゃないのか? こんな女の話、真に受けんなよ」
そう言ってイズミは膨れているタクヤの右の頬を人差し指で刺す。
「だってさ」
タクヤは頬を刺されても、更に頬を膨らませる。
すると、イズミは面白がって何度もタクヤの頬を人差し指で刺していた。
「もうっ! 何すんだよっ!」
いつまでも自分の頬を人差し指で刺してくるイズミに、さすがに頭にきたタクヤは声を上げ、そのままイズミの指に噛み付こうとする。
「うわっ! 危ねぇな」
イズミは指を噛まれそうになり、慌てて引っ込める。
「……ねぇ、目の前でいちゃつかないでくれる?」
頬杖をつきながら、じっとふたりの様子を見ていたレナが、面白くなさそうに声を掛けてきた。
「いちゃついてんじゃなくて、苛められてんのっ!」
「ただの暇つぶし」
タクヤはムッとしながら声を上げ、イズミは鬱陶しがることもなく無表情に答えた。
「なんか、あなた達はそれでいいのかもね。私がごちゃごちゃ言ってもしょうがないみたい」
レナは溜め息をつきながら、独り言のように呟いた。
「何が?」
タクヤは不思議そうな顔で問い返し、ことんと首を傾げる。
「……他人のことより、あんたはどうなんだ? チョロチョロして、女ひとりで危険じゃないのか?」
タクヤを無視して、イズミは無表情にレナに向かって問い掛けた。
「心配してくれるの?」
「まさか。あんたに何かあると、またコイツがごちゃごちゃとうるさいんでな。面倒事は御免だ」
嬉しそうに問い返すレナに、イズミは冷めた目で答えた。
「まぁーた、そんなこと言って。本当は心配してくれてるんでしょ?」
「今すぐ死ね」
揶揄うように見つめてくるレナに、イズミは殺気を帯びた目で睨む。
「……やっぱ仲いい……」
言い合うふたりをじっと見ながら、タクヤは再び口を尖らせていた。
「……もうやだ……こんな奴ら……」
大きく溜め息をつきながらイズミはぼそりと呟き、額を押さえていた。
☆☆☆
「すみません。お待たせしました」
ユキノがふたりに声を掛け、パンが乗った皿とスクランブルエッグ、ベーコンとサラダが乗った皿をそれぞれ両手に持ってそっとテーブルに置く。
「手伝うわ」
レナは席を立つと、ユキノの手伝いを始めた。
「あの……飲み物はコーヒーでよろしいですか? すみません、聞くのを忘れてしまっていたのですが……」
朝食をテーブルに並べながら、ユキノがおずおずとふたりに尋ねた。
「いいよ。俺、ミルク入りね」
「ああ、俺も」
「えっ? 珍しいじゃんっ! ブラックじゃないの?」
タクヤが元気に答え、続いてイズミもぼそりと答える。
しかし、イズミの意外な答えにタクヤは驚き、不思議そうな顔でじっとイズミを覗き込んだ。
「うるせぇな。お前らのせいで気分が悪いんだよ」
イズミは頬杖をつきながら、嫌そうな顔でタクヤを見ることなく答える。
「それって、俺らのせいじゃなくて、ただの二日酔いなんじゃないの?」
「うるせぇっ」
タクヤは少し呆れた顔をしながら問い返すが、イズミはムッとした表情で、やはりタクヤを見ることなくぼそりと答える。
「あの……紅茶かミルクにしましょうか?」
ユキノはおろおろとイズミに話し掛ける。
「いや……いい。もう入れたんだろ?」
イズミは無表情にちらりとユキノを見て問い返す。
「あの……はい、すみません。あの……本当によろしいんですか? 入れ直しますけど……」
ユキノは相変わらずビクビクしながらイズミに問い掛ける。
『イズミ』の名前で反応しているというよりも、イズミ自身の雰囲気に怯えているようであった。美人ではあるが、笑顔がない為なんとなく怖い印象を与えているのだろう。
「……気にするな」
一瞬顔を顰めたイズミだったが、目を伏せて、落ち着いた声で答えたのだった。なんとなくユキノが自分に対して怯えていることに気が付いていたのだ。こういう反応には慣れている。
「じゃあ、ミルク温めて、多めに入れますね」
ユキノは緊張しながらも笑顔で話した。そしてすぐにまた用意をし始めた。
「イズミ……ユキノさん怖がってるじゃん。睨んだりしたらダメだぞ?」
ずっとふたりのやり取りを見ていたタクヤがじっとイズミを窺うようにして話し掛けた。
「俺がいつ睨んだよ? 元々こういう顔なんだよ」
怯えられていることに気が付いていたものの、タクヤの言葉にイズミは不機嫌な顔で答える。
「そうだよね。イズミって黙ってると怖いもんな」
タクヤがぼそりとそう話すと、イズミが物凄い勢いで睨み付けた。
そしてタクヤは体をびくつかせる。
「何だよ。自分で言ったくせに……」
「あぁ?」
「だから睨むなってばっ」
タクヤがぼそりと呟いた言葉を聞き逃さず、イズミはまた鋭く睨み付けた。
そしてタクヤは苦笑いしながら怒鳴り返していたのだった。
「あの……お待たせしました」
横からユキノがおずおずと声を掛けてきた。
「はい、そこ。いつまでも痴話喧嘩しない。見せつけない」
レナが真顔でピシャリとふたりに向かって言い聞かす。
「誰が痴話喧嘩だ。脳味噌腐ってんじゃねぇか?」
片目を細め、イズミは嫌そうに問い返す。
「何のこと?」
相変わらずタクヤは全く分かっておらず、不思議そうにレナを見ていた。
「ユキノさん。慣れればきっと面白いわよ、この人達。私は初めから楽しんで見てるけどね」
レナはうふっと笑いユキノを見る。
「はぁ……」
どう返事をしていいか分からず、ユキノは困った顔をしていた。
「どういう意味?」
なんとなく悪いことを言われたような気がして、タクヤは眉間に皺を寄せ、レナをじっと見る。
そして、その横ではイズミが大きく溜め息をついていた。
そしてレナはふたりを見た途端、楽しそうに笑っている。
「レナ……まだいたの?」
最初に口を開いたのはタクヤであった。溜め息まじりに少しだけ嫌そうな顔でぼそりと話し掛ける。
「今、ユキノさんが作ってくれた朝御飯を食べてたの。もうふたり共ねぼすけさん」
レナはそう言ってふたりに向かってウインクするが、タクヤとイズミは同時にゾクッと寒気を感じていたのだった。しかしタクヤはハッと思い出すと、
「昨日は大変だったんだからなっ。レナ、ユキノさんにちゃんとお礼言った?」
苦笑いしながらレナに話す。そして、ちらっとユキノを見る。
「もちろん。泊まらせていただいた上にお茶も朝御飯もご馳走になったんだもの。それに、大変だったのはそこの美人さんだけでしょ」
レナはにっこりと微笑み、イズミを指差した。
「何言ってんの? レナだってすっごい酔っ払ってたじゃんか」
イズミのことを言われたのだが、なぜかタクヤが言い返していた。
「私は酔っ払ってなんかいないわよ。そこまで飲んでなかったもの。面白いからイズミ君に付き合ってただけよ?」
きょとんとした顔をしながらレナが答える。
「えっ?」
「えっ…………」
ふたり同時に声を上げたのだが、タクヤはぽかんとした顔をし、イズミは驚愕な表情をしたまま青ざめていた。
「えっ?」
ふとタクヤはイズミの様子に気が付き、心配そうにイズミを見下ろす。
「どうしたんだ? イズミ、顔真っ青だよ? 大丈夫か?」
そしてじっとイズミを覗き込む。体調でも悪いのかとタクヤは心配になっていた。
「……最悪……」
しかしイズミはタクヤに答えることはなく、ぼそりと呟く。
他の誰よりもレナに自分の醜態を見られたことにショックを受けていたのだった。思わず眩暈と吐き気が起きそうであった。
「酔っ払ってるイズミ君、可愛かったなぁ。滅多に拝めないものね、あんなイズミ君。うふっ」
「…………」
嬉しそうに話すレナからイズミは嫌そうに目を逸らす。相当ショックを受けているらしく、タクヤでも聞き取れないくらいの声で、何やら文句なのか愚痴なのか呪いの言葉なのかを呟いている。
「可愛い? めちゃめちゃ絡んでたじゃん」
レナの話を聞いて、イズミを横目に見ながらタクヤは意外そうな顔をする。
「まぁね。でもたぶん、眉間に皺寄せて、難しい顔しながら意地張ってるイズミ君よりずっと良かったわ。いろいろ本音も聞けたしね」
ふふっと笑いながらレナは相変わらず嬉しそうに話している。
「ちょっと待てっ! 本音って何だっ! そんな酔っ払ってる時に言ってることなんて、全くあてにならんだろうがっ!」
ハッとすると、イズミは青ざめながらもレナに向かって怒鳴りつける。
「酔ってる時だからこそ、普段言えないようなことも素直に言えちゃうのよ。あれは間違いなくイズミ君の本当の気持ちよ」
人差し指を立てながら、レナはイズミに怒鳴られても自信を持って言い切っていた。
「何? イズミの本当の気持ちって?」
ふたりの会話を聞いて、タクヤは不思議そうな顔をしながらイズミとレナを交互に見ながら尋ねる。
「知らねぇよ」
「なぁに? タクヤ君も聞いたじゃない。分からないの?」
しかしイズミは鬱陶しそうに答え、レナはじれったそうにタクヤを見るだけであった。
「えっ? 何のこと?」
「ねぇ、分かっててふざけてるのか、本当に分からないのかどっち?」
きょとんとした顔で見ているタクヤを、レナは呆れ返って問い返す。
「えっ? 分かんねぇよ。何のこと?」
本当に分からないといった顔で更に問い返すタクヤを見て、レナは大きく溜め息をついた。
「あなた、相当の馬鹿か超鈍感ね」
「こいつの場合どっちもだぞ」
「なんだよそれっ!」
レナの言葉にしれっと横からイズミが口を挟んだ。
そしてタクヤは更に腹を立て、ふたりに向かって怒鳴りつける。
「もう、本当にじれったいわね」
「だから何なんだよっ!」
「訳分かんねぇこと言ってんなよ」
溜め息をつきながら話すレナに、タクヤは顔を真っ赤にしながら怒鳴り、イズミはタクヤの横で鬱陶しそうな顔でレナを睨み付けていた。
「まったく白々しい。タクヤ君の場合、本当に分かっていないみたいだけど?」
レナはイズミをちらっと見た後、タクヤを呆れた顔で眺める。
「もうっ。なんなんだよさっきからっ。俺のこと馬鹿にしてっ。ちゃんと分かるように言わないからだろっ!」
ムッとした顔をしてタクヤが怒鳴り返す。
「あら、美人さんの方は分かったみたいだけど? まぁ、しらばっくれてるけどね」
そして再びレナはちらりとイズミを見る。
「そうなの? イズミ分かったのか?」
きょとんとした顔になるとタクヤは不思議そうに首を傾げながらイズミを見る。
「知るか」
しかしイズミは鬱陶しそうに答えると、レナの斜向かいにある椅子に腰掛けた。
「タクヤさんもどうぞ。今お茶入れますね。あ、あのっ、朝御飯はパンでよろしいですか?」
ユキノは呆然と3人の会話を聞いていたが、慌てて立ち上がり、タクヤとイズミに向かって声を掛けた。
「うん。ありがと」
タクヤはユキノが座っていたイズミの横の椅子に手をかけながらにこりと笑って答える。
「悪いな……」
イズミは元々世話になるつもりはなかったが、成り行き上こうなってしまった為、ぼそりと答える。
ユキノは頭を下げると、ふたりの朝食の準備をし始めた。
「なぁ、イズミも本当に分かってないのか?」
タクヤはそのまま椅子に腰掛け、耳打ちするようにイズミにこそっと話し掛ける。
「は? 何が?」
ちらりとタクヤを横目で見ると、イズミはタクヤに合わせることなく普通の声量で問い返す。
「だからぁ、さっきレナが言ってたこと」
タクヤは声を抑えながらも強く話す。
「知るか」
しかしイズミはタクヤを見ることなく鬱陶しそうに答えるだけであった。タクヤはそんなイズミをむぅっとした顔で見つめている。
「なーにこそこそと話してんのよ。そこのふたりっ」
目の前で何か言い合っているふたりを見て、レナは面白くなさそうに口を挟んだ。
「別に」
ふたり揃ってしれっとして答える。
「別にじゃないわよ。私も入れてよ。寂しいじゃないっ」
「知るか」
頬を膨らませて怒るレナに、イズミが鬱陶しそうに答える。
「…………」
そんなふたりをタクヤは不満そうな顔でじっと見ていた。
「なぁに? タクヤ君。そんな顔して」
タクヤの様子に気が付いたレナが不思議そうに覗き込む。
「……だってさ。何かふたり共、仲良さげじゃん?」
今度はタクヤが頬を膨らませる。
「何だそりゃ。お前、目腐ってんじゃねぇのか?」
タクヤの言葉に、イズミは本気で嫌そうな顔をした。
「いやだぁ。分かる? そうなの。私達仲良しなのよねー。一緒に飲んで騒いで、楽しかったなぁ」
イズミを全く無視して、レナは頬杖をつきながら楽しそうに話す。
「なんかムカつく」
タクヤはイズミの言葉よりもレナの話を聞いて口を尖らせていた。
普段、イズミは自分以外の人とはあまり話さない。そのことに少しだけ優越感を感じていたタクヤは、今イズミがレナと話し、ふたりが一緒に飲んでいたことも気に入らないのだ。
そして机に頬杖をつきながらぷくっと頬を膨らませる。
「お前、何膨れてんだよ。馬鹿じゃないのか? こんな女の話、真に受けんなよ」
そう言ってイズミは膨れているタクヤの右の頬を人差し指で刺す。
「だってさ」
タクヤは頬を刺されても、更に頬を膨らませる。
すると、イズミは面白がって何度もタクヤの頬を人差し指で刺していた。
「もうっ! 何すんだよっ!」
いつまでも自分の頬を人差し指で刺してくるイズミに、さすがに頭にきたタクヤは声を上げ、そのままイズミの指に噛み付こうとする。
「うわっ! 危ねぇな」
イズミは指を噛まれそうになり、慌てて引っ込める。
「……ねぇ、目の前でいちゃつかないでくれる?」
頬杖をつきながら、じっとふたりの様子を見ていたレナが、面白くなさそうに声を掛けてきた。
「いちゃついてんじゃなくて、苛められてんのっ!」
「ただの暇つぶし」
タクヤはムッとしながら声を上げ、イズミは鬱陶しがることもなく無表情に答えた。
「なんか、あなた達はそれでいいのかもね。私がごちゃごちゃ言ってもしょうがないみたい」
レナは溜め息をつきながら、独り言のように呟いた。
「何が?」
タクヤは不思議そうな顔で問い返し、ことんと首を傾げる。
「……他人のことより、あんたはどうなんだ? チョロチョロして、女ひとりで危険じゃないのか?」
タクヤを無視して、イズミは無表情にレナに向かって問い掛けた。
「心配してくれるの?」
「まさか。あんたに何かあると、またコイツがごちゃごちゃとうるさいんでな。面倒事は御免だ」
嬉しそうに問い返すレナに、イズミは冷めた目で答えた。
「まぁーた、そんなこと言って。本当は心配してくれてるんでしょ?」
「今すぐ死ね」
揶揄うように見つめてくるレナに、イズミは殺気を帯びた目で睨む。
「……やっぱ仲いい……」
言い合うふたりをじっと見ながら、タクヤは再び口を尖らせていた。
「……もうやだ……こんな奴ら……」
大きく溜め息をつきながらイズミはぼそりと呟き、額を押さえていた。
☆☆☆
「すみません。お待たせしました」
ユキノがふたりに声を掛け、パンが乗った皿とスクランブルエッグ、ベーコンとサラダが乗った皿をそれぞれ両手に持ってそっとテーブルに置く。
「手伝うわ」
レナは席を立つと、ユキノの手伝いを始めた。
「あの……飲み物はコーヒーでよろしいですか? すみません、聞くのを忘れてしまっていたのですが……」
朝食をテーブルに並べながら、ユキノがおずおずとふたりに尋ねた。
「いいよ。俺、ミルク入りね」
「ああ、俺も」
「えっ? 珍しいじゃんっ! ブラックじゃないの?」
タクヤが元気に答え、続いてイズミもぼそりと答える。
しかし、イズミの意外な答えにタクヤは驚き、不思議そうな顔でじっとイズミを覗き込んだ。
「うるせぇな。お前らのせいで気分が悪いんだよ」
イズミは頬杖をつきながら、嫌そうな顔でタクヤを見ることなく答える。
「それって、俺らのせいじゃなくて、ただの二日酔いなんじゃないの?」
「うるせぇっ」
タクヤは少し呆れた顔をしながら問い返すが、イズミはムッとした表情で、やはりタクヤを見ることなくぼそりと答える。
「あの……紅茶かミルクにしましょうか?」
ユキノはおろおろとイズミに話し掛ける。
「いや……いい。もう入れたんだろ?」
イズミは無表情にちらりとユキノを見て問い返す。
「あの……はい、すみません。あの……本当によろしいんですか? 入れ直しますけど……」
ユキノは相変わらずビクビクしながらイズミに問い掛ける。
『イズミ』の名前で反応しているというよりも、イズミ自身の雰囲気に怯えているようであった。美人ではあるが、笑顔がない為なんとなく怖い印象を与えているのだろう。
「……気にするな」
一瞬顔を顰めたイズミだったが、目を伏せて、落ち着いた声で答えたのだった。なんとなくユキノが自分に対して怯えていることに気が付いていたのだ。こういう反応には慣れている。
「じゃあ、ミルク温めて、多めに入れますね」
ユキノは緊張しながらも笑顔で話した。そしてすぐにまた用意をし始めた。
「イズミ……ユキノさん怖がってるじゃん。睨んだりしたらダメだぞ?」
ずっとふたりのやり取りを見ていたタクヤがじっとイズミを窺うようにして話し掛けた。
「俺がいつ睨んだよ? 元々こういう顔なんだよ」
怯えられていることに気が付いていたものの、タクヤの言葉にイズミは不機嫌な顔で答える。
「そうだよね。イズミって黙ってると怖いもんな」
タクヤがぼそりとそう話すと、イズミが物凄い勢いで睨み付けた。
そしてタクヤは体をびくつかせる。
「何だよ。自分で言ったくせに……」
「あぁ?」
「だから睨むなってばっ」
タクヤがぼそりと呟いた言葉を聞き逃さず、イズミはまた鋭く睨み付けた。
そしてタクヤは苦笑いしながら怒鳴り返していたのだった。
「あの……お待たせしました」
横からユキノがおずおずと声を掛けてきた。
「はい、そこ。いつまでも痴話喧嘩しない。見せつけない」
レナが真顔でピシャリとふたりに向かって言い聞かす。
「誰が痴話喧嘩だ。脳味噌腐ってんじゃねぇか?」
片目を細め、イズミは嫌そうに問い返す。
「何のこと?」
相変わらずタクヤは全く分かっておらず、不思議そうにレナを見ていた。
「ユキノさん。慣れればきっと面白いわよ、この人達。私は初めから楽しんで見てるけどね」
レナはうふっと笑いユキノを見る。
「はぁ……」
どう返事をしていいか分からず、ユキノは困った顔をしていた。
「どういう意味?」
なんとなく悪いことを言われたような気がして、タクヤは眉間に皺を寄せ、レナをじっと見る。
そして、その横ではイズミが大きく溜め息をついていた。
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一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
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