NEVER☆AGAIN~それは運命の出会いから始まった~

ハルカ

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第8章『正体』

7話

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 歩き続けること3時間。
 まるで砂漠の中を彷徨っているかのように、辺り一面砂が広がっているだけで草木もない。太陽が西に傾き、もう間もなく夕方になろうかという時間であったが、一向に町も村も見えてこない。風もなく、オレンジ色をした太陽の柔らかい日差しが辺りを照らしているだけであった。

 いつものようにひとりで喋り続けていたタクヤであったが、突然ムスッとした顔をして立ち止まってしまった。
「どうした? もうばてたのか? 体力だけはありそうなのにな」
 イズミはタクヤが立ち止まったことに気が付くと、自分も立ち止まり、呆れた顔をしながら振り返る。
「違うよっ。そうじゃなくてっ、もうすぐ夕方だぞっ。ほら、もうお天道様があんなに下がってきてるじゃんかっ!」
 タクヤは頬を膨らませながら太陽を指差す。
「そうだな」
「『そうだな』じゃねぇよっ! 全っ然、町にも村にも着かねぇじゃんかっ! 見てよっ、この砂ばっかりの風景をっ! このまま歩いて夜になっちゃったらどうするんだよっ!」
 さらりと答えるイズミを指差しながら顔を真っ赤にして怒鳴る。
「俺は別にすぐに着くなんて一言も言ってねぇぞ」
「そうだけど……。でもっ、俺、野宿なんて嫌だかんねっ。しかもこんななんにもないような場所っ。もうっ、だからさっきの町で宿取れば良かったのにさ」
 無表情にさらりと答えるイズミに、タクヤは一瞬言葉を詰まらせながらも頬を膨らませながら怒鳴り、ついにはその場にしゃがみ込んでしまった。違うと言ったものの、疲れと不満が溜まり、イライラしていたのだった。
「鬱陶しい奴だな。だから嫌ならついてくんなって言っただろ? 俺は行くからな。戻るかここに残るか一緒に行くか、自分で決めろ」
 しゃがみ込んだタクヤを面倒臭そうにイズミが見下ろす。
「……行く」
 ムスッとした顔をしながらもぼそりと答えた。しかし立ち上がる気配は全くない。
「だったら、そんなとこに座り込んでないで、さっさと立て」
「じゃあっ、もし夜までに町も村も見つからなかったらっ?」
 相変わらず不機嫌な顔付きのままイズミを見上げる。ここで座り込んでいてもどうしようもないことは分かってはいるが、何か文句を言わずにはいられなかった。
「なんとかなるだろ」
 怒るタクヤを無視して表情を変えることなくさらりと答えると、イズミは再び歩き始めてしまった。
「なんとかなるって……ちょっ、ちょっと待ってよ」
 がっくりした表情で反応していたが、イズミが歩き出してしまったこと驚いて、立ち上がると慌てて後を追う。
「イズミっ、ちょっと、なんなんだよっ。『なんとかなる』なんて、らしくねぇじゃんかっ。人のこと行き当たりばったりとか言っといてっ」
「うるせぇな。お前の真似だ」
 追いつくなり怒鳴り散らすタクヤを見ることなくイズミは鬱陶しそうに答える。自分でもらしくないことは分かっているが、タクヤと同じように疲れが出ていたのだった。つまり、半分やけくそである。
「はぁ? 何それ?」
 タクヤはイズミの意外な答えに唖然としていた。なんだか最近のイズミはおかしい。今までのイズミからは考えられなくて思わず首を傾げたまま立ち尽くしてしまった。
「気分だよ気分。悪いか?」
 そしてイズミも立ち止まると、相変わらずタクヤを見ることなく鬱陶しそうに答えている。段々面倒臭くなってきていたのだった。
「ふ~ん。珍しいこともあるんだな……。でも、イズミっていっつもキチキチって感じだからいいんじゃねぇ?……何かあったのか?」
 首を傾げたままじっとイズミを見つめていたが、ふと考え問い掛ける。
「別に。……ただ、お前ら見てると真面目にやってる自分がバカらしく思えてきただけだ」
「なんで? 俺はいつでも真面目だぞ?」
「どこが? お前とは基準が違うんだよ」
 真剣に答えるタクヤをイズミは呆れながら横目で見る。『やはりこいつはバカだ』と心の中で呟きながら、再び面倒になってきていたイズミであった。
「基準って誰の? 一般的な基準で俺は真面目だもん」
 しかしタクヤはムッとした顔をして言い返す。自分はいつでも真面目だと疑っていなかったのだ。
「その一般的ってのがどういう基準だよ。お前の場合、真面目なんじゃなくて、真面目のつもりだろ」
 馬鹿にしたような目付きでタクヤを見る。
「つもりじゃねぇもんっ!」
「もういい。鬱陶しいな」
 頬を膨らませるタクヤを本当に面倒臭そうに眺めると、イズミはぼそりと呟きタクヤから目を逸らす。そして黙って足早に歩き始めたのだった。ただでさえ疲れているのにこんなバカに付き合っていられない。無駄な労力を使ってしまったと自分にも呆れてしまう。
「ちょっとっ! なんで急に離れていくんだよっ」
「もう、お前ウザいからちょっと黙ってろよ」
 ムッとした顔をしながら慌てて付いてくるタクヤをイズミは横目で睨み付けた。
「なんでだよっ! 大して喋ってねぇじゃんかっ。俺が何か話しててもどうせ聞いてないくせにっ」
『ウザい』と言われて腹が立つより傷ついてしまったタクヤは半分泣きそうな顔をしながら言い返す。
 しかし、そんなタクヤを気に掛けることなくイズミは本当に鬱陶しそうな顔で話すのだった。
「聞いてなくてもお前の声はでかいから、はっきり言って耳障りなんだよ。くだらねぇことしか言わねぇし」
「なっ! 耳障りって……こういう声なんだから仕方ねぇじゃんかっ! それに、俺の話はいつだってちゃんとしてるっ!」
 鬱陶しそうな顔をするだけでなく、目を逸らしてしまったイズミに対して、今度は顔を真っ赤にしながら怒る。なんでいつも馬鹿にされたり酷いことを言われたりするのか。もう悔しいのか悲しいのか怒れるのか、色んな感情がぐるぐると回ってタクヤは何がなんだか分からなくなっていた。
 そしてその場に立ち止まりイズミを睨み付ける。
「ちゃんとしてるって、どういう表現だよ。お前の話は聞く価値もない。はっきり言って時間の無駄」
 呆れた顔をすると、イズミもその場で立ち止まりタクヤを振り返る。しかし、再び面倒臭そうに淡々と答えるのだった。
「もうっ、すっげぇムカついたっ! 分かった。イズミにすんごいこと言ってやるから、しっかり聞けよっ!」
「アホくさ」
 顔を真っ赤にさせながらイズミを指差し怒鳴りまくるタクヤを、イズミは呆れた顔で見ると、再び前を向き歩き始めた。
 歩き出してしまったイズミをムッとしながら睨み付けると、タクヤは思い切り息を吸い込む。そして大声で叫んだ。
「イズミーっ。好きだ好きだ好きだぁーっ! めちゃめちゃ好きだぁーっ、大好――んぐ」
「っ!?……このっ、バカっ! うるさいっ! 黙れっ! アホなこと言ってんなっ!」
 ぎょっとして振り返るとイズミは顔を真っ赤にして怒鳴りながら戻ってきた。そして慌てて両手でタクヤの口を塞ぐ。本当にこの男はバカなのではないだろうか。究極のバカだと呆れ返る。
「へへっ、聞く価値あるだろ?」
 イズミの手をどけ嬉しそうにニヤリと笑うと、タクヤは腰に手を当てながら自信満々に話す。してやったりと思っているのだろう。
「アホ以下だ。……ったく、お前には恥じらいってもんはないのか?」
 溜め息を付き、イズミは顔を赤くしたまま嫌そうな顔でタクヤを睨み付ける。
「恥じらい? なんで? 俺、別に恥ずかしくないもん。イズミのこと好きって言って何が悪いんだよ」
 腰に手を当てたまま頬を膨らませるタクヤ。悪気は全くもってない。悪いと思っていないのだ。
「悪いとかそういうことじゃなくてだな」
 しかし、イズミは善悪の話ではなく、と更に呆れながらちらりとタクヤを見る。
「じゃあなんだよ」
「…………」
 不満そうに頬を膨らませるタクヤから目を逸らすと、イズミはそのまま黙り込んだ。
 するとイズミの反応を不思議に思ったタクヤはまじまじと覗き込むようにして見つめる。
「……何? イズミ、好きって言われんのが嫌なのか?」
「…………」
 しかし、イズミは相変わらず黙ったままであった。
「どっちだよ? いいのか駄目なのか。……イズミが嫌だって言うんならっ……もう言わないから」
 反応のないイズミを見つめながらも、タクヤは悲しい顔でしゅんとして凹んでしまった。
「……嫌じゃない」
 するとイズミは横を向いたままぼそりと呟いた。
「えっ?」
「聞き返すなよっ」
 きょとんとした顔で、相変わらず肝心なことは聞き逃すタクヤに、イズミは顔を赤くしながら怒鳴り付けるのだった。
「いや、えっと、聞き間違えたのかなって……。今『嫌じゃない』って言ったんだよな? そうだよな?」
 聞き返したものの、実はちゃんと聞こえていたタクヤであった。
 思わず更に聞き返してくるタクヤに、イズミは『もしや今までもそうだったのでは?』と物凄く嫌そうな顔をしながらも顔を赤くして答えるのだった。
「だからっ、何度も言わすなって言ってんだろっ」
 そしてタクヤからふいっと顔を逸らす。
 なんと、あのイズミが照れているのだろうか? とタクヤはまじまじと見つめる。そして、
「やったねっ。イズミ好きだぁーっ」
 思わず喜びすぎて声を上げ、そのまま勢いよくイズミを強く抱き締めたのだった。
「阿呆っ! くっつくなっ、鬱陶しいっ」
 ぎょっとした顔で声を上げると、イズミはタクヤを剥がそうとぐいぐいと両手で押したりもがいたりするが全く離れない。しかも、
「いいじゃん。減るもんじゃないし。……ねぇ、イズミ、チューしていい?」
 調子に乗ったタクヤはじっと自分の腕の中のイズミを見つめ、耳元でそっと囁くように話した。
「殺す」
 すると、どこから出したのか、イズミはカチャッと拳銃をタクヤの頭に当てたのだった。
 ひやりとした硬い感触と耳元で聞こえた音にぎょっとすると、
「じょ、冗談だって。言ってみただけじゃんっ」
 タクヤは慌ててイズミから離れ、苦笑いしながら両手を上げる。
「お前、1回死ね。そしたらもう少しマシになるかもしれないぞ」
 しかし、イズミは無表情にタクヤに銃を向けている。
「ちょっ、やめろってっ。なんかイズミさん、物凄く怖いです」
 自分は冗談のつもりであったが、なんだかイズミが本気で怒っているようだったので、タクヤは焦りながらじりじりと後退りするのだった。
「ったく……。今度したら次は絶対殺すからな」
 銃をしまうとイズミはタクヤから目を逸らし、舌打ちをしながら話した。銃がしまわれたことに安心すると、再びタクヤは不貞腐れながら呟いたのだった。
「もう……なんでだよー。抱き締めるくらい、いいのにさ。まだなんにもしてないのに……」
 しかし、再び耳元で『カチャッ』という音がして、冷や汗をかきながら慌てて逃げ出す。
「うわっ。すみません。ごめんなさーいっ」
「まったく、懲りない奴だな」
 イズミはタクヤを睨み付け深く溜め息を付く。そして再び歩き始めたのだった。


「……なぁ、イズミは俺のこと、どう思ってるんだよ」
 暫くして、少し後ろを歩いていたタクヤが口を尖らせながらイズミに尋ねた。
「どうって、どういう意味だよ」
「だからぁ、その、俺のこと好き?」
 上手く伝わらず、タクヤは半分自棄になり、顔を赤くしながら大声で問い返した。
「嫌い。お前、前にもそんなこと言ってなかったか?」
 振り返ることなくイズミは無表情にさらりと答え、鬱陶しそうに問い返す。
「そうだけどっ……何か最近イズミちょっと変わったしさぁ。気持ちも変わったかなぁって……」
 そしてタクヤもイズミに追いつくことなく、相変わらず少し後ろを歩きながら口を尖らせる。
「そんなわけねぇだろ。そんなすぐに変わるか阿呆」
「そんなことないよっ。短い時間で変わる事だってあるっ。今まで会ってきた人の中にだってそういう人、沢山いたしっ。……なぁ、イズミ。嘘でもいいから俺のこと『好き』って言ってみて」
 タクヤは少し怒ったように強く言い返した。そしてイズミの横に並ぶと、言うだけ無駄かもしれないと思いながらも、イズミに『好き』と言ってもらいたくて頼んでみたのだが、
「好き」
 イズミは淡々となんの感情もない声で答える。
「もういい」
「なんだよ。お前が言えっつったから言ったんだろうが。何をむくれてんだよ」
 ムスッとして横を向いてしまったタクヤを見て、イズミは不機嫌にタクヤを睨み付けた。
「だってイズミ、思いっ切り棒読みじゃんかっ。少しくらい感情込めて言ってくれたっていいのに」
「なんで感情込めなきゃなんねぇんだよ。お前、嘘でもいいって言ったじゃねぇか」
「そうだけどっ。でも、そんな棒読みで言われても嬉しくない。……ちょっとくらい俺の気持ちも考えてくれてもいいのにさ」
 口を尖らせタクヤは再び横を向く。分かっていたことだがイズミの反応が冷たくて悲しかった。
「お前の気持ちってなんだよ」
 はぁっと溜め息を付き、イズミは面倒臭そうにしながらもタクヤに問い掛ける。
「それはイズミだって知ってんじゃんか。俺はイズミのこと好きだから、やっぱ好きな人に『好き』って言われたい。それだけで俺、どれだけでも頑張れるよ。イズミが『頑張れ』とか『お前ならできる』とか言ってくれたら、俺たぶん、どんなことだってできるって思う」
 タクヤはイズミを見ると、真剣な顔で答えた。
「単純」
 黙って話を聞いていたイズミは呆れた顔で一言だけ呟く。
「どうせ単純だよっ」
「おい」
 ムスッとして再び横を向いてしまったタクヤにイズミが声を掛ける。
 呼び掛けられて、タクヤは思わず期待しながら振り返った。
 そしてイズミがぼそりと話す。
「俺は……お前のこと、嫌いじゃない」
「えっ? えっ? 嫌いじゃないってどういうこと?」
 イズミの言葉を自分の頭の中で必死に考えるが、どう受け取ればいいのか分からず、タクヤは動揺しながら聞き返した。
「好きじゃないが、嫌いでもない」
「え?……好きでも嫌いでもないって、俺のことなんとも思ってないってこと?」
 一瞬首を捻るが、『どちらでもない』といった言葉がまるで突き放されたように感じ、泣きそうな顔をしながらじっとイズミを見つめた。
「なんとも思ってないってことはないな」
「えっ!? えっ、じゃあ、なんて思ってるんだ?」
 無表情にさらりと答えるイズミの言葉に、タクヤは驚き、そしてドキドキと心臓が高鳴るのを感じながら尋ねる。
「バカ? あー、猿でもいいな」
「ちょっとっ! そういうことじゃなくてっ」
 少し上を見ながら考えるようにして答えるイズミに、がっくりと拍子抜けしたタクヤは苦笑いしながら声を上げる。
「じゃあなんだよ?」
 本当に分からなくて言っているのかわざとなのか、イズミはタクヤに問い返す。
「だからぁ、さっきから言ってんじゃん。俺はイズミが俺のこと好きか嫌いかって話してんだぞ?」
 なぜ伝わらないのかと再びタクヤはムッとして口を尖らす。
「……お前、ほんっと頭わりぃな。一回で理解しろっていつも言ってんじゃねぇか」
 しかし、イズミは面倒臭そうに答えるだけであった。はぁぁと大きく溜め息を付いている。
 それを見て再びタクヤが怒り出す。
「だってイズミが紛らわしいこと言うからだろっ。だいたい好きでも嫌いでもないって言われたら、俺なんてどうでもいいってことじゃんかっ! 嫌いって言われるより酷いよっ!」
 喚きながら、段々泣きそうな顔になっていった。
「じゃあ嫌い」
「そんなこと言ってねぇだろっ!」
 無表情に答えるイズミにタクヤは遂に泣きながら叫んでいた。
「うるせぇな。泣くなよ……みっともねぇな」
 イズミは溜め息まじりに呆れた顔で呟く。
「もういいよっ。イズミのバカっ!」
 タクヤは「畜生」と呟きながら、その場にまたしゃがみ込んでしまった。
 一体この駄々っ子はどうすればいいのかとイズミは再び大きく溜め息を付く。そして、
「ったく……。じゃあなんて言えばいいんだよ」
 と言って、仕方なさそうにタクヤを見下ろす。
「もういいって言ってんじゃん。どうせ俺はどうでもいい存在だよ」
 しゃがみ込んでしまったタクヤは目を真っ赤にさせながら横を向く。
 本当に19歳なのか? と疑問に思いながらイズミが呆れている。そして溜め息を付きながら話す。
「何拗ねてんだよ。俺が好きだって言えば納得するんだろうが」
「そういう問題じゃない」
「お前さっき自分でそう言ったじゃねぇか」
「そうだけどっ。でもやっぱほんとにそう思ってくれなきゃ嫌だ」
 相変わらずタクヤは横を向いたまま頬を膨らませている。しかしそう言われてイズミは冷めた目でタクヤを見下ろしたのだった。そして、
「……それは無理だな。俺は誰も好きじゃないし、誰も好きにならない」
 と、淡々と答える。
「何それ……。なんでだよっ。どうしてっ!」
 まさかそんなことを言うなんて、とタクヤは眉を顰め、じっとイズミを見上げる。
 そして立ち上がると怒鳴りながらイズミに詰め寄った。
「俺は誰にも興味はないし、好きにもならない。……どうしても俺に好きになってほしいなら、俺の心が動くぐらい、自分で何かしてみろよ。何もしないで好きになってもらおうなんて思うな。俺は優しさとか親切だとか、そんなくだらないことで人を好きになったりなんてしない」
 しかし、イズミは睨み付けるようにしてタクヤを見上げるだけであった。何を考えているのかは分からない。タクヤはイズミの言葉を黙って見下ろして聞いていたが、まるで怒りを抑えるようにぎゅっと拳を握り締めていた。
「ったく、くだらねぇこと言ってんなよ」
 何も答えないタクヤに溜め息を付くと、鬱陶しそうな表情を浮かべ再び歩き出した。しかし、その瞬間、タクヤはイズミを睨み付け大股に歩きイズミに追いついた。
 そしてイズミの肩を掴み、無理矢理振り向かせた。
「いてぇな、何す――」
 そしてイズミがムッとして文句を言いかけた瞬間、突然タクヤの唇がイズミの唇に重なった。 
 口を塞がれたイズミは最後まで言葉を発することができなかった。
 驚きすぎてすぐに反応できなかった。しかし、
「っ!?」
 ハッとすると、イズミは両手でタクヤを勢いよく突き飛ばした。
「てめっ……」
「これで少なくとも俺のこと嫌いになっただろ?」
 顔を真っ赤にしながら睨み付けるイズミをタクヤは真剣な顔でじっと見つめる。
「なんのつもりだ。お前、俺に嫌われたいのか?」
 タクヤの行動の意味も言った言葉も理解できず、イズミは無性に腹が立っていた。一体何がしたいのか。なぜわざわざ嫌われるようなことをするのか。
「嫌われたくなんかないよ。……でも知ってる? イズミ。嫌いって気持ちも好きって気持ちと同じくらい強いんだよ。嫌われたくないけど、あんなことされて、ムカついただろ? だから、これからずっと頭から離れないよ、俺のこと。イズミ絶対、俺のこと考えるようになる」
 真剣な表情で、じっとイズミを見つめながら話す。
 まさかそんなことを考えてやったのかとイズミは怒りから呆れに変わっていた。
「……呆れた。お前、やっぱりバカだ」
 溜め息を付き、じっとタクヤを見上げる。
「でも、効果はあったろ?」
 にやりと口角を上げ、タクヤはやっと嬉しそうに笑った。
「うるせぇバカ猿。あーもうっ、お前のことなんて嫌いになってやるっ。嫌いだ、大嫌いだ」
 すると、イズミは呆れた顔からムッと拗ねたような顔に変わるとタクヤから目を逸らした。
「嫌われたって、ずっとそばにいる。絶対離れない」
 文句でも言ってくるのかと思いきや、タクヤは再び真剣な顔でイズミを見つめている。そんなタクヤになんと返したらいいか分からず、
「…………勝手にしろ」
 と、イズミはムッとした表情のままちらりとタクヤを見上げ、すぐにまた不機嫌に横を向いてしまった。
「うん。勝手にする」
 そんなイズミを見つめながらタクヤは嬉しそうにそう言うと、イズミの右手を掴み歩き出した。
「てめっ、何してんだよっ! 離せっ」
 ぎょっとして声を上げると、イズミは怒りながら左手でタクヤの手を叩く。
「やだね。俺だっていつまでも負けてらんないし、これからは強引にいくからね」
 叩かれた手が赤くなっていても、タクヤはイズミの手を離すことなくそのまま歩き続ける。
「てめぇは十分強引だろが。いっつも俺が折れてやってるの分かんねぇのかよっ」
 イズミはタクヤに手を引かれ、振り払うことはしなかったが、タクヤをじっと睨み付けながら声を上げる。
「知ってるよ。だっていつもイズミ、最終的には俺の言うこと聞いてくれてたし、いつも俺のこと助けてくれてた。だから、俺もイズミのそばにいるし、これからは俺がイズミを守る。イズミだって、絶対に人を好きになることあるって思うし、それが『くだらない』なんてもう言わせない。俺が変える」
「…………」
 真剣に話すタクヤの言葉を聞いて、イズミはただじっと黙ってタクヤを見上げた。
「イズミは人間なんだから」
 タクヤは真っ直ぐ前を見たまま、そう付け加えた。
 そしてイズミは黙ってタクヤを見上げ、そのままタクヤに引かれながら歩いた。
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