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第15章『組織』
2話
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朝食を済ませた4人は再び西に向かって歩き出した。
先程約束したように、歩き出してすぐにカイが話し始めた。
「最初から話した方がいいだろうね」
その声に反応するように、タクヤは歩きながら斜め後ろのカイをちらりと見る。
「リョウは知ってると思うけど、5年前、俺は自分の力を強化する為に、ある場所へ修行に行ったんだ。あの頃はただ、強くなりたいという一心でいたから、甘い言葉に騙されているとも知らずに、ね」
「え?……騙されたって……」
カイの言葉に驚いた顔でリョウが見上げる。
「うん。……当時、町で結界を張ってる時に会った奴が、見たこともないような力を使うのを見て、自分も使えるようになりたいと思った。修行すれば使えるようになれると言われて信じてしまった。少し考えれば分かりそうなものを、あの頃は俺も子供だった。強くなるのに必死だったんだ。……あそこは、修行する場所なんかじゃなかった。力を持つ者を集めて、利用する為の場所だったんだ」
表情を変えることなくカイは淡々と話す。
「そんな……」
恐らくリョウも初めて聞く話なのだろう。カイの話を聞きながら真っ青な顔をしている。
「確かに、自分が思う以上の力を手に入れた。ただ、その代償も大きかった……」
今まで表情を変えていなかったカイの顔がふと曇る。
「代償?」
先程聞いた『発信機』の話に何か関係しているのだろうか。
嫌な予感がしながらも、タクヤはカイの言葉を聞き返した。
するとその場で立ち止まり、なんとも言いづらそうにカイはゆっくりと話し始めた。
「そうだね……。本当は、言いたくなかったんだけど、もう隠さない方がいいだろうね。……実は、俺が行ったその場所は、ある組織が運営している研究所で、そこに連れてこられた人は全て実験材料だった。俺もそのひとりだったんだ。……そして、俺の代償は、これだ」
突然上着を脱ぎ始めたかと思うと、カイは最後に話した『これ』というのをタクヤ達の目の前に見せる。
「っ!?」
全員が言葉を失ってしまった。
なんと、カイが見せたのは、肩から先の自身の左腕だったのだ。
まるで機械を分解するようなそんな仕草で取り外した。
彼の左腕は義手だったのだ。
「カイ兄っ!」
真っ青な顔でリョウがカイに詰め寄った。今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……俺が得た力の代償は左腕だ。この左腕は組織が作った『モノ』だよ。よくできてるよね。自分の意思で自由に動かすこともできる。感触もある。ほとんど自分の腕と変わらないと言っていいだろう。ただ……これは俺の腕ではない。奴らが実験しているのは、より精度の高いクローンなんだ」
再び自分の肩に嵌めるようにして左腕を付けると、カイは指を動かしたり腕を回したりして説明をする。
淡々と話しながらもどこか顔は自嘲気味になっていた。
「そんな……」
カイの話を聞きながらぐっと唇を噛み締めていたリョウは、カイの左手を両手でそっと掴んだ。
そしてその目には涙が溜まっていた。
事故や戦いの中ではなく、組織の実験の為に失ったカイの左腕のことを思うと、悲しくて堪らないのだろう。
「リョウ……そんな顔しないで。大丈夫だから。バカなことをしたとは思っているけど、俺は大丈夫だから」
今にも涙が溢れそうになっているリョウの頭をそっと撫でると、カイは優しい表情になっていた。
恐らく1番知られたくない人だったのだろう。今までのカイの行動を見ていれば分かる。
自分たちに話をしたがらなかったのも、きっとリョウに知られないようにする為だったのだと、今なら分かる。
しかし話をしたことで、もしかしたら、ずっと溜め込んでいた心の荷を手放した気持ちになっているのかもしれない。先程よりもどこかすっきりしたような顔をしている。
「カイ兄っ!」
溜まっていた涙が溢れ、リョウはカイにぎゅっと抱きついた。
「大丈夫なんかじゃないよっ! 腕がっ……なくなったんだよっ!」
ぎゅっとしがみつくように、カイの背中に手を回したリョウが泣きじゃくるようにして声を上げる。
「うん……ごめんね」
左手を背中に回し、カイは右手でそっとリョウの髪を撫でる。
「俺に謝んないでっ……」
リョウは泣き喚きながら必死にカイにしがみついていた。
「……カイも、『実験のひとり』って言ってたけど、他にもいたってことか?」
まさかの話にタクヤは苦しい気持ちのまま黙ってカイとリョウを見つめていたが、ふと気になって尋ねる。
カイの話で、今までのことが少しずつだが分かってきた気がしていた。
宿屋で突然現れた少女、バイクに乗った複数のアンドロイド。きっと全てその『組織』が作って操っていたものだったのだろうと。
「何人いたかまでは分からない。ただ、実験されていた人数は相当数いたと思うよ。かなり大きな研究所だったからね。でも、実験ではなく、作られたクローンはそこまで多くはない」
泣きじゃくっているリョウを撫でながら、カイはタクヤを見ながら答える。
「……クローンっていうのは、もしかしてさっき現れた奴らのことか?」
今までずっと黙っていたイズミがカイに問い掛けた。
奴らとは、イズミとアスカに似たあの3人のことを言っているのだろう。
「そうだね……彼らが作ろうとしているのは、より完璧な存在。ただのクローンではなくて、人を超える存在を作ろうとしている。そのオリジナルが『アスカ』だよ、イズミ」
泣いているリョウを離すと、カイはイズミの正面を向き、真面目な表情でそう話した。
しかしその言葉を理解できなかった。
死んだはずの『アスカ』が『オリジナル』とは、一体どういうことなのか。
先程約束したように、歩き出してすぐにカイが話し始めた。
「最初から話した方がいいだろうね」
その声に反応するように、タクヤは歩きながら斜め後ろのカイをちらりと見る。
「リョウは知ってると思うけど、5年前、俺は自分の力を強化する為に、ある場所へ修行に行ったんだ。あの頃はただ、強くなりたいという一心でいたから、甘い言葉に騙されているとも知らずに、ね」
「え?……騙されたって……」
カイの言葉に驚いた顔でリョウが見上げる。
「うん。……当時、町で結界を張ってる時に会った奴が、見たこともないような力を使うのを見て、自分も使えるようになりたいと思った。修行すれば使えるようになれると言われて信じてしまった。少し考えれば分かりそうなものを、あの頃は俺も子供だった。強くなるのに必死だったんだ。……あそこは、修行する場所なんかじゃなかった。力を持つ者を集めて、利用する為の場所だったんだ」
表情を変えることなくカイは淡々と話す。
「そんな……」
恐らくリョウも初めて聞く話なのだろう。カイの話を聞きながら真っ青な顔をしている。
「確かに、自分が思う以上の力を手に入れた。ただ、その代償も大きかった……」
今まで表情を変えていなかったカイの顔がふと曇る。
「代償?」
先程聞いた『発信機』の話に何か関係しているのだろうか。
嫌な予感がしながらも、タクヤはカイの言葉を聞き返した。
するとその場で立ち止まり、なんとも言いづらそうにカイはゆっくりと話し始めた。
「そうだね……。本当は、言いたくなかったんだけど、もう隠さない方がいいだろうね。……実は、俺が行ったその場所は、ある組織が運営している研究所で、そこに連れてこられた人は全て実験材料だった。俺もそのひとりだったんだ。……そして、俺の代償は、これだ」
突然上着を脱ぎ始めたかと思うと、カイは最後に話した『これ』というのをタクヤ達の目の前に見せる。
「っ!?」
全員が言葉を失ってしまった。
なんと、カイが見せたのは、肩から先の自身の左腕だったのだ。
まるで機械を分解するようなそんな仕草で取り外した。
彼の左腕は義手だったのだ。
「カイ兄っ!」
真っ青な顔でリョウがカイに詰め寄った。今にも泣き出しそうな顔をしている。
「……俺が得た力の代償は左腕だ。この左腕は組織が作った『モノ』だよ。よくできてるよね。自分の意思で自由に動かすこともできる。感触もある。ほとんど自分の腕と変わらないと言っていいだろう。ただ……これは俺の腕ではない。奴らが実験しているのは、より精度の高いクローンなんだ」
再び自分の肩に嵌めるようにして左腕を付けると、カイは指を動かしたり腕を回したりして説明をする。
淡々と話しながらもどこか顔は自嘲気味になっていた。
「そんな……」
カイの話を聞きながらぐっと唇を噛み締めていたリョウは、カイの左手を両手でそっと掴んだ。
そしてその目には涙が溜まっていた。
事故や戦いの中ではなく、組織の実験の為に失ったカイの左腕のことを思うと、悲しくて堪らないのだろう。
「リョウ……そんな顔しないで。大丈夫だから。バカなことをしたとは思っているけど、俺は大丈夫だから」
今にも涙が溢れそうになっているリョウの頭をそっと撫でると、カイは優しい表情になっていた。
恐らく1番知られたくない人だったのだろう。今までのカイの行動を見ていれば分かる。
自分たちに話をしたがらなかったのも、きっとリョウに知られないようにする為だったのだと、今なら分かる。
しかし話をしたことで、もしかしたら、ずっと溜め込んでいた心の荷を手放した気持ちになっているのかもしれない。先程よりもどこかすっきりしたような顔をしている。
「カイ兄っ!」
溜まっていた涙が溢れ、リョウはカイにぎゅっと抱きついた。
「大丈夫なんかじゃないよっ! 腕がっ……なくなったんだよっ!」
ぎゅっとしがみつくように、カイの背中に手を回したリョウが泣きじゃくるようにして声を上げる。
「うん……ごめんね」
左手を背中に回し、カイは右手でそっとリョウの髪を撫でる。
「俺に謝んないでっ……」
リョウは泣き喚きながら必死にカイにしがみついていた。
「……カイも、『実験のひとり』って言ってたけど、他にもいたってことか?」
まさかの話にタクヤは苦しい気持ちのまま黙ってカイとリョウを見つめていたが、ふと気になって尋ねる。
カイの話で、今までのことが少しずつだが分かってきた気がしていた。
宿屋で突然現れた少女、バイクに乗った複数のアンドロイド。きっと全てその『組織』が作って操っていたものだったのだろうと。
「何人いたかまでは分からない。ただ、実験されていた人数は相当数いたと思うよ。かなり大きな研究所だったからね。でも、実験ではなく、作られたクローンはそこまで多くはない」
泣きじゃくっているリョウを撫でながら、カイはタクヤを見ながら答える。
「……クローンっていうのは、もしかしてさっき現れた奴らのことか?」
今までずっと黙っていたイズミがカイに問い掛けた。
奴らとは、イズミとアスカに似たあの3人のことを言っているのだろう。
「そうだね……彼らが作ろうとしているのは、より完璧な存在。ただのクローンではなくて、人を超える存在を作ろうとしている。そのオリジナルが『アスカ』だよ、イズミ」
泣いているリョウを離すと、カイはイズミの正面を向き、真面目な表情でそう話した。
しかしその言葉を理解できなかった。
死んだはずの『アスカ』が『オリジナル』とは、一体どういうことなのか。
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