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第16章『再会』
6話
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先程よりもスピードが上がったバイクが激しく揺れる。
大きな障害物がないだけマシなのだろうが、体重の軽いイズミはバイクが大きく揺れる度に体がふわりと浮かびそうになっていた。
「おいっ!」
もちろん運転手に文句を言っても仕方がないのは分かっているのだが、何か言わずにはいられなかった。
「ははっ、さすがにちょっとまずいね」
ぼそりと呟く声がヘルメットから聞こえてきた。
先程までの余裕さはなく、漸く焦ってきたかのようなカイの声だ。
その時だった。
ブォンッと横からバイクの音が聞こえた。
1台ではない。何台かいるようなそんな音の重なり方である。
「っ!?」
ハッとして横を見ると、複数台のバイクに囲まれていることが分かった。
先程カイが言った言葉が今更ながら理解できた。
「こいつらっ」
思わず声を上げる。
「知り合いか?」
「んなわけあるかっ!」
ヘルメットから聞こえたなんとも呑気なカイの問い掛けに思わず怒鳴った。
こんな時にふざけている場合かと。
ふたりが乗るバイクの周りを走っているのは以前タクヤと一緒にいた時に見た、あのアンドロイドであった。
前より台数は少なそうだが、左右に1台ずつ、後ろにも数台いるようだ。
「あんな機械型を見るのは初めてだけど……彼らの攻撃方法は知ってる?」
運転に集中しながらカイはアンドロイドについてイズミに確認する。
まさかあんなものが追いかけてくるとは思ってもみなかった為、冷静なように見えて実は内心焦っていた。
道が悪い分、バイクを走らせるだけで正直手一杯である。
今のところアンドロイドが攻撃してくる様子はないが、これ以上厄介なことがなければいいが、と眉間に皺を寄せていた。
「分からん。前に見た時は腕から剣を出していた」
カイの質問に周りを気にしながら答える。
以前もそうだったが、アンドロイドの目的が分からない。
「なるほど……じゃあ、飛び道具がないことを願って逃げ切ればなんとかなるかな」
ぼそぼそとカイが話している。
しかし、逃げ切ると言っても相手はアンドロイドが運転する複数のバイクである。
どうやって逃げ切ろうというのだろうか。
「イズミ、運転しながら術を使うのは無理そうだから、もう少し飛ばすよ。あと、ちょっと荒いこともするかもしれないから、落ちないように気を付けてね」
それだけ言うと、カイはイズミの返事を待つことなく更にスピードを上げた。
「ちょっ……」
強い風圧でぐっと後ろに飛ばされそうになり、慌ててイズミはカイの体にしがみつく。
まさか本当に振り切ろうとしているのだろうか。
隣に見えていたバイクがいつの間にか見えなくなっている。
そして先程まで聞こえていた他のバイクの音が少しだけ遠くなった気がした。
このまま逃げ切れるか?
そう思った瞬間、前方からもバイクに乗ったアンドロイドが走ってきたようだった。
「くっ……」
スピードを落とし、左足を出しながらカイが左にバイクを傾け90度向きを変える。
「っ!」
体がぐらりと傾き、イズミは必死にカイの体にしがみつくとバイクを挟む脚に力を入れる。
斜めになった車体を真っすぐに戻し、カイは再びアクセルを全開させた。
突然の方向転換に、さすがのイズミも振り落とされるかと焦っていた。
そして『ちょっと荒いこと』とは聞いていたが、心の中で『ちょっとじゃないだろっ!』と突っ込んでいたのだった。
進行方向を90度変えたものの、すぐにアンドロイドが後ろから追ってきているのが分かった。
やはりこのまま振り切るのは無理なようだ。
そう思った時だった。
「しっかり掴まってっ!」
突然ヘルメットからカイの叫ぶ声が聞こえた。
「はっ?」
思わず聞き返す。
先程からずっとしっかり掴まっていると突っ込みたくなる程だった。
「口閉じてっ!」
次に聞こえてきたのはそんなセリフだった。
全く意味が分からなかったが、意味のないことをするとは思えず、イズミは言われた通りにぐっと口を固く閉じ、歯を食いしばる。
ブオンッ! と今までになく大きくエンジン音が鳴ったかと思うと、感じるはずのない浮遊感を感じた。
「っ!?」
そして次にきたのは、がくんと下半身全体への大きな衝撃だった。
「いてっ……」
思わず声が出てしまった。今の衝撃はなんだったのか。
すると、すぐにそのままバイクが停止した。
「……?」
イズミは不思議そうに周りを見る。どこか離れた所からバイクのエンジン音が聞こえてくる。
一体どうなったのか?
「ごめん、イズミ。大丈夫だった?」
今度は再び落ち着いたカイの声が聞こえた。
「え?」
ふと前に座るカイを見上げる。
「ちょっと無理したからね。でも、これでなんとかまけそうかな」
ハンドルを握ったままカイがこちらを振り返った。
言っている意味が分からずイズミは黙って首を傾げる。
「ほら、彼らはあそこだよ」
そう言ってカイは後ろの方を指差した。
振り返って見ると何か崖のようなものがある。
不思議に思いながらそのまま顔を上げると、その崖の上に先程のアンドロイドが乗ったバイクが複数台止まっているのが見えた。
「は?」
あの崖からバイクで飛び降りたのか?
そう考えていると、
「一か八かだったけど、落ちなくて良かったよ」
とカイの安堵する声が聞こえた。
(落ちなくて良かった?)
嫌な予感がしてイズミは思わずヘルメットを外す。
ヘルメット越しではよく見えなかったが、目の前の崖と自分たちが今いる場所との間に大きな割れ目があったのだ。
「おいっ!」
思わず振り返ってカイを睨み付ける。
まさか崖だけじゃなく、あれを飛び越えたというのか?
「うん、だから一か八かだったんだよ」
まるで心の声が聞こえたかのような答えだった。
ヘルメットを被っていて分からないが、淡々とした声と微かに見えた笑顔にイズミは思わず溜め息を漏らす。
「奴らも越えてくるかもしれないから行こうか」
そう言ってカイは再び前を向く。
イズミはじっと崖の上のアンドロイドを見上げた。
こちらに来るような気配はないが、追ってこないとは言い切れない。
再びヘルメットを被るとぎゅっとカイの体にしがみつく。
ゆっくりと、再びバイクが走り出した。
大きな障害物がないだけマシなのだろうが、体重の軽いイズミはバイクが大きく揺れる度に体がふわりと浮かびそうになっていた。
「おいっ!」
もちろん運転手に文句を言っても仕方がないのは分かっているのだが、何か言わずにはいられなかった。
「ははっ、さすがにちょっとまずいね」
ぼそりと呟く声がヘルメットから聞こえてきた。
先程までの余裕さはなく、漸く焦ってきたかのようなカイの声だ。
その時だった。
ブォンッと横からバイクの音が聞こえた。
1台ではない。何台かいるようなそんな音の重なり方である。
「っ!?」
ハッとして横を見ると、複数台のバイクに囲まれていることが分かった。
先程カイが言った言葉が今更ながら理解できた。
「こいつらっ」
思わず声を上げる。
「知り合いか?」
「んなわけあるかっ!」
ヘルメットから聞こえたなんとも呑気なカイの問い掛けに思わず怒鳴った。
こんな時にふざけている場合かと。
ふたりが乗るバイクの周りを走っているのは以前タクヤと一緒にいた時に見た、あのアンドロイドであった。
前より台数は少なそうだが、左右に1台ずつ、後ろにも数台いるようだ。
「あんな機械型を見るのは初めてだけど……彼らの攻撃方法は知ってる?」
運転に集中しながらカイはアンドロイドについてイズミに確認する。
まさかあんなものが追いかけてくるとは思ってもみなかった為、冷静なように見えて実は内心焦っていた。
道が悪い分、バイクを走らせるだけで正直手一杯である。
今のところアンドロイドが攻撃してくる様子はないが、これ以上厄介なことがなければいいが、と眉間に皺を寄せていた。
「分からん。前に見た時は腕から剣を出していた」
カイの質問に周りを気にしながら答える。
以前もそうだったが、アンドロイドの目的が分からない。
「なるほど……じゃあ、飛び道具がないことを願って逃げ切ればなんとかなるかな」
ぼそぼそとカイが話している。
しかし、逃げ切ると言っても相手はアンドロイドが運転する複数のバイクである。
どうやって逃げ切ろうというのだろうか。
「イズミ、運転しながら術を使うのは無理そうだから、もう少し飛ばすよ。あと、ちょっと荒いこともするかもしれないから、落ちないように気を付けてね」
それだけ言うと、カイはイズミの返事を待つことなく更にスピードを上げた。
「ちょっ……」
強い風圧でぐっと後ろに飛ばされそうになり、慌ててイズミはカイの体にしがみつく。
まさか本当に振り切ろうとしているのだろうか。
隣に見えていたバイクがいつの間にか見えなくなっている。
そして先程まで聞こえていた他のバイクの音が少しだけ遠くなった気がした。
このまま逃げ切れるか?
そう思った瞬間、前方からもバイクに乗ったアンドロイドが走ってきたようだった。
「くっ……」
スピードを落とし、左足を出しながらカイが左にバイクを傾け90度向きを変える。
「っ!」
体がぐらりと傾き、イズミは必死にカイの体にしがみつくとバイクを挟む脚に力を入れる。
斜めになった車体を真っすぐに戻し、カイは再びアクセルを全開させた。
突然の方向転換に、さすがのイズミも振り落とされるかと焦っていた。
そして『ちょっと荒いこと』とは聞いていたが、心の中で『ちょっとじゃないだろっ!』と突っ込んでいたのだった。
進行方向を90度変えたものの、すぐにアンドロイドが後ろから追ってきているのが分かった。
やはりこのまま振り切るのは無理なようだ。
そう思った時だった。
「しっかり掴まってっ!」
突然ヘルメットからカイの叫ぶ声が聞こえた。
「はっ?」
思わず聞き返す。
先程からずっとしっかり掴まっていると突っ込みたくなる程だった。
「口閉じてっ!」
次に聞こえてきたのはそんなセリフだった。
全く意味が分からなかったが、意味のないことをするとは思えず、イズミは言われた通りにぐっと口を固く閉じ、歯を食いしばる。
ブオンッ! と今までになく大きくエンジン音が鳴ったかと思うと、感じるはずのない浮遊感を感じた。
「っ!?」
そして次にきたのは、がくんと下半身全体への大きな衝撃だった。
「いてっ……」
思わず声が出てしまった。今の衝撃はなんだったのか。
すると、すぐにそのままバイクが停止した。
「……?」
イズミは不思議そうに周りを見る。どこか離れた所からバイクのエンジン音が聞こえてくる。
一体どうなったのか?
「ごめん、イズミ。大丈夫だった?」
今度は再び落ち着いたカイの声が聞こえた。
「え?」
ふと前に座るカイを見上げる。
「ちょっと無理したからね。でも、これでなんとかまけそうかな」
ハンドルを握ったままカイがこちらを振り返った。
言っている意味が分からずイズミは黙って首を傾げる。
「ほら、彼らはあそこだよ」
そう言ってカイは後ろの方を指差した。
振り返って見ると何か崖のようなものがある。
不思議に思いながらそのまま顔を上げると、その崖の上に先程のアンドロイドが乗ったバイクが複数台止まっているのが見えた。
「は?」
あの崖からバイクで飛び降りたのか?
そう考えていると、
「一か八かだったけど、落ちなくて良かったよ」
とカイの安堵する声が聞こえた。
(落ちなくて良かった?)
嫌な予感がしてイズミは思わずヘルメットを外す。
ヘルメット越しではよく見えなかったが、目の前の崖と自分たちが今いる場所との間に大きな割れ目があったのだ。
「おいっ!」
思わず振り返ってカイを睨み付ける。
まさか崖だけじゃなく、あれを飛び越えたというのか?
「うん、だから一か八かだったんだよ」
まるで心の声が聞こえたかのような答えだった。
ヘルメットを被っていて分からないが、淡々とした声と微かに見えた笑顔にイズミは思わず溜め息を漏らす。
「奴らも越えてくるかもしれないから行こうか」
そう言ってカイは再び前を向く。
イズミはじっと崖の上のアンドロイドを見上げた。
こちらに来るような気配はないが、追ってこないとは言い切れない。
再びヘルメットを被るとぎゅっとカイの体にしがみつく。
ゆっくりと、再びバイクが走り出した。
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