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第18章『真実と別れ』

7話

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 予定外の人物がいることもあるが、気が付けばカオルが先程言っていたようにハヤトの家には9人もの人間が集まっていた。
 
 レナが台所で食事の準備をし始めると、ルカとそれから意外な人物がレナの手伝いをしていたのだった。
「料理までできるなんて、旦那様に欲しいって言う女の子たちが多いでしょ?」
 ふふっと笑いながらレナが話し掛けているのはなんとカイであった。
「そんなことはないですよ」
 負けずに満面の笑みでカイが答えている。
「ほんと~? 絶対モテるに決まってると思うけどなぁ」
 炒め物をしながらレナは後ろで何かを混ぜているカイに向かって問い掛ける。
「持ち上げないでください。ほんとにそんなことはないので」
 にこりと笑ってはいるがどこかこれ以上の詮索を拒否するかのように、カイの周りの空気がぴりっとしていた。
「何作ってるの?」
 ふたりの会話を気にする様子はなく、ルカはカイが作っている手元を覗き込みながら尋ねていた。
「トマトのマリネです。ちょうどプチトマトがあったので蜂蜜も入れて少し甘酸っぱくしようと思います」
「わぁっ、美味しそうっ!」
 手を止めることなくにこりと笑ってカイが答えると、ルカは大きな目を輝かせながら手を伸ばそうとした。
「ちょっとっ!」
 その瞬間、カイの横にぴったりとくっついていたルカをどかすようにして、リョウがふたりの間に割り込んできた。
「つまみ食いはみっともないよっ! ねぇ、カイ兄、何か手伝うことある?」
 驚いて目をぱちぱちと瞬きしているルカを睨み付けると、リョウはすぐにカイを見上げながら問い掛ける。
「ふふっ、大丈夫だよ、リョウ。でもそうだな……じゃあ、これちょっと味見してみて」
 そう言ってカイは、混ぜていたボウルの中からひとつミニトマトを右の親指と人差し指で摘まむと、そっとリョウの口元へと持っていく。
「あーんっ」
 先程つまみ食いはみっともないと自分で言ったことをすっかり忘れたかのように、リョウは嬉しそうに口を開ける。
 そしてカイに口の中に入れてもらうと、口を閉じてもぐもぐと動かす。
「どう? ほんとは少し冷蔵庫で冷やすともっと美味しいと思うけど」
 じっとリョウを覗き込むようにしてカイは心配そうな顔をする。
「ん……はぁっ! 美味しいっ! めっちゃ美味しいよっ!」
 ごくんと飲み込むと、リョウは満面の笑みで答える。
「良かった」
 安心したようににこりと笑うと、カイは左手でリョウの頭を優しく撫でる。
 いつもであればここで怒るところだが、撫でられて嬉しそうにリョウはカイを見上げている。

「ねぇっ、ちょっとタクヤっ!」

 台所の様子を居間にあるソファーに座りながら眺めていたタクヤのところに、ルカがむすっとした顔で近付いてきた。
「ん? どうした? ルカ」
 きょとんとした顔で見上げるが、ルカはなんとも不機嫌そうに頬を膨らませている。
 台所で食事の準備をしていたんじゃないのか? と思いながら、タクヤは姿勢を正してもう一度ルカに問い掛ける。
「ルカ? どうかしたのか?」
「だって……何あれっ?」
 口を尖らせながらルカは台所の方を指差している。
 そこにはカイとリョウが楽しそうに食事の準備をしている姿があった。
「カイとリョウがどうかしたのか?」
 ルカの言いたいことが理解できず、きょとんとした顔のまま首を傾げる。
「ひとのこと、邪魔者みたいにっ」
 ルカは相変わらずむすっと口を尖らせている。
「そんなことはないと思うけど……」
 困った顔でルカを見上げていると、横からカオルが口を挟んできた。
「まぁまぁ。あのふたりは仕方ないぞ、お嬢さん。家族以上の絆がありそうだからな。色男くんが無事に帰って来たから甘えたいんだろう」
 ぽんぽんとルカの頭を軽く撫でながらカオルが宥める。
「でもっ、私だって料理できるのにっ」
「それは頼もしいな。じゃあ、あのおねぇさんの方を手伝ってやってくれないか?」
 不機嫌な顔のルカにカオルはにやりと笑って話す。
「分かった……」
 どうやらあれで納得したようだ。
 ルカはこくりと頷くとそのまま台所の方へと戻っていった。
「意外だな……」
 じっとカオルを見上げながらぼそりと呟く。
 普段ふざけたり揶揄ったりばかりのカオルがあんなことを言うなんてな、と考える。
「保育士にでもなればいいんじゃないか?」
 すると、タクヤの隣でソファーに座り本を読んでいたイズミが、ふたりの会話を聞いていたようでぼそりと話した。
「そうだなぁ。イズミちゃんを育てた経歴もあるしな。目指してみるか」
「アホか」
 にやりと笑って答えるカオルを心底呆れた顔でイズミが見上げる。
「そう言うイズミちゃんは手伝わないのか?」
 腰に手を当て体を屈めながらカオルはじっとイズミを見下ろした。
「なんで俺が。別にやりたいやつがやればいいだろ」
 ふんっと鼻を鳴らすと、イズミはそのまま本に視線を戻す。
「俺もイズミのご飯食べたかったな……」
 じっと隣のイズミを見つめながらタクヤがこぼす。
「知るか」
 また今度、とでも言ってくれるのかと思いきや、思い切り拒否されてしまった。
「なんだよ……作ってくれてもいいのに」
 今度はタクヤがぶすっとむくれる。
「ははっ。タクヤ、お前は本当にイズミのことを分かってないなぁ。今はこれだけ人がいるんだ。そいつらの為じゃなくてお前だけの為ならいいってことだろう」
 大きく笑いながらカオルが口を挟んできた。
「違うっ!」
 それを聞いてイズミは目を大きく見開きながら叫ぶ。
「そんな思い切り否定しなくても……」
 やはり拒否されてしまってがっくりとしてしまうのだった。
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