選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由

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8.好きなもの


私が困惑しているとそれを見越してか、奥にいた綺麗な格好の男性が近寄ってきて祖母の背を叩く。

「ティティ、とりあえず二人を中で迎えてやろう。
それにナタリーの話も聞かなければ。これまでずっと話もできなかったんだ。たくさんナタリーの話を聞きたいじゃないか」

その男の人の言葉に祖母ははっとしたかのように私を離した。

「そうね、そうね。ごめんなさいね。ようやく逢えて、あまりにも嬉しくて気が動転してしまったわ。ナタリーもジャリッタさんも遠いところ大変だったでしょう。さあ、入って頂戴。
ルド、馬車は頼むわね」

祖母の言葉に執事服を着た男性が「かしこまりました」と返事をして、リッタさんから手綱を受け取った。

私は手を取られ御者席を降りると、祖母とともに歩き始める。
祖母の隣には先ほど中に案内しようと言ってくれた男性がいる。

母と同じ髪の色を持ち、鼻筋もよく似ていると思う。
そして、祖母に手を引かれて歩く私に愛しむような視線を向けてくれる男性。

ずっと誰にも愛されていない。
誰にも必要とされていないと思っていた。

だからこそ、この空間はどうしていいかわからず困ってしまう。
でもそれと同じだけ、なんだか暖かいもので胸が溢れてくる。

みんなでソファーがある部屋に着くと、祖母が手を繋いだまま広めのソファーに腰を下ろし、隣をポンポンと叩く。
そこに座るようにということなのだろう。
私がおずおずと横に腰を下ろすと距離を詰めるように祖母が近くに座りなおした。
そして私の反対側には祖父だろう人が腰を下ろした。

目の前のソファーにはリッタさんが一人悠々とソファーにかけている。

いつの間にかお茶が用意され、目の前に置かれると、それと同時にテーブルいっぱいにケーキや焼き菓子、フルーツが並べられた。

「3日間も移動してきて疲れたでしょう。さあ、好きなものを食べて。

それにしてもこんなに瘦せて、ちゃんと食べてるの?好きなものはケーキ?それともフルーツ?ここにあるのはマリアが大好きだったものばかりだから好きなものがあるといいんだけど。でもほかのものがよかったら言って。なんでも準備するわ。

なにが好きかしら?あなたと最後にあったのは5歳の時だもの。きっと好きなものも変わっているわよね。毎月マリアの命日にはあなたにフルーツとケーキを送っていたけれど好きじゃなかったかしら。

でもそうよね。好きならばこんなに痩せていたりしないわよね。そうならそうとマルクさんも言ってくれればいいのに」

そう言いながら祖母はケーキの皿もフルーツの皿も引き寄せてくれたけれど、私は祖父母の前で粗相がしたくないから、何も食べたくなかった。

だって食べたら吐きたくなってしまう。
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