選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由

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38.まずは身分詐称について

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コンコン

「あいわかった。その他、話をしたいものがあるかもしれないがそれは後ほど聞くこととする。

それでは裁判職員、カルラド・マクレドより提出のあった証拠書類は皆に配るように。

それをもとに私たちの方から質問を行う。

まず1つ目の質問はわかりやすいところからいこうか。

そちらにいる女性、夜会ではナタリアと名乗っていたようだが、今の話では虚偽の可能性があるようだ。改めて自分の名前を名乗るように」

そこで初めてアルバがキョロキョロとあの男とヨランダそしてグレン様の顔を見た。
しかしその視線に応えるものは誰もいなかった。この場での虚偽の発言は罪に問われる。それがわかっていながら肯定していいとは言えなかったようだ。しかし反対に本当の名前を名乗ればそれは身分詐称していた事がこの場で証明されてしまうという事。どちらにしても罪を認めることにしかならないのだ。

そうして皆が黙ったことでようやく事の重さがわかったのか、アルバが取った方法は黙ると言うものだった。何も答えない、そうであれば何も示せないとそう思ったのかもしれない。


「そうか。何も答えないと言うことだな。

では質問者を変えよう。マルク・パレドス、そこにいるそなたの娘の名は?…



そうか、こちらも回答はないという事だな。

これでは審議が先に進まないため、こちらで先ほど提出のあった宣誓書を読み上げる。父上、あなたの名前はマルク・パレドス、そしてその娘の名前はアルバ・マルクスと記入がある。この署名に虚偽があった場合、即刻罪に問われると言う事は先に説明があった通り。

この署名が嘘か、それともパーティーでの紹介が虚偽かどちらかはっきりしてもらおう」

裁判長のその声掛けに観念したのか、力のないあの男の声が聞こえてくる。

「……申し訳……ありません………この娘はアルバ・パレドスです」

ある日、ナタリアが急に部屋から姿を消したことにより、アルバをナタリアとして社交界デビューさせてしまおうと思ったのだという。しかし、事前から計画していたことではなく、ナタリアが姿を消したことでその考えが浮かんでしまったと言った。このような安易な行動をしてしまい申し訳ないと謝っていた。

その謝罪は本当に後悔しているように見え、まるで同情を誘うような謝罪に、一部はどこか同調するようなささやきも聞こえた。
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