選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由

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70.息子は死んだ

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未だなお、この男は自分が悪い事を理解できていない。
悪い事をしたことではなく”後悔”したのだ。
人一人を殺してしまって、自分の娘さえを殺してしまいそうになってなお、”後悔”したのだ。

それもいい年をした大の男が。

なんて恥知らずか。

なんて愚かなことか。

なんて……なんて………

あの男の言葉に2人は何も応えることなく、牢を後にしたそうだ。
自分たちの息子”マルク”は今日を限りに死んでしまったのだと思うことにして。

そして今日この家にきた理由が、子爵家の管理を伯爵家にお願いしたいというもの。

遠縁の子を養子として迎え入れることも可能だが、今更自分たちで人を選び育てるのは怖いのだと。

だからナタリーに子が2人以上でき、もしその子が継いでいいと言ってくれたらその子に継いでほしいと。継ぎたくないと言った場合、爵位返上を申し出るからその点はあまり気負わなくていいと言われたのだ。

私がその返答に困っていると、カル祖父様が「わかりました」と答えていた。
私が思わずカル祖父様を見るとにこっとだけ笑った。
そのあとはカル祖父様とフランク祖父様、そしてルド伯父様も加わって子爵家について話をすすめていた。

私はティティ祖母様とイサベル祖母様と庭園が見えるテラスでお茶をして過ごした。
花の話や社交界の話をしながら、思いついたように何度も母の話になった。笑顔で話す2人だけど、時折目の端に涙がにじんでいたのは気づかないふりをした。

しばらく話をしていると祖父たちが食事の時間だと迎えに来てくれた。
その日はみんなで食事を共にし、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

そして「また会いに来るよ」と私を抱きしめて、2人は帰っていった。

2人はアルバと会ったあのパーティの日、こうしようと決めたのだと言った。自分の大切なものを守ることのできない当主など頼りなさすぎるからと。
だから裁判が終わった直後、こうして日を改めて伯爵家に面会をお願いしていたそうだ。

私は祖父母に責任をとってほしいなんて思っていない。
けれどカル祖父様にそういうと、今は責任を持たない立場でゆっくりするのもいいだろうと言っていた。こんなことになってしまって、きっと2人の心は疲れてしまっただろうからと。
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