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侯爵邸に着き、お父様とお母様と一緒に門のアーチを潜るといつものように俯きながらも少しニヤニヤとするロディ様を見つけてしまった。その左腕には主役のように真っ赤なドレスを着飾った令嬢をくっつけて。

なんだか驚くような光景に思わず足を止めてまじまじと見つめてしまうと母が私の方も見ることなく、楽しげな声で聞いてくる。

「まぁ。ねぇ、サリー?あそこでニヤニヤと薄気味悪い顔をされているのはあなたの婚約者ではなくて?」

「へ?あ、そうですね…」

「ねぇ、あなた?あなたが勝手に結んだサリーと婚約関係にある殿方というのはあの方よね?私があれだけ反対した婚約をあなたが突き通した素晴らしい婚約者様はあの方なのよね?」

あっ、お母様……ものすごく怒ってらっしゃるわ…というか、お母様婚約反対してくださったのね、とその優しさになんだか微笑んでしまうも隣の父は顔面蒼白になっている。

「っと……そ、そのようだね…」

?あなた目は見えていますの?あんなに胸元が開いた真っ赤なドレスを着た娼婦のような女性を腕にくっつけている彼がサリーの婚約者ですって?明日には婚約破棄の手続きをいたしますよ。宜しいですわね?」

「いや、それは「宜しいですわね?!」…はい……」

お母様ってこんなに強かったのね……こんなに怒ってらっしゃるのがわかるのにずっと笑顔なのが一番怖いわ……母は怒らせてはいけない。これからのサリーの教訓になる出来事だった。

こんなやりとりがあっても入り口に留まり続けるわけにもいかず、中に歩き出すとロディ様の腕にしっかりとくっついている女性と目が合う。女性はニヤリと口角を上げるとロディ様の耳元で何かを囁き、こちらに向かって二人で歩き始める。

何か嫌な予感がするも主催者の息子、まして婚約者に挨拶しないわけにもいかない。ロディ様と目が合い、スカートの裾をもちあげ挨拶をしようと

「ロディ様、本日は

「サリー・ナシェルカ伯爵令嬢、あなたの婚約は破棄いたします!」

……………え?

高らかに宣言された婚約破棄の声はドルマン侯爵の庭に響き渡った。

その甲高い声が……

え?まずあなたはだれ??

そう。婚約破棄の宣言はロディ様の腕にくっついていた女性よりもたらされた。

ふと横の母に目をやると、額に1本の血管が浮き出てヒクヒクとしていた。

「ちょっと!黙ってないでなんとか言いなさいよ!?」

再度甲高い声が響く。

「えと……まずお名前を伺っても宜しいですか?」

婚約破棄の前にそんな素朴な疑問が口をつく。

「あっ、失礼しました。私ピーチル・ロシェンカと申します」

と、スカートの裾を摘んで挨拶をされる。

一応常識はあるのね。と、驚いてしまう。そんなことより、ロシェンカと言えばロシェンカ男爵ね。

「ロシェンカ男爵令嬢、ごきげんよう。私サリー・ナシェルカと申します。」

私も淑女として簡潔にだけ挨拶を行いますわ。

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