シークレットベイビー~エルフとダークエルフの狭間の子~【完結】

白滝春菊

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反抗期編

子供同士の衝突

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 予定通りステラを学校に通わせる前に一度、学校の見学をすることになった。
 生徒は人間が多いが獣人やドワーフ、ハーフエルフもいる。種族による差別は無く皆平等に接してくれるらしい。
 そこではステラと同じような年齢の子供から年上の子供までいるようだ。

「まさかあのシリウスさんにお子さんがいてこんなに大きいとは思いませんでしたよ」
「俺もです」

 シリウスの隣には校長がいて案内をしてくれている。その後ろをアステルとステラが続く。今日は帽子や頭巾を被らずにエルフであることは隠していない。

「今日は体験入学ということで、授業を受けるわけではなく校内を歩いてもらいます」
「はいっ」

 校長がステラに視線を向けると彼女は元気よく返事をし、アステルとシリウスが微笑ましそうにステラを見つめている。

 そして幼い子供が集められている教室にやって来て、女の先生と一緒にステラが中に入ると子供たちが一斉にステラの方を見た。

「みなさん、こちらはステラさんです。今日はお試しで来てもらいました。仲良くしてあげてくださいね」
「よろしくお願いします」

 ステラがペコリと頭を下げると子供達はパチパチと拍手をする。

「それじゃあ、ステラさんの席は一番後ろの空いている席に座ってください」
「あ、はい」

 ステラは指定された席に座るのを教室の外から見届けるとシリウスは教室には入らずにアステルに声を掛ける。

「俺が入ると面倒なことになるからアステルだけでステラの様子を見ていてくれないか?」

 シリウスは有名な騎士であり、子供にも人気があるので入ると騒ぎになるのは目に見えていた。だからステラの様子を見られるのはここまでである。今回はアステルだけに任せることにしたのだ。

「わかったわ。シリウスはどうするの?」
「俺は校長の話を聞いておく。学校については詳しくないからな……」
「うん、後で合流しましょうね」

 アステルはシリウスの考えに納得をして教室に入っていった。

 授業中、ステラは話を聞いているだけだったが話を内容を理解しているようで時折小さくうなずいていた。そして休み時間になると早速ステラの周りに人が集まり始める。

「可愛い!妖精さんみたい!」
「耳尖ってる……」

 ステラはエルフの子供ゆえに耳が尖っていて他の子と違う容姿をしている。それを褒められると顔を真っ赤にして照れているようだ。
 その様子をアステルは離れていた所から眺めていると先生が近寄り、話を始めた。

「どうですか?ステラさんの様子は?」
「ええ、これなら大丈夫そうです」
「よかった。シリウス様に似てたくましい子に育って欲しいですね」
「ふふ、そうですね」

 アステルはステラを見ながら笑みを浮かべ、先生との話を続けている間にステラは質問攻めに合っていた。

「どこから来たの?」
「えっと……遠くの村」
「シリウス様の子供なのって本当?」
「そうなの?いいなぁ、シリウス様がお父さんだなんて!」
「おとう、おじさんは……」
「おじさんだって!お父さんじゃないのかよ」

 ステラが口ごもると周りの子が笑い始め、一人の男の子がステラに近づいてきた。

「シリウスはお前の本当の父さんじゃないの?」

 目の前に現れたのは獣の耳を持つ男の子のレオだ。彼の瞳はどこか希望に満ち溢れている。

「え、あ、ステラのお、おとう……」
「よかった!じゃあ、シリウスを僕にちょうだい!」

 突然の申し出にステラは戸惑いながらアステルに助けを求めようと彼女を探すがアステルはいつの間にか先生とどこかに行ってしまっていた。
 ステラは助けを求めるように周りを見ても皆が目を逸らす。皆も気になっていたのだ。ステラがなんて返事をするのか。ステラの返答を固唾を飲んで見守っている。視線に耐えられなくなったステラは小さな声で言った。

「ダ、ダメ、おじさんはお母さんが好き、だもん……」

 その言葉にムキになってレオは反論した。

「シリウスは僕や僕の母さんの方が好きだよ。それにお前、シリウスと遊んでないじゃん。僕はシリウスに肩車とかしたけどお前とは遊んだりしてくれないだろ?」

 ステラは強い衝撃を受けた。あのシリウスが自分と母よりも好きな子供と女性がいるのだと。シリウスと過ごした時間はまだ浅く、幼いステラには嘘か本当かなんてわからない。ステラはそれが真実なのだと信じてしまった。ステラはショックのあまり固まってしまう。

「それにお前、全然シリウスに似てないじゃん!シリウスは髪、銀色だし肌も黒いけどお前は髪が金色で肌も白いじゃん!似てないじゃん!」

「……っ」

 ステラは目を見開いて驚き、思わず立ち上がった。夜になれば髪も肌の色も同じだと言えばいいのに頭の中がぐちゃぐちゃになり、絞り出た言葉は……

「お、おじさんなんかいらない!あげる!」

 涙を溜めた瞳で叫びながらステラは教室を出るとそこにはシリウスが立っていた。
 聞かれたのだ。今の会話を。ステラは絶望的な表情をしてシリウスを見つめる。
 呆れられた。嫌われた。そう思った瞬間、ステラの目からは大粒の涙が溢れ出した。

「あ!シリウス!聞いてくれよ!こいつ、シリウスがいらな……」

 シリウスの存在に気づいたレオが何か言おうとしたが、その前にシリウスがステラを抱き上げた。

「ステラ、大丈夫だ」

 優しく語りかけるシリウスの声にステラはそのままシリウスの肩に顔を埋めた。

「ふぇ……うぅ……あげないもん……ステラの『お父さん』だもん……」
「ステラ……」

 ステラに「いらない」と言われた時はショックだった。嫌われるのも拒絶をさせるのも慣れていたと思っていたが、心の底ではやはり悲しかった。
 だがその分、初めて父と呼んでくれたことにシリウスは嬉しさを感じていた。

「な、なんでだよ……ずっと一緒にいたのは僕なのに……僕の方がずっとシリウスが好きなのに……」
「すまないレオ、俺はステラの父親でアステルの夫なんだ。だからお前の父親にはなれない」

 レオが泣き出してしまうとシリウスは申し訳なさそうに謝る。今まで何度も断り続けて、何度も諦めずに言ってきたレオだったが今回はシリウスに抱きかかえられるステラの姿を見てどうしようもない敗北感を感じていた。

 その後、騒ぎを聞きつけたアステルと先生が駆け寄ってくるとアステルがステラをなだめて先生はレオを慰めながら様子を見ていた子供達から事情を聞くことになった。

 ◆

「ステラ、学校は行けそう?」

 体験入学を終えたステラは父と母の間を歩けるほど元気を取り戻し、笑顔を見せるようになった。ステラと手を繋いで右側を歩きながらアステルは尋ねる。

「いじわるな子がいたの」

 レオの事だろうか、とシリウスが不安に思っていると、ステラは意外な事を口にする。

「でも、いいよ。ステラの方が強いもん」

 そう言ってステラは満面の笑みを浮かべた。何を根拠に言っているのかわからないが自信があるようだ。

「だってステラはお父さんの子だし」

 「お父さん」と呼んだステラにアステルは驚嘆し、そして笑みを浮かべる。
 ステラは空いていた左手でシリウスの大きい手を掴むとぎゅっと握る。シリウスもそれをしっかりと握り返した。

 その姿をレオを迎えに来たマキが遠くから眺めていたが、何も言わずに立ち尽くしていた。
 金色の髪に青い瞳の美しい女性がシリウスの妻だ。そして普段は帽子で隠れて見えなかった彼女の耳を確認できた。それは普通の人間にはあり得ない、長く尖った耳。彼女はエルフと呼ばれる種族だ。
 エルフとは長寿であり、希少な種族な為、森の奥深くに住み、滅多に姿を見せないと死んだ夫から聞いたことがある。

「エルフ……だったの……」

 シリウスの妻はエルフだった。ダークエルフのシリウスとは同じ時間を生き長らえることのできる種族。
 この世界ではダークエルフはエルフにもっとも嫌われている存在だ。理由は昔のダークエルフが起こした事件が原因だと言われているが、マキには詳しくはわからない。
 わからない上に、この世界の人間と価値観の違うマキからしてみれば決して相容れないはずのエルフとダークエルフの夫婦は色が違うだけのお似合いの夫婦だと思えた。

「母さん……」

 息子のレオが酷く落ち込んだ様子のマキに声をかける。いつもは明るく振舞ってはいるものの、母の前では無理をしていることをマキは知っていた。

「帰りましょうか」

 マキは息子の手を掴んで歩き出す。新しい父親を見つけてあげるのはもっと先になるのかもしれない、と思いながら
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