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弟子と母親編
支え合う
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アステルが目覚めると心地よい温もりに包まれていた。彼女は一瞬、自分がどこにいるのかを理解するのに時間を要したが次第に思い出した。
夕食を作った後、リビングで力尽きてしまったのだ。目をこすりながら周囲を見渡すとベッドの上、柔らかなシーツと枕に囲まれた自分の姿を認識する。ここにいるということは優しいシリウスが自分を運んでくれたのだろう。
「まだ起きてるのかな……」
時計に目をやると夜中の十二時を過ぎていた。ステラは一人で眠れるようになったので自分の部屋で眠っていると思うがシリウスの姿はこの部屋には見当たらない。彼女は寝室を後にし、静かな家の中を歩き始めた。
柔らかな足音が廊下に響き、ほんのりとした光が部屋を照らしている。アステルは心の中でシリウスが何をしているのか気になりながら、家の中を歩き回り、最後に工房のある部屋に足を向けた。
部屋の明かりが漏れ出ている。ドアを静かに開けるとそこにはシリウスがいた。彼はテーブルの前に座り、真剣な表情で薬草を選別している。緑色の葉やが並べられ、彼の手元は慎重さに満ちていた。
「起きたのか」
アステルに気がついたシリウスは振り返らずに声を掛ける。その声は温かく、彼女の心を穏やかにする。アステルは彼の隣に座り、その手元を覗き込んだ。
「シリウス、そんなことをしなくていいのよ。寝てていいから……」
薬草は店で買ったものでも全部使えるわけではない。
大量に買った物の中には枯れていたり傷んでいる物もある。だから使えるものだけを残して後は捨てないといけなかったが、シリウスにそんな負担をかけさせたくなかった。
この仕事を引き受けた時に誓ったことは全部自分でやろうと思っている。
昔は……エルフの集落にいた頃は居候をさせる変わりに手伝ってもらっていたが今は違う。今はシリウスの方が稼ぎが多く、騎士として活躍をしている。だからこれくらいはアステルがやるべきだと思っていたのだ。
「俺にはこのぐらいしか助けてやることがないからな」
「そんなことはないわ……充分すぎるほどに助けてもらっているもの……」
「……人を雇ってみないか?」
シリウスが手を止めるとアステルに向かってそう提案をした。赤色の真剣な瞳が青色の瞳を見つめる。
「人を雇ったら簡単な作業を任せればいい。そうすればアステルが無理をしなくても済む」
「それは……」
アステルは戸惑った。確かに人を雇えば彼女の負担は軽くなるだろう。余計な心配をかけてこうやってシリウスに手伝いをさせてしまうこともなくなる。
しかし、赤の他人と共に薬を作るという不安も胸にあった。
「良くない奴が来たらアステルは不快な思いをするのかもしれない……俺もそれが心配だ」
「シリウス……」
「だが……アステルが無理をして体を壊せばステラが悲しむ」
シリウスが彼女の肩に手を置き、真剣な眼差しで見つめる。その瞬間、アステルは彼の心の深さを感じた。彼は本当に自分とステラを思っているのだ。
「……わかったわ、明日にでも道具屋さんに相談してみる」
「ああ」
彼女は決心する。シリウスの表情がほっと緩み、安心の色が浮かんだ。
「ありがとう、シリウス。私とステラの事を考えてくれて」
「俺は……当たり前のことを言っただけだ……」
アステルがお礼を言うとシリウスは顔を赤くして目を逸らした。そんな照れ屋な夫の姿を見て愛しさがこみ上げる。
「……大好きよ、シリウス」
彼女は心から伝え、彼に抱きついた。彼女の優しい声と温もりに包まれ、シリウスはますます彼女の存在を大切に思った。
夕食を作った後、リビングで力尽きてしまったのだ。目をこすりながら周囲を見渡すとベッドの上、柔らかなシーツと枕に囲まれた自分の姿を認識する。ここにいるということは優しいシリウスが自分を運んでくれたのだろう。
「まだ起きてるのかな……」
時計に目をやると夜中の十二時を過ぎていた。ステラは一人で眠れるようになったので自分の部屋で眠っていると思うがシリウスの姿はこの部屋には見当たらない。彼女は寝室を後にし、静かな家の中を歩き始めた。
柔らかな足音が廊下に響き、ほんのりとした光が部屋を照らしている。アステルは心の中でシリウスが何をしているのか気になりながら、家の中を歩き回り、最後に工房のある部屋に足を向けた。
部屋の明かりが漏れ出ている。ドアを静かに開けるとそこにはシリウスがいた。彼はテーブルの前に座り、真剣な表情で薬草を選別している。緑色の葉やが並べられ、彼の手元は慎重さに満ちていた。
「起きたのか」
アステルに気がついたシリウスは振り返らずに声を掛ける。その声は温かく、彼女の心を穏やかにする。アステルは彼の隣に座り、その手元を覗き込んだ。
「シリウス、そんなことをしなくていいのよ。寝てていいから……」
薬草は店で買ったものでも全部使えるわけではない。
大量に買った物の中には枯れていたり傷んでいる物もある。だから使えるものだけを残して後は捨てないといけなかったが、シリウスにそんな負担をかけさせたくなかった。
この仕事を引き受けた時に誓ったことは全部自分でやろうと思っている。
昔は……エルフの集落にいた頃は居候をさせる変わりに手伝ってもらっていたが今は違う。今はシリウスの方が稼ぎが多く、騎士として活躍をしている。だからこれくらいはアステルがやるべきだと思っていたのだ。
「俺にはこのぐらいしか助けてやることがないからな」
「そんなことはないわ……充分すぎるほどに助けてもらっているもの……」
「……人を雇ってみないか?」
シリウスが手を止めるとアステルに向かってそう提案をした。赤色の真剣な瞳が青色の瞳を見つめる。
「人を雇ったら簡単な作業を任せればいい。そうすればアステルが無理をしなくても済む」
「それは……」
アステルは戸惑った。確かに人を雇えば彼女の負担は軽くなるだろう。余計な心配をかけてこうやってシリウスに手伝いをさせてしまうこともなくなる。
しかし、赤の他人と共に薬を作るという不安も胸にあった。
「良くない奴が来たらアステルは不快な思いをするのかもしれない……俺もそれが心配だ」
「シリウス……」
「だが……アステルが無理をして体を壊せばステラが悲しむ」
シリウスが彼女の肩に手を置き、真剣な眼差しで見つめる。その瞬間、アステルは彼の心の深さを感じた。彼は本当に自分とステラを思っているのだ。
「……わかったわ、明日にでも道具屋さんに相談してみる」
「ああ」
彼女は決心する。シリウスの表情がほっと緩み、安心の色が浮かんだ。
「ありがとう、シリウス。私とステラの事を考えてくれて」
「俺は……当たり前のことを言っただけだ……」
アステルがお礼を言うとシリウスは顔を赤くして目を逸らした。そんな照れ屋な夫の姿を見て愛しさがこみ上げる。
「……大好きよ、シリウス」
彼女は心から伝え、彼に抱きついた。彼女の優しい声と温もりに包まれ、シリウスはますます彼女の存在を大切に思った。
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